見出し画像

金髪のあの娘の希死念慮が今ようやくわかったよ。


 ハヌマーンの「青春の蹉跌」の裏拍で点滅する青信号を目の前にして今からでは間に合わないと足を止めた時、俺の真横を通り過ぎていく自転車。後ろ姿からは男か女かの判別がつかないほどに厚着をしていた。閑散とした大通りで、気づいたら赤になっていた信号を颯爽と走っていく自転車は、まるで何かに追われているようだった。吐きそうだった。腹の底から込み上げてくる何かは、冬になると思い出す程度の、金髪の女の子の希死念慮と似てる。明るい髪が似合っていないと思ったのは、黒に慣れてしまったからだろう。「いやぁ俺は音楽でお前の世界を真っ二つに切り裂いてやる」とイヤホンから声がした。いつの間にか、曲が変わっていたようだ。なんで生きてんだろうってすげぇ思うんだ。心の底から思うんだ。足音が聞こえる。イヤホンをしていても、どんなにノイズを流しても、足音が聞こえる。それが自分のものなのか、他人のものなのかも分からず、ただ俯いて歩く。

 少し昔の話をしよう。

 高校生一年生、音楽が好きだった。ずっとバンドがやりたかった。それまで、俺にとって音楽が全てで、生きる意味で、生きる糧で、俺の全てを構成する、俺の全てを肯定する、そんなものだった。兄が買った安いベースを持って、軽音楽部へ向かった。期待と不安と、バンドがやりテェ心でいっぱいだった。入部すると、半強制的にバンドを組むことになった。ベースは人気ではなかったので、すぐにバンドを組むことができた。嬉しかった。必死に練習した。指がボロボロになって、痛くて仕方なくても、ずっと弾いてた。先輩のライブに行った。本当にかっこよくて、俺もこんな風に弾けるようになりたいと思った。死ぬほど練習した。それなりに弾けるようになった。俺は組んだバンドで文化祭ライブに出ることになった。そこで気づいた。頑張ってたのは俺だけだった。ライブは悲惨だった。友達にはベースしか聞こえなかったと言われていた。そりゃそうだ。俺は俺なりに努力していた。努力に成果は付随しなかった。それでも俺は練習を続けた。次のライブでは、メンバーが当日に来なかった。それでも俺は練習した。次の日にはバンドメンバーは部室に来なくなった。周りには先輩しかいなくて、部活時間の最後まで練習していたのは俺だけだった。音楽は裏切らなかったけど、音楽に裏切られた気分だった。そのまま時は流れ、次の部長を決める話が出てきた。部室に来ていたのは俺だけだったので、俺になった。

 俺は権力を乱用した!顧問に「今の僕たちにはベースアンプと電子ドラムが必要です!全員から部費を徴収しましょう!そしたら金払ってんだからっていって部室にもくると思います!」って言って、欲しかったベースアンプを買った。クソ男すぎるやろ。その他もろもろ部費を使って買った。(そのうちのいくつかはまだ俺が持ってるのはまた別の話。)部長としてそれなりに頑張っていた。それでも奴らは部室に来なかった。俺はもう諦めて、音楽が好きな他部活の友達を部室に連れ込み、ギターをやらせて、クリープパイプを大熱唱し、苦情がくるほどに、、、それなりに青春してた。三年生になって、いよいよ卒業が間近になった。部長という属性は一個下のそれなりに責任感のあるやつに任せていたが、実質俺がイベント準備とかタイテ決めとか全部やってた。俺は顧問に「今の後輩たちには、ライブハウスを体験してもらうべきです!僕たちの軽音部主催のライブをしましょう!卒業ライプです!全員から部費を徴収しましょう!」そういって卒業ライブを計画した。当然俺の代の部員はほぼ幽霊だったのでもはや俺のためみたいなライブになる予定だった。(言い過ぎかな)出演バンドのオーディションを企画し、下手な奴らは容赦なく切り落とした。お前らはスタッフな!って感じだった。(ちゃんと後輩に嫌われてた)いよいよ卒業が近づいてきた。2月。


 全てが無くなった。卒業ライブ、卒業式、大学の入学式。その全部が無かった。世間が大混乱だった。大学生活の2年間はオンラインになった。CRYAMYのライブを見たきり、ライブハウスそのものに行くことも無くなった。本当に、心の底から辛かった。ようやく俺が生きてきて、本当に楽しいと思えた音楽を、今まで生きてきた意味を、形にするところだった。まるで俺の世界の時間が止まったようだった。

 冷静に考えてさ、辛過ぎん?書いてる今でも泣けてくるんだけど?

 君の髪が明るくなった。それからもう話さなくなったし、友達はみんな上京した。ずっと一人、地元でバイトを続けた。スーパーのレジ打ち。お客さんに頭を下げ続けた。俺のメンタルを保たせていたのは音楽だけだった。ライブには行けないし、会いたい人には会えないし、本当に苦しかったけど、カワノの声は優しくて、ヤマトパンクスの声が耳に突き刺さって、なんとか生きた。

 そして!Now、今日、今、この時、忌まわしき地元に帰省している真っ最中である。色々思い出す。懐かしの場所を巡りながら書いてる。俺が卒業ライブをやる予定だったライブハウスに行ってきた。当時対バンした後輩の演奏を見てきた。ちょっと胸が苦しくて、最後まで見れなかった。ごめん。(この文書を見つけてしまわぬように祈ろう。)家に向かって歩きながら、やっぱり俺は音楽しかねえなって思ってる。なぁ、俺うまく人間やれてるかな。

P.S.銀杏BOYZが好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?