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イマドキの小学生はみんなiPadを持っているらしい

先日、小学校の頃の恩師と話す機会があった。
情報の授業を担当していただいていた方で、今もIT教育に関わり続けている。その方から、衝撃的な事実を聞いた。

先生「今の情報室、パソコンは一台もないからねえ」

は?

先生「みんなiPadを買ってもらって、それで授業してるんだ」

ほう? なるほど。
確かにiPadは直感的な操作が可能なデバイスで、教育目的のアプリもたくさんあるから、小学生にはうってつけだと思う。
でも。ひとつ、気になることがあった。

僕「え? それじゃ、今の子たちはキーボードを叩かないってことですか」
先生「そうだねえ」

さみしさと同時に、僕は、10年後の未来を夢想した。

ダンディーノとの思い出

小学生の時の僕にとって、情報室は、まるで秘密基地のようだった。
いろんなソフトの入ったパソコンがたくさん並んでいて、ロボットの組み立てキットがあって、他にもよくわからない機械がいっぱいある。
タイピングの授業が好きだった。ホームポジションを教わり、タイピング練習用ゲームへのログイン方法を教わり、みんながカタカタとキーを鳴らす中、誰よりもは、誰よりも遠くまで進もうと、小児特有の異常なまでの集中力を発揮していたのを覚えている。

当時身につけた、このタイピングの技能がなかったとしたら。
今、文章を書くことに、ここまでのこだわりを持っていなかったかもしれない。

それくらい、僕の人生の根っこのひとつになっているのが、パソコンを使った情報の授業であり、タイピングの練習である。
数え切れないくらいのダンディーノとの早撃ち対決が、僕を成長させてくれた。

それが――今の小学生は、タイピングをやらないだって?
驚きと同時に、恐怖がやってきた。

文章の紡ぎ方

先生「みんなフリックで入力してるけど、あれってそんなに早く打てる?」
僕「まあ、予測変換を駆使すれば同程度の速度は……」

ヒトは、言葉を使ってコミュニケーションを取ることで発展してきた生き物だ。誰もが、言葉を使うことからは逃れられない。
僕たちの世代では、「まとまった文章を書くためには物理キーボードを使う」という手法が主流だと思う。……信じてる。英語に最適化されたQWERTY配列のキーボードで日本語をローマ字入力することは無駄が多いかもしれないけれど、慣れてしまえば息を吸うように文章が書ける。ほら、もう1000字くらい書けたもん。

翻って――キーボードを使わないのだとしたら、いったいどうやって、まとまった文章を書くというのだろう?

もちろん、フリック入力というのもひとつのアイデアだ。
「フィードバックが薄い」「ひとつの指ばかり疲れる」などなど、キーボードが勝っている部分もあると思うのだけど、日本語文の入力速度でいったらそこまで変わらないんじゃなかろうか。
予測変換を多用してしまうことが、個人的には、表現の幅を狭めてしまいやしないだろうかと心配でもあるけれど。

でも――これから先、それこそ10年後や20年後に、スタンダードになっているだろう入力方法に、僕は心当たりがある。

音声入力、だ。

声で言葉を紡ぐということ

スマートスピーカーはあっという間に世の中に定着したし、AWSでは圧倒的低価格で文字起こしをやってくれるサービスだって始まった。コンピュータが、勝手に音声データを文字列にしてくれる時代が、もうすぐそこまで来ている。
反面、みんなが持つ端末の物理的なサイズはどんどん小さくなっていくだろう。パソコンがスマートフォンに変わったように、スマートフォンはきっと、スマートグラスかスマートコンタクトレンズになると思う。
文字の入力方法として、音声入力はますます存在感を増していくだろう。

なにせ、今の小学生はキーボードの使い方を知らないのだから。10年後、彼らが若者になる頃にはもう、物理キーボードなんて時代遅れの象徴みたいになってるかもしれない。
きっと僕はその頃でもキーボードを使い続けている。きっと、今ガラケーにこだわる人を見るようなものと同質の視線が、10年後の僕には向けられる。
RealForce、打ちやすいんだけどなあ。おすすめです。

彼らはきっと、彼らなりの視点から見えたものを、音声入力で小説やエッセイに仕立てて、僕らが読めるようにしてくれるだろう。
彼らの文章は、有史以来初めての、真の「言文一致体」となる。しゃべった言葉がそのまま文章になるのだから、それはそうだろう。二葉亭四迷の試みが完成をみる時代が、もうまもなくやってくる。

それは果たして、どんな世界なのだろう。彼らの文章は、どんな光景を見せてくれるのだろう。
楽しみな反面、こわくもある。

そんな気持ちを文章にして、書き残しておくために。
今日も僕は、キーボードに両手を乗せる。

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