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須恵器・土器を愉しむ【玉 古代を彩る至宝(江戸東京博物館)感想】14県広域共同調査の「今」の熱気を感じる展示

写真:佐賀県の都谷遺跡ST014号墳の玉類

 「須恵器・土器を愉しむ」では、個人的関心事の須恵器・土師器を中心に「考古・郷土全般」に関する都内および近郊の展示に関する感想・情報を綴っていきます。施設側の情報発信が少なく「どこに何が展示されているのか分からない」ことも多いので、参考にしていただければ幸いです。
 今回の展示のポイントは次の3点。
 ■14県連携の「古代歴史文化協議会」の研究実況中継的展示
 ■「勾玉だけじゃない」古墳期の装飾素材の多様性と技術
 ■土器・埴輪も見応えのある充実の内容

【14県連携の「古代歴史文化協議会」の研究実況中継的展示】
 トーハクに貼られていたポスターで知った展示。ポスターからの情報が少なかったので「勾玉かあ」というのが第一印象。ただ古墳期の倭人の装飾というのが、埴輪や錆びた貴金属の展示が多く、他はむしろ朝鮮半島の出土品からの連想が個人的に多かったため、「いろいろ見られるなら、勾玉だけでも」と思い足を運ぶことに。
 正直、江戸東京博物館の常設展は何度も見ているので、入場料金分の期待はしていなかった。

 が、大きな間違いだったとすぐに気づく。

 「発掘された日本」の展示にも使われる5階の企画展示室。今回の展示は「古代歴史文化協議会 共同調査研究事業『古墳時代の玉類』」という趣旨の企画とのこと。同協議会は「古代歴史文化にゆかりの深い14県」により設立。構成県は、埼玉・石川・福井・三重・兵庫・奈良・和歌山・鳥取・島根・岡山・広島・福岡・佐賀・宮崎。「個々の地域における研究だけでは見えにくかった、日本の大きな古代史の流れを解明するため」「互いに連携して共同調査研究を行ってきました。本展覧会は、その研究成果発信のひとつ」が展示概要。

 テーマがあって出品を依頼した。のではなく、各県研究の最前線が競うように「今、分かってきたこと」を展示していて、さながら考古研究実況中継てきな内容となっている。
 説明文の詳しさに加え、展示レイアウトの「熱意」も見応え感を増す演出になっている。

 写真1枚目:石川県御経塚遺跡(縄文・後晩期)の素材・形状がさまざまな玉。2枚目:島根県上野1号墳(古墳時代前期)の玉。3枚目:島根県大原遺跡(古墳時代中期)の玉の各制作段階と砥石(よくもまあ揃えたものだ……)。

【「勾玉だけじゃない」古墳期の装飾素材の多様性と技術】
 てっきり古代人は鏡と勾玉ばかり好きだったのかと思っていたが、「玉」は「勾玉」だけでなく、技術・素材が多様化する中で、装飾品や副葬品としてさまざまなバリエーションを持つようになることが、「これでもか」というぐらいに多くの事例で説明されている。
 展示物は74点。どれも「背景」を含めた説明がなされているので、ザッと見で一巡するだけでも小一時間は軽く超える。覚悟の来館が必要である。
 突然、藤ノ木古墳の国宝の玉まで登場する。14県が競っているのだ。

 写真1枚目:三重県の吾平原北6号横穴墓(古墳時代後期)の玉類。水晶性算盤玉とガラス製小玉にメノウ制勾玉と碧玉製管玉で構成。2枚目:文化庁所蔵の藤ノ木古墳の国宝の玉。ふらっと来た人は気にせず通り過ぎてしまう……。3枚目:鳥取県の蛇紋岩製子持勾玉(古墳時代中期)。てのひらくらいの大きさ。2個が合わさった「得意な例」と解説。4枚目:韓国慶州金冠塚古墳の金冠複製品(原品は三国時代新羅)。朝鮮半島での翡翠の産出例はなく、多数の勾玉は倭との交流を示す。

【土器・埴輪も見応えのある充実の内容】
 古墳期を中心だが、「勾玉」の源流は縄文時代まで遡ること、玉の制作には時代時代の工芸技術の発達も大きく影響していることなどから、時代時代の土器も展示されている。
 またどのように身につけられていたかをイメージできる埴輪も展示されている。
 どれもモノが良く、見応えがある。

 写真1枚目:石川県御経塚遺跡(縄文・後晩期)の縄文土器。2枚目:鳥取県の笠見第三遺跡の弥生土器。3枚目:石川県の八日市地方遺跡の弥生土器。4枚目:出雲大社の境内内遺跡の土師器。このタイプの器台は初めて見た。5枚目:岡山大学考古学研究室所蔵の楯築墓人形土製品(弥生時代後期)。6枚目:埴輪から玉装飾の男女差などを説明。

 個人的に興味深かったのが、天保11年(1840)に破壊された古墳から出土した遺物と、それを記録した江戸時代の文書の並列展示。原寸大の実測図に「穴上下大小アリ」と「管玉」の造形に注目している。「考古学の熱意」そのものが展示されていることを象徴しているように感じた。

 他にも朝鮮半島からだけではなく、西アジア、南アジア、東南アジアからも「玉の素材」や工芸技法が伝わってきていたことが、今回の調査研究で明らかになったことを紹介する展示などもある。

 展示は一部を除きほとんどが撮影も可能。図録はないがカラーの展示案内が配布され、展示室にアナウンスはなかった気がするが、売店で詳細な研究解説をまとめた書籍も販売されている。

 江戸東京博物館での展示は12月9日まで。年明けからは福岡の九州国立博物館で巡回展がある。ここで紹介したものは「ほんの一部」なので、時間と覚悟を用意しての来館をお勧めしたい。

 展示を観終わり、そういえば25年前に出雲で勾玉を購入していたことを思い出した。

#土器 #考古 #博物館 #縄文土器 #歴史

フリーランスの編集・ライターとして活動しています。編集・ライター作品紹介webサイト「神楽出版企画」(企画から制作進行・執筆までワンストップ対応)
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須恵器・土器・考古・郷土史等々に関し、都内近郊の博物・資料館・展示の情報を整理記録がてらアップしていく予定です。