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今カレと元カレの間でゆれる

(お酒の話です)

去年、自分の身に変化が起きた。
それは、ずっと常飲水のごとく愛飲してきたトリスハイボール濃い目9%を、7%のハイボールに変えたのだ。

9%との出会いは忘れてしまったが、気づくといつも9%と一緒にいた。
コンビニやスーパーでトリスハイボール9%が売られている店というのは極端に少ない。
だが、幸運にも(?)わたしが住んでいる家の最寄りのスーパーやコンビニには9%のトリスハイボールは売っていた。のだが、「私には絶対にこれしかないの!(9%)」と決めてしまっていると、他の地域のコンビニで売っていなかった時にずいぶんとションボリしてしまっていたのだ。友達の家に寄る前に、コンビニを3件ハシゴしたこともある。
「わたしのトリスは9%なのに…」というどこにぶつけていいか分からない「9%への愛」を心の中に燻ぶらせていた日も少なくない。

そもそも、缶チューハイの9%とはかなりキツイ類のお酒だと思う。
5%は弱いけど、9%は強い。そんな風に思っていた。
まるで、優しすぎる男はつまらないけど、好きになってしまうモテる男は危険で刺激的すぎるという女のワガママのようだ。

そこで「まあまあ、落ち着いて」とやってきたのが7%だ。

トリスの7%は、いつも必ずスーパーやコンビニに置いてある、いつもそこにいてくれるのだ。

いかんせんわたしには休肝日がほぼない。去年30歳を迎え、9%は刺激的すぎるよね…と、自分の肝臓と相談していたところだった。
そんな時に、たまたま近くのコンビニで9%が売り切れになっていた。

そこで彗星のごとく現れたのがトリスハイボール7%だ。
「そんなやつ(9%)やめて、僕にしなよ」と、わたしの心を揺さぶってきた。
優しすぎず刺激的すぎない、「ちょうどいい男」の登場であった。おっといつの間にか男の話になってしまっていたが、これはハイボールのアルコール度数の話である。

ずっと濃い目を飲んでいたものだから、「私の体に7%で大丈夫かしら…」と謎の心配をしていたが、7%はわたしのことを大海原のような心で包み込んでくれた。さすが神出鬼没のハイボール。
7%だからといってお酒の本数が増えるわけでもなければ、酔えないわけでもない。
ただただ私の肝臓の治安が守られたのだ。わたし、なんで今まであんな男といたんだろう…と、さえ思った。
そして、私は去年7%のハイボールに住み替えをしたのだ。

そんな時に、実家に帰ることになった。
「かほちゃん今週は帰ってくるの?」という連絡が母からたまにくるのだが、それは「今日は酒は冷やしとくのか?」の意である。

実家に帰ると、一人暮らしでは高くてなかなか手の出せないお刺身やフルーツが出てくる。
わたしが帰ってくると思って母が用意していてくれてると思うとちょっとウルっときたりする。
わたしの実家でのライフスタイルは、帰宅→お風呂→ハイボール→飲みつつご飯である。
一人暮らしの家ではあまり浸かることのない湯舟に浸かり、お風呂上がりの冬の脱衣所ほど寒いとこはネェよなァ…なんて思いながらジャニーズもびっくりの早着替えをする。(ただ裸からパジャマに着替えるだけなので正しくは早着替えではない)

そして鼻歌交じりに冷蔵庫を開けた瞬間、目が合ってしまった。

「9%…」

わたしは弱い女である。
母には、「最近7%飲んでるから7%でいいよ、9%ってなかなかないでしょ」
と、何かと理由をつけて「これからは絶対に7%で!」と、今カレを推すことをしなかったのだ。
母からの返事は、「一番近くのスーパーで売ってるから、別に大変じゃないけど」だったことを忘れていた。

久しぶりに手にする9%は、まるで嫌いになって別れたわけじゃない元カレと会った時のような気まずさであった。

プシュリと蓋をあけ、恐る恐る流し込まれる元カレは私の脳みそを直撃して、そっと語りかけてきた。

「やっぱり俺の方がいいだろ?」
「お前は俺じゃなきゃダメなんだよ」

なんて、エロ漫画にありそうな言葉がわたしの脳裏をよぎる。やめてくれ………。今わたしは7%と順調に愛を育んでいるんだ……。

わたしが今カレと元カレの間で葛藤していると、母が発破をかけてきた。

「あんた、これからも9%でいいのよね?」

「………ウン…」

私の小さすぎる返事と弱すぎる意思は、海の藻屑となって消えた。

実家に帰るときだけ元カレに会うなんていう最低な女だけど、きっと今カレにはバレていない。
危険すぎる元カレが、今日も実家の冷蔵庫の中でだけ、ニヤリと笑っているのだ。

おしまい

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