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「推し」に出会えていなくても、出会うまでの過程にも物語がある。今あなたの中にある、好きの種を育てていく


あなたには「推し」という存在がいるだろうか?

ある調査結果によると今や2人に1人は推しがいるといわれている。
(https://mynavi-agent.jp/dainishinsotsu/canvas/2022/06/post-727.html)
一方で「推し」という存在に憧れを抱き、まだ見ぬ「推し」への想いを募らせている人もいるだろう。例外なくこの記事を書いている私も、である。

なんとなく好きだけどこれを推しといっていいのだろうか、
そんな頼りない問いが頭をもたげる。
エンタメ系のコラムや取材などを中心にライターとして活動されている、
北村有さん(以下北村さん)もまた、推しという存在に憧れを抱き続け、約1年前にようやくその推しを見つけた。

「推しに出会ってからは、今まで以上に濃厚で凝縮された1年であり、推しとは人生を豊かにしてくれもの」と言う彼女のnoteやXでの推し語りは、それを物語っていた。

北村さんが「推し」に出会い、それをどのように耕していったのかについてお話を伺い、あなたの(私の)「推し」を見つけるきっかけを一緒に考えていきたい。

【プロフィール】
ライター。映画&ドラマを中心に、エンタメジャンルのコラム・取材などを執筆。執筆媒体はtelling、ぴあ、Web、CINEMAS+、女子SPA!、TRILLなど。


運命的な出会いより、「好き」の種を育てていく



「あ、私落ちたな(沼に落ちた)…」という感覚がはっきりとわかったという北村さん。
それは『美しい彼』というドラマをみていたとき。
もともとはまりやすい体質ではあったけれども、今までの好きと決定的な違いがあった。
それは「好きの熱量の持続性」だという。

「好きになった対象がアイドルだったので、現場数が多かったことも、好きを後押しする要因になったと思います。家でYoutubeを見ることももちろん推し活ですが、ライブなどに実際に足を運び、目で見て体で感じるといった生の体験は格別で、それはもう、麻薬のようです。(笑)」

北村さんのお話を伺っていると、どうしても推しというのは、いつの間にかとりこになってといったように、運命的な出会いが理想のルートのように思ってしまう。
しかし「運命的な出会いよりも、好きでい続けるための育てる力も必要」と、北村さんは言う。

「時間を作るという感覚に近いと思います。なんとなく好きかもから、その対象の周辺情報を調べたり、ファンクラブに入ったり、ライブに通ったり、その対象の動画をさかのぼってみたり。好きでい続けるための燃料を定期的にくべるようにしています。」

何もアイドルや芸人などわかりやすい好きだけでなく、このドラマが好きだな、1人でお酒を飲む時間が好き、雑誌を読むのが好きといったものも推しの種になるという。

「少し気になることや興味があるものを入口にして、これまでの人生に触れてこなかった領域に半歩入ってみる。例えばお酒が好きなら近所でお店を開拓してみる、飲んだことがないお酒を飲んでみる。そういったことを日々積み重ねていくことも、十分推しの範囲内だと思うんです。」

北村さんも、尊敬する編集者の方が『美しい彼』についてXでつぶやいているのを見て、観てみようと思って、時間を作った。そうして好きの種に水をやり肥料をあげ、芽が出るまで育てていった。


好きがつなぐ、あたたかく幸せなループ


北村さんは以前、『美しい彼』というドラマの感想をnoteに書いていた。
そのnoteを読んだドラマや原作のファンの方から、「思っていたことを言ってくれてありがとうございます。」という感謝の言葉をたくさんいただいたという。

「基本的に書いていることは、めちゃくちゃよかった・すごかった・○○(推し)最高、の3点。
それを細分化して、すごいの一言で止めてしまわないで、ほんの少し自分の奥の方に忍び込んで、自分の中にある言葉を探してみる、語彙を引っ張り上げることを意識していました。
私自身、好きなドラマの感想を書いただけで感謝されたり、喜んでもらえることは嬉しいけれど、一方で衝撃も大きかったんです。
純粋によかったということを書いただけで、喜んでもらえる。なんてあたたかくてすばらしいループなんだろうって。」

今年の4月に公開された『美しい彼』の劇場版。
北村さん含めファンの人は40回~50回観るのが普通なのだということに驚くのだが、それなのに毎度新鮮な目線で楽しむことができるのだという。

「SNSを通してファン同士のつながりがあります。実際に会って劇場版の感想を言い合ったり、感想を発信しているツイートを見たりする中で、新しい視点やおもしろく見ることができる角度や切口が増えていく。何度もその作品や推しのすばらしさを体感できて、なんとも豊かだなと思います。」


信頼している人のおすすめは摂取する


まだ見ぬ推しに出会いたい人に、これはやってみてほしいというものを教えてもらった。

「人からおすすめされたもの、特に信頼している人や尊敬している人がいいと言っているもの見てみると、好きを広げるきっかけになると思います。
やはり自分が信頼している人がいいと思っているものは、いいな、好きだなと思うことが多くて間違いないんです。そうやって好きのアンテナを増やしていくことがいいと思います。」

いろんなものを取りいれたくても時間が足りないことはないのだろうか。

「24時間じゃ足りないなと思うこともありますが、『○○強化週間』としてジャンルやテーマを決めて、それを重点的に摂取するようにしています。」

1ヶ月を4つに分けて、1週目はお笑い、2週目漫画、3週目はこの監督の作品を観るなど、日々いろんなジャンルのものを一気にというより、期間を決めて狙い撃ちする派だという。

今この瞬間に興味があることを1週間単位で取り入れてみる。
これなら好きを深めていけるような気もするが、興味があるけれども何から触れたらいいのか迷ってしまうこともある。

「アイドルグループに興味があるけど、曲を最初に聴いた方がいいのか、ライブ動画を観た方がいいのか、入口がわからないといったことがあると思います。
外で音楽を聴くときはこのグループの曲しか聴かない、Youtubeは違うこのグループしか観ないなど、接触する時間を意識的に増やすと自分の好きになる傾向がわかるようになってくる。
それを繰り返していくと、はじめは興味のなかったものでも、いつか好きの芽が出るかもしれません。」


推しは人生を豊かにしてくれる
けれども推しがいない人生もきっと豊かだ



北村さんにとって推しの魅力とは何なのだろうか。

「日々の暮らしを彩り豊かにしてくれる存在です。プライベートも仕事も、もうひと頑張りしようと思わせてくれるんです。ときには今日はもうだめかもしれないと思う時があっても、2,3分の動画や待ち受けを見るだけで心が救われます。」

北村さんにとって推しという存在はいい影響しかなかったという。
運動習慣がついたり、生活を整えようというマインドになって料理をしたり、いい変化が起きた。

けれども、北村さんは必ずしも推しがいない人生が豊かじゃないとは思わないという。
「私自身、推しに出会えていないときは、推しがいる人に憧れを抱いていて、すごくうらやましいと思っていました。だからといって推しがいない人生は寂しい、早く推しを見つけないとと焦る必要はないと思います。」

なぜなら推しに出会えていない人生というのは、これから出会う推しに、出会うまでの助走の期間だということ。
出会えてしまったらもうそれを味わうことができない。

「まだ推しに出会えていない今が一番楽しい時間なんじゃないかなと思います。いろんなものをつまみ食いできちゃいますし!(笑) 
まだ推しに出会えていなくても、これから出会うかもしれない、楽しみな余白のある期間。それを思う存分楽しんでほしいです。」

今まで推しという存在は神聖なもので、推しと呼ぶのにふさわしい出会いや決定的瞬間があるものだと思い込んでいた。

ちょっと好きだなというものはあっても、これを果たして推しといっていいのだろうか、またすべてを捧げるまで好きを貫く自信なんて私にはあるのだろうか。そんな不安ばかりを当初は思い浮かべていた。

もしかしたら「推し」という言葉に縛られ過ぎていたのかもしれない。

好きだという思いは尊いものだ。その好きの度合いを人と比べる必要もない。今あなたが感じているその好きを大切に、その好きを感じられる時間を日々の中に少しずつでも取り入れていく。それで十分なのではないだろうか。

そう思わせてくれたのは、好きは自分で育てていく楽しみがあるということ。興味がある領域に半歩入っていくことで、好きの間口を広げていく豊かさがあることを教えてもらったからだ。

そしてまだ推しに出会えていないと思っている人も、気づいていないだけで、推しとの物語がすでに始まろうとしているのかもしれない。

あなたも、あなたの中にある好きの種を育ててみてはどうだろうか。


■北村有さん
ドラマ『美しい彼』感想


取材・文:はしもとかほ

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