もう気づいてる? BLから百合からビッチ(?)まで、いま、台湾マンガがめちゃくちゃ熱い!
「先生 父さんは今 病気のせいで苦しんでいます 先生 僕に幸せになる資格はありますか?」
『青春ディソナンス』
いや、タイトルの通り、いま、台湾からの翻訳マンガがひじょうに面白いことになっているので紹介しようという趣旨の記事なのですが、じつはほんの何日か前までぼくはその事実をまったく気づいていなかったので、あまり偉そうに「え、知らないの? 情弱乙www」とかドヤれないんですよねー。
まあ、ふつう知らないし、そもそも想像だにしないよね、台湾マンガがここまで面白いということは。
「ここまで」ってどこまでだよ、と思うかもしれませんが、ほんとに面白いんです、台湾のマンガ。もちろん、日本で翻訳され出版されている作品はその市場のなかの「トップ・オブ・トップ」、限られた最高傑作の一群なのだろうとは思うけれど、それにしてもめちゃくちゃ出来が良い。
ぼくはBLから百合まで出ているものをひと通り読んでみましたが、なんというかふつう、翻訳ものに付きまとうはずの「何かちょっと違うな」という「違和感」が皆無なんですよね。
映画『青春18×2』を観たので、台湾の現代若者文化がかぎりなく日本に接近していることは知っていましたが、だからといってここまでそのディティールまで日本マンガに近い(でも、やっぱりちょっとだけ違う)カルチャーが栄えているとは思っていませんでした。
韓国マンガはピッコマあたりで読めるし、それはそれで面白いんだけれど、日本人が読んだ時の違和感のなさという意味では台湾マンガは韓国マンガを上回るものがあると思う。
何しろ、あまりにも「ふつうに」燃えるし萌える。「ふつうに」という言葉をポジティヴな文脈で使うことはどうかとも思うのですが、この場合に限っては積極的に使っていきたい所存です。いや、ほんと、ふつうに面白いんだよ!
しかし、なぜここ数年になって台湾マンガの翻訳がひっそりと進んでいるのか?
その背景にはもちろん海外のマンガをどうにか日本に持ってきて読んでもらおうという人たちの偉大な努力があるのでしょうが、ぼくもあまりくわしくないので以下のような記事をご参照ください。
アラフォーからアラフィフに至るぼくたちの世代の人間が「台湾の漫画家」といってまず思い出すのは、往年の天才作家・鄭問でしょう。
この人は日本人の目から見ても圧倒的としかいいようがない超絶の画力と異様なストーリーテリングで日本のマンガオタクを唖然茫然とさせたまさに鬼才だったのですが、日本での出版はかぎられた作品にとどまってしまいました。
その頃の日本では、まだかれのような外国の才能を活かし切る条件が整っていなかったのかもしれません。いや、ほんと、とんでもないマンガちからをもつ人だったので惜しかったのですが、しかたないといえばしかたないですね。
で、それから長い時が経っていま、ようやく、韓国や台湾のマンガがさまざまなルートをたどって読めるようになった時代が来ているわけです。
ちなみに、ピッコマで読める韓国の縦読みマンガだと、『ジャンル変えさせて頂きます!』がなぜか(なぜだろ)やたら面白く、個人的なオススメなのだけれど、それは今回の記事の趣旨からちょっとズレるので、いつかまたべつの記事に仕立てることにします。
いや、ほんと、面白いんだけれどね。大好きなんだけれど。
で、台湾マンガです。孤独で孤高な天才漫画家の来日からずいぶんと時間が過ぎ去り、いまのぼくたちは台湾のマンガを「群」として発見することができます。
かの先人のマンガは「あくまで抜きん出た天才の仕事」だった印象ですが、いま、ぼくなどが買って読んでいる台湾マンガはどれも「いかにも日本人にとって感覚的に近いとびっきりのエンターテインメント」に他なりません。
いや、何というか、ほんとに日本のどこかのオタク男女が描いたんじゃないこれ?ってくらい自然な感じなんですよね。
しかも、いたって当然ながら作品によっては台湾独自のオリジナリティがあり、日本マンガに慣れていて「日本のマンガは世界一イイイイイイイイッ!」とシュトロハイムよろしく思い込んでいる人にとっても(どうもこのネタ、なつかしいね。通じない人はちゃんと『ジョジョ』第二部を読もう)、ちょっと驚異を感じるくらい素晴らしいのです。
まあ、本来だったらマーケットの巨大さから考えて中国のマンガやアニメはとっくに日本を乗り越えていてもおかしくないわけなのですが、ご存知の通り、あの国では政府が率先して文化を潰しているので、残念ながら少なくともしばらくのあいだはそういうふうにはなりそうにないんですよね。
言論と表現の自由がいかに大切なものであるかわかる、他山の石としたいできごとなのですが、とにかく中国にはあまり期待できない。一時期、注目されていた香港もいまや中国の一部なので、やはりむずかしいところがあるでしょう。
そこで台湾ですよ、台湾。台湾といえば日本を上回る萌え文化が発展していることが一部日本のオタクには知られているわけですが(え? 知らない? そうなんですよ)、珠玉のマンガ文化もじつはあったんですね。
今回、ぼくがオススメしたいのはたとえば楊双子(ほんとに双子のマンガ家らしい)の『綺譚花物語(きたんはなものがたり)』。
知っている人は知っている昭和のレズビアン小説家・吉屋信子の百合短編集『花物語』からタイトルが採られていることからもわかるように、優れた百合マンガ四篇が収録された短編集です。
いや、これ、良いよー。そうとうの百合オタでもまだ気づいていない人もいると思うけれど、百合好きならゼッタイに気に入る作品ばかりのショーケースで、しかも台湾文化の勉強にもなるので、読んで損はない作品といえる。
電子書籍になっていないのが少々つらくはあるものの、紙の本で読むのもまた楽しいでしょう。
いやあ、この本に出てくる女の子たち、ほんとに日本人とものすごく通じ合うスピリットを持っていることがわかる子ばかりなので、百合オタが読めば萌え転がることまちがいなし! すばら。
昔、金庸の武侠小説を読んだときも思ったけれど、やっぱり東アジアの文化ってきわめて近いものがあるんですねえ。感心してしまう。
で、もう一冊、これは読んでおいてほしいなと思うのはそのタイトルからしてぶっ飛んでいる『T子の一発旅行』。
なんとこれは台湾の女性が日本に旅行にやって来たときのことを描いたエッセイマンガ。どこが「なんと」なのかといえば、旅行の目的がズバリ、性的なものなんですね。
まあ、はっきりいってしまうと「日本のイケメンとセックスがしたい! それもできるだけたくさん!!!」という「T子」なる女性のうまくいったりいかなかったりするエッチなトラベル/トラブルがきわめてあけすけに描写されているわけです。
何ともビッチだなあと思ってしまいますが、ここまであかるく描かれてしまうとまったくイヤミがない。
ほんとにひたすら男のからだけをめあてにしている人なので、まあ「なんだこの女、淫乱か」と思う読者もいるだろうけれど、そりゃ、女性のなかにもココロよりカラダが大切!と思う人もいるでしょうよ。
女だったらだれもがロマンティックな恋愛を求めているというわけでもないのです。まあ、そうはいっても彼女はだいぶマイノリティのほうでしょうけれどね。ほんとに心からセックス好きそうだものなあ。ここまで目的がはっきりしているといっそすがすがしい。
日本ですらちょっと見たことがないようなタイプのマンガなので、ぜひ、マンガ好きを自認する方は読んでみてほしいです。どちらかというと女性のほうが共感したりしなかったりで楽しめるかもしれません。
百合、ビッチと紹介したので、次はBLもあるよというところを見せておきましょう。
『世界の終わりも君といっしょに』。台湾のボーイズ・ラブマンガで、わりとふつうに面白いです。最近、中国に何重もの国家検閲をかいくぐった傑作BLがあることは日本でも知られるようになっていますが(もちろん、知っている人しか知らないわけだが)、台湾のBLはまたひと味ちがい、なんというかのびのびとボーイズにラブしています。
タイトルの通り世界の終わりを描いたお話なんだけれど、世界が終わってもいちゃいちゃしている男どもが「おまえら、いいかげんにしろよ」という感じで愛いです。
あるいは『青春ディソナンス』はもうちょっとだけシリアス寄りですね。やっぱりいくらかいちゃいちゃはしていますが、日本のBLよりちょっとリリカルに情緒的(?)かなって感じでぼくは好きです。あえてBLというほどBLではないかも。昔の日本の少女マンガみたい。
また、百合でもビッチでもBLでもないきらら系っぽい日常マンガとして『ぽかぽかたいわん!』というのも出ていますね。台湾が舞台の空気系って感じ。
いや、ほんと、色々なタイプの作品が市場に翻訳されて来ていて、すごく嬉しいです。この火を絶やさないためにも、あなたもぜひ台湾マンガを楽しんでみましょう!
その他にも『僕の声を聞いてほしい!!』とか、『緑の歌』(傑作!)とか、面白いのがたくさんあるんです。
最近、ぼくはなにげなく読んでみたら傑作だった『ラブ・バレット』の作者がアメリカ人女性だったことを知ってキョーガクしたのですが、もう「日本風のマンガ」は世界中で描かれるようになってきているのですね。
これは日本人にとっては脅威であるのかもしれませんが、いち読者に過ぎないぼくとしてはもっともっと広まってほしいし、色々な国のマンガを読んでみたい。
おそらくそういった文化交流こそが、くだらないイデオロギッシュな対立を超えて、「平和」を「相互理解」をもたらすことでしょう。ソフトパワーは強いのだ。えっへん。
うん、台湾マンガ、面白いよという記事でした。でわわわ。