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記者が挑んだ あばら家リフォーム【4】「しっくい練ってみた」

大学を卒業して記者生活をスタートさせた岩手県で、ヒツジの毛刈りを取材した経験があります。雫石町にある小岩井農場で毎年行われる風物詩で、当時は駆け出し記者が必ず担当する話題でした。獣の臭いが鼻を突くヒツジ小屋に羊毛があふれています。そんな光景を見て、「これは掃除をするだけでも大変だなあ」と感じたものです。まさか四半世紀近くたってから、似たような経験をする羽目になるとは思いませんでした。
(生活文化部・桜田賢一)


手で触れただけで崩れる

その訳は、ウチのあばら家の内部の聚楽壁。土壁の一種で、壁面に綿のような物が吹き付けてあります。これが雨漏りのせいで水分を吸って膨張。カビが繁殖し、ぼろぼろになっています。手で触れただけで崩れるので、まずはこの綿のような物を撤去。必然的に大量の「ヒツジの毛」が床にあふれることになり、ほろ苦い記憶ばかりの若手時代を思い出しながら掃除しました。

雨漏りでぼろぼろの聚楽壁

中には雨漏りの難を逃れた聚楽壁もありました。ただ、そもそも、昔ながらのこの壁こそが廃虚っぽさの原因です。あばら家のある場所は小川に近く、雨漏りがなくとも湿気が多いのです。調湿効果のある壁に変えよう、と考えました。いろいろと調べたところ、聚楽壁の上にクロスを貼るのは難しいようなので、しっくいを塗ることにしました。

汗ばかり噴き出る

しっくいは、石灰やフノリ、粘土などを混ぜ合わせた粉に水を加えて練ります。水を入れた粉はとても重く、素手でこねるのはまず無理。このため、ホームセンターには既に練ってあるしっくいが売っています。ただ、そこは商売。ちょっとした大きさの壁に塗るだけでも1万円前後と結構値が張ります。ウチのあばら家の場合、計約30畳相当の部屋の内壁を塗らなければなりません。既製品にはとても手が出ません。

それならば、と20キロ入りで数千円のしっくい粉末を買ってきて自分で練ることに。一度やってみたのですが、棒を使って素手でこねたら玉のように汗が噴き出るだけで、ほとんど動かせません。仕方なく電動ミキサーの購入も決意。新品は数万円するので、オークションサイトを探したところ、幸運なことに2000円以下で中古品を落札できました。粉と水を混ぜるプラスチックのバケツと、こても用意し、壁塗りチャレンジ、スタートです。

電動ミキサーで練ったしっくい

左官経験ゼロでチャレンジ

聚楽壁は劣化しているので、補強などのために最初は「シーラー」と呼ばれる液体を塗っていきます。柱や床を汚さないよう、壁の四隅にマスキングテープを貼ってから塗り塗り。この下地処理作業だけで2日間かかりました。

シーラーを塗り終えた後の聚楽壁

ようやく、しっくいの出番です。シーラーが乾いたことを確かめてから、バケツで練ったしっくいを自作のこて板に載せ、壁面に塗り付けていきます。新卒で記者になったので、もちろん左官経験などあろうはずがありません。

こてとこて板を入れた作業風景

最初のうちは塗り終わる前にしっくいがバケツの中で固まってしまったり、塗り厚が均等でなかったり。こてを持つ手はけんしょう炎になり、かき混ぜる際に舞い上がった粉で作業用のつなぎや髪が真っ白になるなど、さんざんな目に遭いました。

週末左官業で2ヵ月

しっくいを塗った後の内壁

とはいえ人間、慣れるものです。各壁面を二度塗りしたのですが、二度目に入る頃には技術がだいぶ向上。ただ塗っただけではつまらないとまで考えるようになり、こての櫛目を生かして櫛引仕上げを施しました。

櫛引仕上げを施したしっくい壁

平日は記者の仕事があるので、左官業は週末のみです。結局、トータルで2カ月ほど掛かって何とかしっくい壁が完成。壁が全面、白くなったことで、室内がとても明るくなりました。

気付けば蔵王山麓の山あいも初夏の装いに。葉の緑は濃さを増し、小川のせせらぎが涼しげに聞こえる季節になっていました。


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