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土曜日開店前の約束

今日は一緒に暮らしている彼と喧嘩をして、空気が悪くてどうしようもなくて家を飛び出した。
とりあえず自転車に乗って鎌倉に向かった。
雨は降りそうだったけど濡れて帰るのもいいかなと思っていた。



好きな歌を大声で歌いながら自転車を漕ぎ、気が済んだところでふと思い立って喫茶店に寄った。
以前チーズケーキをテイクアウトしたことがあるお店で、オーナーさんの笑顔がとっても素敵で忘れられなかった。
とりあえずお店に入って、コーヒーゼリーを頼んだ。
コーヒーだとちょっと苦いな、という気分だった。



オーナーさんと、私の2人きり、雨が降ってきて、
あぁ今ならなんか、話しちゃっていいのかもしれない、この人なら聞いてくれるのかもしれないと思っていた時、
サービスだと言ってカカオの味のする紅茶をくれた、初めての不思議な味で、さっぱりした美味しさだった。

思い切って話してみた。
「今日彼と喧嘩しちゃって、飛び出してきちゃったんです」
言いたかったこと、悩んでいたこと、話せないことを安心して話せる空間というのは私のような人間にとってはとても大切で、その瞬間何故か安心して、ブワッと涙が溢れてきた。

いろんな話を聞いてくれた。仕事のことも、暮らしのことも。オーナーさんの笑顔の秘密もたくさん知った。本物の笑顔であることがよくわかった。

「喧嘩した時に逃げ出せる場所のひとつやふたつ、ないとね」と言ってティッシュをくれた。

なんて暖かい場所なんだろうと思った。芯の通った美しい魂に癒された。そしてやさしい、、、

60歳で有料老人ホームの仕事を退職して、ずっと好きだったお菓子と編み物のお店を始めたらしい。半年くらい前のことみたい。
でも、お店はいつも、笑い声と笑顔で溢れている。
「きてくれる皆さん、こんな時期に集まるなんて不良よねっていって、きてくれるけど、本当のところはいつも大丈夫?って気にかけてくれるんです。コロナの時代を地元の方に助けてもらっているんです。」

と話していた。やっぱり本物だった。




気づくと、まるで旅をしていた頃のように私は感謝をし、笑顔で話していた。
「世界一周までしてわかったことは、人生は旅だということで、今は好きな人と好きな場所で地に足のついた暮らしをしてみたいんです。」
と話していた自分の今に納得した。



雨が強くなった頃、彼から連絡があった。
「傘持ってないでしょ、迎えにいくよ、どこにいるの?」
優しいなと思った。
喧嘩して飛び出してきたことを話していた手前、ちょっと恥ずかしかったけど彼は迎えにきてくれた。
2人でおいしいレモンのケーキを食べた。
オーナーさんは変わらず笑顔だった。




「これから、土曜のお店がオープンする前の1時間、ここで歌ってよ」
と言ってくれた。
朝9時に、ギターを持って自転車で向かう。
10時になったら彼とケーキを食べて帰る。

社会に出て初めて、真っ直ぐ目をみて話してくれる人と出会えて、うれしかった。
ただそれだけで、涙が出るほどうれしかった。
真っ直ぐ真面目に素直に、生き抜く美しさが詰まったケーキは今の私にとってのたまらないお気に入り。




喧嘩したけど、まあよかった、🙊

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