感想|ユリイカ 女オタクの現在 ―推しとわたし―

 さすがに"アレ"やな~と思ったので単体で記事にします。

 この本の感想を端的にまとめると、「女オタクに限った話を、まるで『推し』・『推し活』全体の話みたいに語るのいい加減やめてくれません?」だ。文化を簒奪すな!


『推し』文化を簒奪する女たち

 ここ数年、推し文化を表面上だけ(実態としては女オタク文脈に比重を置いているのに)脱ジェンダー化して語ることで、推し文化を都合のいいように簒奪されているように感じる。
 ユリイカに限らず、『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』でも、ジェンダー論者たちは「推し」「推し活」に女性ジェンダーを強く絡めて語ろうとしているし、そのことを隠そうとしている。(あるいはメタ認知能力が低すぎて、自分が持っているジェンダー的な偏見を自覚できていない)。

 よく考えてみてくださいよ。『女オタクの現在 ―推しとわたし―』ってサブタイトルはおかしくないですか? そりゃ女オタクには推しがいる人は多いでしょうよ。けれども推し文化から見れば、必ずしもオタクの性別比が女に偏っているとは限らないでしょ。
 本当に抱き合わせていいやつなんですか、それ。「男性」だけを選りすぐって、ついでに「人間」を語らせるくらい偏ってない? 本当に大丈夫?

 んでまあ中身を見ても、「女オタク(の有識者)だけに推し活の話をさせるのは偏ってない?」みたいな批判は一切ない。「私たち(≒女オタク)こそが『推し』の語り手でもあります」ってツラをしてる。
 だからこそ、この本のあり様こそが根拠になって、晴れてめでたく自分はこう主張できるようになった。

ジェンダー論の文脈で語られる『推し』『推し活』って、めっちゃ女性向けの文脈に偏重してますよね」
「それでいて表面上は脱ジェンダー化して語られるから、『推し』文化が女オタクによって簒奪されている


『推し』文化をどう定義するか

 「ほなあんたの言う『推し』文化はどないやねん!」と言われるのが筋なので、拙い叩き台に違いないだろうが、こちらも提案しておく。

 『推し』を語る上で、少なくとも一度は通過しないといけない論点として、字義どおりの意味には触れられるべきだろう。『推す』は推薦の推なんだから、布教活動にルーツがあるんじゃないか?という話だ。
 推す対象が作品であれ人物であれ、ツイートのRTやいいね、チャンネル登録や高評価、動画視聴、コメントの書き込み、(作者や活動家を支援するための)グッズの購入、二次創作や感想のツイートといったライトな行動はもっと着目されるべきだろう。
 ……というか、言うまでもなく「推し」「推し活」の定義はこちらに焦点を当てるべきだ。自分の主観的な実感を基に語るなら、明らかにこちらの方が「推し活」全体の実態にも即している。

 そして、デカい感情を持つ、(自分が享受するために)ライブや握手会に行く、ファン同士で繋がるといった(少なくとも字義から見て)二次的な事柄は、少なくとも「それこそが『推し』『推し活』です」という態度で扱われるべきではない。
(傲慢なことを言うけど、この用法って、本来はわざわざ利他的なニュアンスを込めるために「推す」が使われていたのに、その表面的な行動だけを見て利己的に解釈して生まれた用法って感じがする。)

 おれはなにか難しいことを言っているだろうか?


雑感

 もっと雑な感を列挙。

🦀ハッキリ勇み足を踏ませてもらうけど、男オタクはライトな推し活をして、女オタクはディープな推し活をする傾向があるよ! 誰かがこれを言わないことには全部嘘だ。

🦐ディープな推し活には、旦那の学歴や収入でバトルしてる主婦を見るような嫌悪感を感じる(あくまで思想じゃなくて感じ方の話)。

🐢「推し活で連帯! シスターフッド!」はトロフィーワイフ批判との食い合わせが悪そう。最悪死ぬんじゃないか?(これは感じ方じゃなくて思想の話)

🚗「推し」「推し活」のあり様を企業側(芸能事務所やオタク系ショップ)が定義しようとしているのは思ったよりマズい気がする。ジェンダー論の範疇のみならず、もっと広い哲学の話としてのマズさ。
 対象への感情やその表現のしかたは十人十色なはずなのに、「これを買ってこういう行動をとりましょう」って画一化されるのは怖い。

🐟感情や感情表現の画一化を、芸能事務所やオタク系ショップのみならず、LOFTやCanDoみたいな雑貨屋や、ユリイカみたいな人文屋までもが後押ししているのもマズそうだ。
 たぶんこれはキラキラしたコーティングを施してることにマズさを感じてるんだと思う。

🍥キラキラコーティング系の推し活産業がぶっちゃけ女オタクをターゲットにしているのは、ジェンダー的な意味でマズいかもしれない。
(Vtuberの結婚指輪みたいな男性向けのやつもあるけど、女性向けの推し活手帳みたいなグッズはそれとは質が違くないか?)

 今現在「マズいかも」というか、十年後くらいに掘り返して「男性社会が女性の感情や愛情表現を定義する時代!」「我々はどうして止められなかったのか」とどのツラ下げてか批判されるおそれがある。
 もしそうなったらユリイカ寄稿者とかも巻き込んでやるからな。

📱女性ジェンダー論者のみなさん、フェミニズムと学級会の間で挟まれて大変そうですね。これは『アイ葛』のときにも思ったけど。

 いや正確には、フェミニズムと学級会と誠実さのトリレンマなのかも。フェミニズムからも学級会からも加害予告が届くような正論はきっと……かなり大量に存在する。

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