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弱くたって、何度もプレイすればいい話

『強くてニューゲーム』という言葉がある。
元々はロールプレイングゲームで使われる用語で、ゲームクリア時のステータスやアイテムを引き継いだまま2周目以降をプレイすることを指す言葉だ。

少し前から、現実世界でも使われるのをしばしば見かける。何かの事業で実績をあげた人が、違う事業に参入する際、前回の事業で得た経験や影響力を使って有意に展開していける様子を「強くてニューゲーム」と言う。例えば、テレビの世界で一度注目を集めた芸能人が、YouTubeに参入したとする。その場合、ある程度チャンネル登録者がついた状態で始められることだったり、どうすれば視聴者を楽しませることができるかを理解した状態で始められることだったりを表す言葉になる。

一度ついた経験や数字は他の活動にもある程度転用できる。そんな状態を表す言葉が『強くてニューゲーム』だ。

一方の僕は、『弱くてもニューゲーム』な気がしている。

僕は、何かで大きな実績を出したわけではない。けれど、漫画を描き始めて9年になる。20歳から出版社に漫画を持ち込んで、26歳で一回諦めかけて、27歳の年に、出版社に通うのをやめて個人で漫画活動を始めた。それから漫画制作事業を始め、1年半で挫折して、今は創作漫画の制作に打ち込んでいる。

この9年、漫画で何かを成し遂げたわけではない。商業誌の漫画賞をとったわけでもないし、漫画制作の事業で何年も生活しているわけでもない。けれど、相変わらず漫画は描いている。

『弱くてもニューゲーム』

大した実績を残したわけではないけれど、自分の可能性を諦めきれず、何度も何度も、職業〝漫画家〟の人生ゲームをプレイしている。

個人で漫画活動を始めてから、今は2周目な気がしている。別に1周目をクリアしたわけではない。漫画制作事業を1年半で挫折した。一通りではあるが、個人で事業を始めてみて、それなりに経験を積んで、資本主義がどういうものか、なんとなく理解したつもりでいる。RPGに例えると、ステージ3くらいでつまづいた感じだ(そんなに進んでないな)。

今は、個人事業主編の2周目だ。

出版社から連載を目指す漫画家志望編から抜け出し、個人事業主編に進み、先に進めず一旦リセット。もう一度最初の町からプレイし直している。今は、最初の町付近の草むらで経験値を積んだり、町にいる人から情報収集したりしている感覚でいる。今度は、前よりもうまく進める気がしている。僕には、漫画家志望編で鍛えた漫画ステータスがあるし、個人事業主編で資本主義の渡り方をある程度学んだ。今度こそ、うまく進めるはずだと信じている。

弱くても、プレイしていいのだ。

つまづいたら戻ればいい。もうダメだと思ったら、また最初の町からやり直せばいい。1周目をクリアしなくても、僕らのステータスは残ったままだ。知識や経験はなくならない。

何度プレイしたっていい。確実にステータスは蓄積されている。

僕らは、『強くてニューゲーム』ができる人たちのように、器用で賢くはないけれど、コントローラーからはまだ、手を離していない。それだけの気持ちがあれば十分だ。

人生100年時代なんて言われ、インフラは整いに整って、僕らは今、これ以上ないくらい、やりたいことに打ち込める環境下で好きなゲームをプレイすることができている。

やなせたかしは『アンパンマン』をヒットさせるまでずっと無名だった。69歳でようやく、世の脚光を浴びた。僕らはまだまだだ。まだやれるだけのことはやってない。やれる時間はいくらでもある。何度プレイしたっていい。

誰に何を言われたって、自分がまだコントローラーを握りしめていたいなら、何度挫折してもまた、最初から始めればいい。

『弱くてもニューゲーム』

今度こそうまく進めるはずだ。

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