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五歳児に、とりあえず生かされる。

昨日、また尿が汚れた。

朝、自己導尿のカテーテルから流れた濁りのある尿をみた時点で、その日の予定は有無をいわさず決まってしまう。ひたすら水、経口補水液、茶など水分を胃に流し込み、トイレにいく、を繰り返す。居間とトイレの往復。

医師からはあまり神経質にならなくてもいいと言われているが、これが悪化してすさまじい熱が出、入院したこと何度かあるので、過敏にならざるを得ないのだ。

胃が常に水分でふくれているので、全く腹は減らず、昼食はインスタントの味噌汁と残りご飯のみ。そんな犬の餌より少ない食事も、吐きそうになりながらでないと入らない。午後になるとひどく疲れてきて少し眠りたいけど、その間水分がとれなくなるので、ワイドショーや通販番組を眺めながら瞼をこじ開ける。

ようやくなんとか汚れがとれたのは夜になってから。とりあえずは安心したが、一日が排泄物の正常化につぶされたと思うと、ひどく疲労感とむなしさを感じる。ましてやかすみたいにしか残っていない人生の時間かもしれないのに。

今日のところ尿はとりあえず大丈夫だが、今度は血圧が高く、相も変わらず床に臥せっている。午前はメジャーリーグを観て、今はクレヨンしんちゃんのコンビニ本をぱらぱらとめくっている。アニメも面白いが、原作はちょっとおとなめのエピソードもあるので、こちらの方が好きだ。

ちなみに「尊敬するひとは?」と聞かれると、自分は迷わずボーちゃん、と答える。普段は名前通りぼうっとしてるけど、しっかり自分の世界をもってるし、なによりいざというとき先頭にたって、友達を助けるのがかっこいい。オトナ帝国の彼は本当にかっこよかった。五歳児にあこがれる四十過ぎ。笑えて泣ける。

二ヶ月くらい前から短編を書いている。なんとかラストまで書け、今はひたすらに直しをしている。相も変わらずな内容を、相も変わらずに書いている。動きの悪くなってきたマウスにいらだちながら。今日も手を入れたかったけど、上に書いたように体調も悪いし、昨日の疲れも取りきれてないからパソコンを開けない。

これがなにがしかの結果を得られなかったらもう一区切りか、という思いと、それでも死ぬまで、という思いが交錯している。ふらふらしながら書くのもきつくなっている。だがこれをやめたら、本当にやることなどなくなる。水や薬をたらふく飲み、トイレに閉じこもり、飯や菓子を食って出して、あとはだらだらテレビを観て寝るだけ。

従兄は「もういつでも死んでもいいんだ」と以前から言っている。従兄の父は彼が三歳だかで早くに亡くなり、以来ずっと母ひとり子ひとりで生きてきた。若い頃、借金でうちも含めたあちこちに金を借りた末、あげくに自己破産した。今は何度かの転職の後、新聞販売店で勤務している。まだ暗いうちから出勤し、上がったら酒を飲んで八時には寝るだけの生活。息子の借金のとばっちりで、もう七十を迎えた叔母もいまだにパートをかけもちしている。

自業自得だしまわりに迷惑をかけたとはいえ、楽しみも少ない苦労だらけの人生だったから、そう思うのもわかる気がする。自分もなんのために生きてるのかわからないことも多くなっているから。

そんなことを考えつつクレヨンしんちゃんを読んでいたら、やはり笑ってしまった自分がいた。うんちごっこだって。はは、まだおれ笑えるんだな。やはりしんのすけは最強だ。おまえにはかなわないよ。しかたないから、今からまた二十分、トイレにこもることにする。




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