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ギターを弾かないギター教室… お前はプロの入り口に、立っている!

 今日はギター教室を出た時から、すごく腹が立っていた。
 しかし、家に帰って冷静に記憶をたどると、今日は、“すごいこと”を、教わったように思えて来た。
 それは、“ワンステージ上の表現”について、である。
 今回はDTMソフトを使って、新しいオリジナル曲のデモ音源を作って、持って行った。素人の私から見れば、完璧な出来栄えだった。ピアノ、バイオリン、クラシック・ギター、ベース、ドラムス。決して聞いていて、遜色ないものである。

 それに対して、奴は音源を聞くなり、なんとぬかしたか。
「ドレス・コードのある私のパーティーに、ヨレヨレの薄汚れた服装で、“やあーっ”と、場違いな挨拶で、あなたに入って来られたような感じだ」
 と、言われた。罵倒された。音楽に関して心に深く突き刺さるような罵倒のされ方は、これで2度目だ。
 さらに、奴は続けた。
「人のパーティーに来るんだったら、それなりの心構えの感じられる格好で来てもらいたい」
 と、罵倒の上乗せをしてくれた。
 つまり音楽を教わるという態度が、この音源には備わっていない、というわけだ。
「音楽をまがりなりにも教わっている人に対して、自分の楽曲を披露しようと思うなら、もう少し品質の良い物を作ってくるように」
 と言われたわけだ。しかし、私には、このデモ音源のいったいどこが悪いのか全く理解できない。しばらく、呆けた顔でいると、彼はさらに続けた。
「まず、出だしの音色を聞いただけで、“もう、うんざりだ!”と思ったね。出だしの音だけで、もう、聞く気がしなくなったよ」
 と言われた。パソコンの打ち込みで出したPCの音だから、狂いはない。でも、音色までは保証できない。
「一つ一つの音色に、その人の楽曲に対する“気合い”が感じられない」
 ならばAppleのLogic Proで、打ち出せばよかったのかと、ただした。
「Logic Proでも、そのままの音源じゃなくて、ドラム一つをとっても、音の完成度の高いものを使ってもらいたい。あなたのデモは、デモ音源としてはできている。ただ、作った曲を時間までに納めなくてはいけないから、とりあえず、これでいいかな、と作ってきた音だよね、これじゃぁ」
 言われた通り、確かに期日に間に合わせたものだ。なんとなくわかったような思いで、その日は腑に落ちないまま、

“もう、この教室はおしまいだな。俺は金を払って教わりに来ているんだぞ! 客だぞ!”

 と憤慨しながら、家路についた。
 帰って来てからも、どうも気持ちの納まりがつかない。奴の言葉に怒りが爆発しそうになりながらも気分転換にと、amazon primeで映画を見始めた。
 その時、ハッとした。いつもの映画の画面なのに、いつもは気に掛けない主人公の周りの映像が、いつもと違う緻密さで、視覚に飛び込んできた。

“周囲の作り込まれた建築物や家のベランダや海や緑や、景色一つ一つに、プロの専門家としての工夫が凝らされていて、血が通っている”

 そんな風に感じられた。
“映画の画面全体の緻密な細部に至るまで、プロの血が通っている”
 と思った瞬間、モニターの画面全体が、“神々しく光り輝いて”、見えた。そう、画面全体の細部の細部に至るまで、その分野のプロとしての人間の考えぬいた血が通っている、と感じたのだ。

“奴が俺に言いたかったのは、これだ! この緻密な画面作りを、音で出して来い!”

 と、訴えていたんだなと、思えたのだった。
 つまり彼は、この私(※“俺”から変化している)に、
“素人レベルでなくて、プロレベルの音のクオリティーの片鱗を見せろ!”
 と、“ほざいていた”んだな、と。
“お前は、もう素人じゃない。かといってプロでもない。でも、プロの入り口に立っていることを示すだけの、高いレベルの音源を持って来い!”
 と、奴はぬかしたんだと。そう思い直すと、以前に聞いたときには、不可解に思えたいくつかの奴の発言の辻褄が、合って来た。

 以前、もめたのは、DTMソフトの“Logic pro”の音源についての発言だった。私は、
「Logic proにプレインストールされている音源って、今一つチープですよね」
 と、批判した。すると奴は、
「Logic proでも、お金を出せば、いい音源がある!」
 と、ガンと言い張った。今回は、
「今いちだけど、この音源はこれで完成している。しかし、これでは、間に合わせでしかない」
 と。音楽をまっとうに習ったことのない素人の私への発言としては、厳しすぎる。しかし、考えようによっては、こうも受け取れる。
“お前のレベルは既に素人のレベルを卒業して、プロの入り口に立っている。だから厳しく言うが、これじゃあ、ダメだ! その服装のままじゃ、俺のパーティーに出席させるわけにはいかない!”
 と言われたのだと思う。そう思うと、いつのまにか奴への怒りは納まっていた。

 うーん、本当にそうか? 奴は本当にそう思って言ったのか? ただ、“面倒くさいから追い返しちゃえ”、という意味じゃなかったのか。 

 と、もう一人の自分が自分に訴える。そういうことに、しておいてくれよ。でないとコーヒーが不味くなる………。

“これって、文章の世界でも似たようなことがあるな”、と思った。

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