伊勢のグルメな神様にお届け!神嘗祭の特別なごちそう「干鯛」
日本の神様は結構グルメ。そのためお祭りでは食事のお供えは欠かせません。もちろん、伊勢神宮の神様にもさまざまな祭典でお食事をお供えしています。
現在伊勢神宮で行われているのが、毎年10月15日の夜から始まる、伊勢神宮の神嘗祭。
このお祭りのメニューは特別仕様になっています。そのメニューの中で特別なのが干鯛。この記事では「鯛」をテーマに伊勢の情報をお伝えします。ぜひ伊勢旅行の参考にしてみてくださいね。
神嘗祭とは?
伊勢神宮では年間1500回に及ぶ祭典が行われています。その中でも最も重要な祭典が10月15日の夜から始まる神嘗祭です。神嘗祭では、その年の新穀を神様にお供えして、実りの恵みに感謝します。
伊勢神宮では食べ物に関する祭典が多数あります。お米に関する祭典や塩作り、農業、酒造りなどなど。その中でも中心的なお祭りが、神嘗祭なのです。
私たちは日々生きていくために食べる必要があります。現代は機械的に作られる食べ物も増えてきましたが、基本的には自然からの贈り物です。自然の恵みに感謝する、とても大切なお祭りです。
三節祭のうちの一つ
神嘗祭は三節祭と呼ばれる、年間でも非常に重要な3つの祭典のうちの一つです。
神嘗祭の他には、6月と12月にそれぞれ行われる月次祭があります。月次祭では皇室の弥栄と、五穀豊穣や国家の隆盛と国民の平安が祈られます。この祭典もとても重要なものです。
この三節祭はとても重要な祭典なので、いつもの祭典のときにお供えするメニューとは違う、特別メニューがお供えされます。
特別メニュー・由貴大御饌
特別メニューの名前を、由貴大御饌(ゆきのおおみけ)と言います。「由貴」とは「清浄な」という意味。「大」は「大きい」というよりは、「立派な」という意味が近いでしょう。「御饌」は「食べ物」のことです。
つまり、由貴大御饌とは、「清浄で立派な食事」ということです。
三節祭では、この特別な食事が午後10時と午前2時にお供えされます。その時間は一般の人は伊勢神宮に立ち入ることは許されていません。静かに厳かに、祭典が行われています。
由貴大御饌には一体どのような食べ物が並んでいるのか、気になりますよね?そんなあなたは、伊勢市内にある神宮徴古館か佐川記念神道博物館にぜひ行ってみてください!
由貴大御饌に関する展示があったような記憶があります…。展示品が変わっている可能性もありますので、気になる方は事前に施設に確認してみてくださいね。
特別な一品・干鯛
三節祭の由貴大御饌の中にある特別な一品が、干鯛です。その名の通り、鯛を干したもの。鯛は伊勢神宮の神様に備える海の幸の中で、鰒の次に大切なものとされています。
この干鯛も、伊勢神宮で自給自足しているものの一つです。そのため、伊勢神宮の近くで作っていると思いきや、実は意外な場所からやって来ます。
干鯛は海を越えてやってくる!
伊勢神宮に奉納する干鯛がどこからやってくるかというと、伊勢湾に浮かぶ小さな島、篠島からです。
篠島は知多半島と渥美半島のちょうど真ん中あたりにあります。現在は愛県に属していますが、室町時代には志摩国(伊勢国のとなり)の一部として認識されていた頃があるようです。
かつて、現在の内宮を訪ね歩いた倭姫命が篠島を訪れ、この場所を神のお食事に奉る御贄を獲る場所として定めたことが、この場所で干鯛が作られる由来になったと言われています。
のどかな漁村・篠島
篠島はのどかな漁村。昔から漁業が発達し、特に鯛の漁獲に適した場所だったようです。
2023年の年明けに、個人的に篠島を視察に行ってきました。その時はちょうど島で伝統のお祭りを行っている真っ最中。島民のほとんどがお祭り会場に集まっていたからか、港は静かなものでした。
港には大漁旗をつけた漁船がいくつも。
お祭りは浜辺で行われていました。その様子を横目に見ながら、志摩の南端にある展望台を目指します。
展望台には鳥居がありました。この展望台は、なんと遥か遠くの伊勢神宮の遥拝所だったのです。
この海のずっと先に、伊勢神宮があるということですね…。
年に3回干鯛が調製されている
篠島では、三節祭に合わせて年に3回干鯛が調製されています。昔は篠島の中にある神明神社で干鯛が調製されていました。
なお、この神明神社は古くから伊勢神宮と深い繋がりがあります。20年に1度の式年遷宮の翌年に、必ず修理することが決まっています。また、その際に用いられる材木は、伊勢神宮・内宮の東宝殿で使われていた古材です。
伊勢神宮・内宮の東宝殿というと、最も重要な正宮の間近にある建物で、天皇陛下から神様への捧げもの・幣帛を納めておく大変重要な建物です。
その建物で使われていた材木が、小さな島の神社の修理に用いられることが決まっているというのですから、いかに伊勢神宮が重要にしているかがお分かりいただけると思います。
現在干鯛の調製は神明神社では行っておらず、干鯛を調製するための専用施設・御贄干鯛調製所で調製されています。
1回あたりどれくらいの干鯛を調製するかというと、だいたい160尾から180尾です。それぞれの納めるタイミングによって数が異なります。
難しいのは、鯛の大きさが決まっていること。土器の上に載せなければならないため、大きすぎても小さすぎてもダメなのです。
干鯛ができるまでには人手と時間がかかります。まずは内臓を取り除き、塩を腹の中に詰め込んで桶に入れ、そこに海水を入れて漬け込みます。1週間ほどの漬け込み後に天日干しを2日間。完全に乾燥したら出来上がり。
これの作業を、6月・10月・12月に島の人たちの手によって行っています。冬の寒い日の作業はどれほど大変でしょうか。大切に、丁重に作られた干鯛は完成後、海を越えていよいよ伊勢へとやってきます。
伊勢湾を越えて干鯛がやってきた!
10月12日。5年ぶりに海を越えて伊勢の神社港(かみやしろこう)に干鯛が届けられました。鯛の調製は年に3回行われていますが、10月の神嘗祭前の奉納の際には、神社港の人たちが盛大に干鯛のお迎えをします。
篠島から神社港までは船で1時間程度。「太一御用」と書かれた旗をなびかせながら、先導船に導かれて沖合からゆっくりと神社港に入港してきます。
「太一御用」とは、「天照大御神のお遣い事」という意味です。篠島から伊勢に干鯛をお届けするのは、天照大御神のお遣いだったのですね。
入港後、歓迎式典が開かれ、干鯛は伊勢神宮・内宮へと納められるのでした。
次にこの歓迎式典が見られるのは一年後の10月12日。天気や状況次第では中止になることもあるので、見られたらラッキーです。
鯛にまつわる旅行情報
ここまで、伊勢神宮と鯛についての情報をお届けしてきました。伊勢神宮と食べ物との関係を見ていると、実際に自分も伊勢で「鯛を食べたい!」と思ってきた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
伊勢志摩の海の幸といったら鮑や伊勢海老を思い浮かべますが、伊勢神宮に縁のある鯛もぜひ食べていってくださいね。
ここからは、鯛に関する旅行情報をお伝えします。
伊勢志摩の海を知る・海の博物館
せっかく海の近くまで来たのなら、ぜひ足を運んでいただきたいのが海の博物館です。
ここでは、海女さんについてや、この近海で行われていたさまざまな漁法についての展示があります。また、ここにも伊勢神宮の由貴大御饌の展示があったような記憶があります。
海が好きな人や海の民俗文化が好きな人には特におすすめです。
【鳥羽市立海の博物館】
開館時間:9:00~16:30
住所:〒517-0025 三重県鳥羽市浦村町 大吉1731−68
漁師体験ができるゲストハウス・まるきんまる
鯛と近しくなりたいなら、おすすめなのが「まるきんまる」というゲストハウスです。
ここは、伊勢市から車で1時間ほど離れた南伊勢町にあります。このゲストハウスは、なんと現役の漁師さんが経営をされています!
おすすめなのは漁師さんと一緒に海に繰り出す漁師アクティビティ。ここでは鯛の養殖がされているため、その様子を間近で見ることができます。プランによっては、鯛のいけすの中で泳ぐこともできるのだとか!
南伊勢町はリアス式海岸に囲まれています。山からの豊かな栄養分が含まれた水が海へと流れ込み、海の幸が生育しやすい環境が整っています。
しかし近年、山の開発が進んだ影響や人間の生活環境の変化によって、「豊かな海」が失われつつあると言います。
海の恵みをいただくことができる「豊かな海」とは何なのでしょうか?私たちが「きれいな海」と聞いて思い浮かべるような海の底まで見通せるような海は、実は栄養不足で豊かな海とは言えないのだそうです。
海と共に生きる漁師さんから聞く、リアルな海の環境の話は心を揺さぶります。SDGsが大きく叫ばれている今、机上の空論ではなく、当事者から「リアル」な話を聞くことが大切なのではないでしょうか?
まるきんまるでは、鯛の塩釜焼体験をすることができます。厚みのあるほくほくとした鯛に舌鼓を打ちながら、海について思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
海の恵みに感謝することは海を守ることに繋がる
私たちは日頃、自然から恵みをいただくことで命を繋いでいます。神嘗祭はそんな自然からの恵みを感謝する大切な祭典。ここでご紹介した干鯛は、祭典で用いられる、神様の大切なお食事です。
飽食の時代、普段何気なく食べ物を口にしていると思いますが、あらためてその食べ物がどこからもたらされたのかを考えてみるのはいかがでしょうか?
その事実を知ったうえで、美味しくいただき、自然に感謝する気持ちを持っていると、無意識のうちに自然環境を大切にしようと思う気持ちが湧き上がってくると思います。
伊勢神宮を参拝される際には、食べ物に感謝しつつ、自然環境に対しても目を向けることを心に留めていただけると幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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