きゅるっと踊る

心が踊るものって人によって違いますよね。歌や映画や食べ物、本、言葉、景色、友人、恋人。踊るきっかけは日常の中にふわふわと浮いていて、その魅力に気づける人だけがダンスする。心の余裕って大切だな、素敵な魅力を見逃していないかなと常々考えています。
同じものに心を踊らせている人に出会うとなんだか嬉しくなりますよね。

ドラマ「MIU404」が私は大好きで、その中で綾野剛さん演じる伊吹がよく「きゅる」という表現していました。意味は説明していなかったけれど私はときめきの事かなと思っています。きゅんとは何か違う私の心を躍らせるもの、その擬音語が気に入って今でも私は「きゅる」の表現を使っています。

昨日の夜、私は日常の「きゅる」に出会ってしまいました。

毎晩寝る前にスマホのアラームをセットし本を読むのが私の日課です。ベットサイドにあるお気に入りにランプに照らされて読む時間は至福の時です。昨日はある本を読み終わる瞬間でした。

この本は、最近映画化された「明け方の若者たち」の著者カツセマサヒコさんを含む3名の方が書く、東京メトロを舞台にした短編オムニバス小説です。実際にあるお店が出てくるリアリティさとこれからデートをするカップルの心情を覗いているような描写が面白く、夢中で読ませていただきました。私は男の子目線の心情を読むのが面白く、こんなに一生懸命思いやってくれていたら女の子は幸せだろうなとほっこりしていました。

私がきゅるっとしたのは一番最後のお話。カツセマサヒコさんが書いた「昔行ったあの店がなくても」の中の、風の表現の一節です。

僕は首をつたって落ちてくる汗を拭いながら、彼女の手を強く握る。その途端、この暑さを和らげるような、冷たい夜風が吹いた。次の季節が待ちきれずにあくびをしたような、気まぐれな風だった。
夏がもうすぐ、終わろうとしていた。
出典:書籍「恋が生まれたこの街で」

この一節を読んだ際に主人公2人に吹いた風が目の前に現れたような、そんな感覚を味わいきゅるっとしました。秋の訪れを知らせるような涼しい風、それをあくびをしていると表現するのはかわいらしく何度も何度も読み返し、想像しながら眠りにつきました。

私も季節に感情を持たせるような、そんな言葉を紡ぎたいと思わせてくれた一冊です。きゅるを見つけられた環境にも感謝したいと思います。

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