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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第11話「包囲網」

 リフニア国の国家魔術師は、三種類ある。回復魔法専門の魔術師である国家回復師。攻撃魔法などを得意とする戦闘魔術師。そして、詠唱団(えいしょうだん)。勇者の召喚を行ったのも彼らだ。召喚獣や使い魔など、召喚と詠唱を専門にしている。長期に渡ってバリアを張ったり、建築魔法などの雑多な魔法も扱う。

 ふはは。詠唱団の輪の中かぁ。もう空間隔離魔法で閉じ込められている。詠唱が聞こえますね。お経みたい。ごめん。俺、成仏してやらないからよろしく!

 でも、団体様で来られたということは、個人での束縛魔法で俺を捕まえる勇気がないからだ。まあ単純にみんなで合唱する方が、魔力も上乗せで強力だからだろうけど。

「元勇者もここまでのようだな」そう言って指揮を執っているのは、リフニア国エリク王子の側近モルガン。オペラ座で逃げ出したわけではなく、しっかり準備してきたようだ。

 でも、二日間お前が来なかったから、王子は怒っていると思うぞ。逆に、今姿を見せたということは俺を仕留める算段がついたということ。そうなると、一向に分からないのは詠唱団の輪の中の俺と一緒にいるこの騎士は誰なのかということ。

 年は三十前半ぐらいで、刈り込んだ栗色の髪に、精悍(せいかん)な顔つき。心当たりもないし、見覚えもない。俺の処刑リストにも入っていない。でも、鎧の肩に入った紋章は隣国ノスリンジアの紋章だ。

「武器のない丸腰の元勇者か」

 勝手におっさんが俺のチュニックの内ポケットから魔導書を引き抜いた。魔導書は百ページ以上ある辞書サイズだが、ポケットに入るときは小さくなる。取り出したときも重さを感じない優れものだ。そして俺の個人情報が満載。いやん。冒険の履歴も記載されている。勝手に読まれると気分がいいものではないので、冷ややかに睨みつける。すると、鼻で笑われた。笑う要素があるのか?

「寝取られた勇者か」

「それ、まさか書かれたままなのか!?」

 謎の騎士はこれ見よがしにページを開いて見せた。地図やアイテム目録、新しく手に入れた呪文などの記載された魔導書なんかは、この一冊に収束して管理される。

 冒険の記録の欄、『勇者キーレはエリク王子にマルセルを寝取られた』から、更新されていない。女神フロラ様、ちゃんと俺の冒険の更新をしてくれ。あのアナログばばあ。魔導書はセーブデータと同じじゃないのかよ。

「お前、俺のこと笑ったよな? 今、頭に来てるんだ。この腕へし折ってやろうか?」

「威勢がいいのはいいことだ。私も貴様をただ生け捕りにするのはつまらないと思っていたところだ」

「生け捕りねぇ」

 面白いことを言ってくれるので、満面の笑みで騎士を見上げると、見下した目で嘲笑いが返ってきた。随分と、挑発的な態度を取る男だ。

 指で喉元の刃を押しのける。俺の指はメスだから、触れると金属同士のぶつかる音がする。刃をつかんで骨折魔法で折ろうとすると、俺の指の動きを察した騎士は素早く刃を引き離した。賢明な判断。

 俺とやり合うのにふさわしい男かもしれないな。せっかくの良い剣が台無しになるところだっただろう? 俺はすくっと立ち上がって伸びをする。寝起きで辛いが、手招きをしてやる。

「殺す気で来な。誰だか知らないけど、舐めた態度取られると、お前の命が欲しくなってくるだろ?」

 騎士の男は歓喜を押し殺すことができないのか、喉を鳴らして笑う。

「そうか。貴様から生け捕りを拒否してくれるとは助かるな。私もできることなら生け捕りなどという生易しい手段は取りたくなかったところだ」

「で? お前誰なの?」

 よくぞ聞いてくれましたというばかりの笑み。指を額に当てて前髪をかき上げたときに見開かれた目は、血を流す獲物を追う鮫みたいに獰猛だ。俺は、こいつの妄想の中ですでに酷い目に遭わされているらしい。気持ち悪い。こんな男に執着される覚えはない。

「私は、隣国ノスリンジアの騎士団長であり、マルセル姫の兄。グスタフだ。さぁ剣を取れ。これは死にゆく貴様への情けだ」

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