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海をあげる

きみが私に触れる時、私の中に海が広がる。
深く遠く、凪いだ海があらわれる

海は、穏やかな波をもって肌に触れる。
いつも私と違う温度で、波は優しく体を包む。魚だった頃に戻れそうなくらい安らいで、ずっとそこにいたいと思う。

ささやかに寄せる波は触れることができる。
なのに決して私と溶け合わず、掴むことはできない。

遠い、美しい青色は、憧れ。
きみがくれる景色は確かに私の中にある。
きみに見せたくてすくった途端、ただの透明な塩水に変わってしまう。

何度でも、どんな大きな器をもってしても、発した途端に意味が分散して、伝えたいことの全部をそのまま伝えることはできない。

すぐそこにいるのに、欠片程度の気持ちしか渡せない。それがひどく寂しい。


この海にいることの幸せを、この海をくれるきみに伝えたいのに

いっそこの海をそのまま捕まえて、きみに渡せたらいいのに。
そうしてきみが、その大きさに驚いてくれたらうれしい。私のと同じくらい、きみを満たせる海になれたらいい。

だからわたしの海をあげる。
いつかきみの海を見せてほしい

きみの思うままの海でなくてもいい。
ただ誰より近づきたいだけ

溶け合うことができなくても、それでもきみを知りたいから

だからわたしの海をあげる

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