見出し画像

心が騒(ざわ)つく夜は、一人でお点前…

 気持ちが何かに引っ張られて、落ち着かない。騒(ざわ)ついたままで、心の据わりが悪い。何も手につかずに、パソコンのポインターをあっちにやったりこっちにやったり。気持ちが何ひとつ、どのページを開いても集中できない。

 日がな、こんなことで時間を無駄にしてしまっていると思うと、いたたまれなくなる。気持ちがどうやっても落ち着かない時は、独服のために、一人お点前の準備をする。

 部屋はワンルームのフローリングなので、当然、「炉」は切ってない。風炉はあるが、熱源がない。炭はおろか電熱器も。鉄の茶釜にお湯を注いで、IHコンロで温める。部屋の適当な場所に、新聞を半分に折った上に四つ折りの新聞を重ねて、その上に温まった鉄の茶釜を置く。そこから、3、4歩離れたところを茶道口に定めて、「炉の薄茶の運び点前」を始める。道具の拝見も、主客を一人二役で問答を行う。1回目、2回目、と独服する。

 3度目が終わるころには気持ちが整って、落ち着いている。一人で、穏やかな笑みさえ浮かんでくる。時には着物に袴をつけて行うこともある。袴の裾の捌き方に慣れていないと、裾を踏んづけて転びそうになる。袴に慣れるためにも、袴をつけて一人で「運び点前」を行う事もある。

 こんな風に自分の気持ちを整えるために「お点前」が役に立つと感じたのは、2ヶ月ほど前の事である。そのころ先生に「盆略点前」でダメ出しを受けた。そこで、自宅で「月夜の千回お点前」と称して、自主練習を始めた。無事「盆略点前」を終えると、次は自宅で予習として「風炉の運び点前」を行った。しかし、教室のお稽古は「炉の運び点前」だった。季節は冬、「炉」の季節だった。そんな失敗を繰り返しながらも自宅で行う「自主練」が、メディテーションとして、心を整える効果があることに気付いた。

 以来、心が騒つく日はつとめて、「一人でお点前」、と決めている。


創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。