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リモートワーク

 目覚ましに気づかないまま寝過ごし、霞む目でスマホの液晶に映った時間を確認すると13時34分と表示されている。家から40分かけて行かなければいけない14時からのカフェのバイトには間に合わないと分かると、「マジかよ、だる。」と漏らした。外では、蝉が鳴いている。もっと大きい声で鳴いて僕を起こしてくれたら良かったのに。店長に電話して、遅刻することを伝えなきゃと思いスマホを操作するが、連絡先のアプリを開いた途端に億劫になり、TwitterやInstagramを開いて、関係の無い情報に触れて、現実逃避する。天気のアプリを見ると「34°」と画面の中央にでかでかと表示されて尚更に行きたくなくなり、スマホを枕元に投げた。別にバイトをしたく無いわけではない。今日みたいに寝坊してしまい、外が蒸し暑い日は家から出たくない。とりあえず、クーラーを点けて、洗面所に向かい顔を洗って歯を磨いた。

 しばらくの間、ぼーっとしてると、一つの案が浮かんだ。思い立ったらすぐに行動しろと糖尿病になった爺ちゃんが言っていた。僕は急いで店長に電話をかけた。

 「はいもしもし。」

 「もしもし、高田です。」

 「高田くん、どうしたの?」

 「今日僕14時から、バイトなんですけど。」

 「うん、そうだね。」

 「あの、今日はリモートワークで出来ないかなと思いまして。」

 店長は食い入るように返事をした。

 「ん?どういうこと?」

 「今日のバイトを家で出来ないかなと思いまして。」

 「ちょっと、言ってる意味が未だよくわからないんだけれど。ウチ、カフェだよね。それを家でバイトするってどういうことかな?」

 「事務所にタブレットあるじゃないですか。あのタブレットのカメラ機能使ってバイトしようと思うんです。レジのところにタブレットを立てかけてもらって、お客さんが来たら僕が接客するのでどうですか?」

 「どうですかちゃうわ!ええ訳ないやろ!なんやその提案。高田くんがカメラ越しに接客しても、結局俺が会計する訳やろ。なんやそのシステム!まだ一人の方が楽や。てかこれも一人でやってるのと変わらんわ!」

 「じゃあどんな感じで家から手伝えばいいですかね?」

 「まずリモートワークの発想から離れなさい!なんでそんなにリモートワークしたいの?」

 「最近見直されてるじゃないですか。働き方改革とかワークライフバランスとか。こういった課題に対して、抜本的な策を講じていくべきだと思うんですよね。」

 「いや抜本的すぎるよ!問題を解決しようとして、システムを破壊しちゃってるからそれ。」

 「じゃあ、僕は世界のために一体何をすれば良いんですか!?」

 「なんの話してんねん!俺たち今そんなスケールでかい話してないやろ!高田くんにできるのは、とりあえずバイトに来ることや。」

 「でも、今起きたとこなんですよね。」

 「お前寝坊しただけやないかい!意味わからん提案してくると思ったら寝坊してやがったなおい。」

 「リモートワークができないということなので、遅刻も致し方ないということで、今日はよろしくお願いします。では失礼します。」

 店長は何か言いかけていたが電話を切った。「しゃーない、行くか。」そう呟いて僕は、バイトの身支度を始めた。

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