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忘れられたラノベについて語ろう #1

みなさんはライトノベル読んでますか?近年だとなろう系に席巻されつつある印象がありますが、出版社発のラノベは毎年何十冊と出ています。俺は今から15年~5年前くらいまでの間かなり読んでました。社会人になってから段々と忙殺されて読まなくなってしまったのですが、合計2000冊行くか行かないかくらいは読んだと思います。

ライトノベルは発行部数が少ないです。初版3000部で増刷なしなんてこともあると聞きます。その中にどれだけ面白い作品があろうとなかろうと人知れず埋もれていく本というものはあります。じゃあせめて俺が愛を感じる作品についてだけでも記録に残しておきたいと思いました。

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それがこれ。ファントムブレイブ。安曽了 著。日本一ソフトウェアが出しているSRPGファントムブレイブの前日譚に当たる作品です。

人生で初めて感動したラノベです。思い出補正かかってるかなと思って最近読み直したんですが、それでも面白かったです。俺は幼い時分に読んだものって結構読み直すと印象が悪い意味で変わる作品も多いので、恐る恐るだったのですが、それでも面白かったです。

あらすじ

5歳で両親と死別したアッシュは、いやおうなしに現実の厳しさに直面した。彼は、世界のシステムを憎みながら、自分の力だけを信じてクローム(よろず請負人)として生き抜く。だがある日、同業であるヘイズジャスミン、そして彼らの愛娘・マローネと出会うことで、アッシュは優しさや初恋を知る。ささやかだけど幸せな日々。しかし、穏やかな時間は1件の依頼によって終わりを告げようとしていた…。ゲームでは語られなかったアッシュのエピソードを満載した「ファントム」。さらに、ウォルナットが主役の短編「クローム」の豪華2本立て。

この世界のシステムっていうのが厳密な階級制度なんですが、主人公であるアッシュの階級であるクロームの社会的地位はとても低いです。セルリアン(王)→セレスト(貴族)→ネフライト(魔導士・神職者・医者)→フォーン(商人)→フラックス(農民・生産者)→レイブン(傭兵)→クローム(よろず請負人)→ベリル(島荒らし・盗賊)の順です。下から2番目です。クロームは何かしらの特殊能力を生まれ持っているのですが、そのことにより半分化け物扱いされてます。危険な仕事を請け負う代わりに世界に生かさせてもらっている存在です。この「階級制度」というものは一体どういった世界か?というものをとても簡潔に説明できていて、設定考えた人、天才じゃんと思うんですが、あまり使っている作品はない印象があります。主観なのでそうでもなかったらごめんよ。

筆致は軽やかです。ラノベらしく読み易く、それでいて心理描写、情景描写に不足は感じません。僕は、キャラクターが何を感じ、何を考えて、なぜ喋ったのかが見えてこない作品は好きになれないのですが、間違いなくこの作品はキャラクターが息づいています。そういった作品は例外なく名作です。この方の著作は以降もいくつか読んだのですが、変わらず面白かったです。文章力というものを初めて意識したことを覚えています。

この作品、前日譚なのでもちろんゲーム版であるファントムブレイブに続きます。ゲーム版ではマローネが主人公です。マローネのクロームとしての能力は霊魂の召喚や物体への憑依です。いろんな霊魂を使役して戦術を考えたり、なおかつ何の物体に憑依させるかで能力にバフデバフをかけることができるゲームで、難易度自体は大したことないというか、ディスガイアを生んだ日本一らしく、レベルを上げて物理で殴るって感じのゲームです。霊魂を使役するってところで察しの良い人は気づいたかもしれませんが、召喚される霊魂にはこの小説の主人公であるアッシュがいます。ちなみにアッシュの能力は邪悪なものを打ち祓う力を得る、またはその力を物体に付与する能力です。純粋にパワーアップもします。

ぶっちゃけるとこの小説でアッシュは死にます。ヘイズとジャスミンも死にます。マローネはその時点ではまだ能力に目覚めていないので(クロームの能力はいつか目覚めるが、目覚める日はわからない)、たった一人でクロームの娘として世界に放り出されます。

ゲーム版は多少ダークな部分は見え隠れしつつもとても牧歌的な雰囲気で進みます。少しずつ周りに認められ心身共に成長していくマローネと、それを見守り、共に闘い、寄り添うアッシュ。やがて世界に危機が訪れますが、二人は多くの人々の協力を得ながら乗り越えていきます。

前日譚はアッシュが死に、マローネと共にあるようになるまでの物語です。ゲーム版より強く世界の差別的な部分が描かれます。アッシュの恵まれない幼少時代、ヘイズとジャスミンと出会い、その娘のマローネと接するうちに世界を好きになりかけていたが、理不尽に訪れる一行の死、そして両親と死別してしまい、天涯孤独の身になってしまったマローネの境遇。そうあるものだと決められてしまっている世界の残酷さ。そこを懸命に生きる魂の在り方。短編なのですが十分な読み応えがあります。

ラノベに惹かれ始めたキッカケはちょっとエッチな表紙群だったりしたんですが、これを読んで「え!?めっちゃおもしれーじゃん!」となって以降ゲームノベライズも多々読むようになりました。本当にね、面白かったんですよ、いたいけな小学生だか中学生だった俺の魂は震えましたね。2本立てのもう一方に登場するウォルナットはゲーム版にも登場するライバル(?)的なポジションのキャラです。こいつも良いキャラしてるんですが、ここでは置いておきましょう。

この小説、電子書籍版ないんですよね。たぶん、そういうラノベって多いんですよ。当時読んでいた何百人か何千人にしか覚えられておらず、再評価されることもない。そんな本っていっぱいあるんでしょうね。そんなことをふと寝る前に考えてしまい、悲しくなったので、ここで推しておきたくなりました。

小説ファントムブレイブ、めっちゃおもろいよ。

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