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「清少納言の関係の方かしら」

 先日の茶道のお稽古の問答の時のこと。いつものように、主客に茶杓の銘を聞かれた。
「お茶杓の銘は、空よりの花にございます」
 主客は黙っていたが、質問は隣にいたおっしょさんから来た。
「それは、どういう意味?」
「古今和歌集の清原深養父(きよはら ふかやぶ)の和歌で、
  冬ながら 空より花の 散りくるは 
           雲のあなたは 春にはあるらむ
 から取りました。つまり、空よりの花とは、雪のことです。
 空から花が散ってくるのは、あの雲の向こうは春なのですね、という意味の和歌です」
「作者の清原深養父の姓が清原ということは、清少納言の関係の方ね」
「失礼しました。その点につきましては勉強不足で、わかりかねます」
 その日の問答は、そこで終了した。
「カゲロウさん、この後、お時間はありますか?」
「はい、時間はたっぷりございます」
「でしたら、次の方のお客をやってちょうだい」
「はい。かしこまりました」
 今度のお客の役は濃茶のお客の役だ。問答は薄茶の時よりも、少し質問内容が増える。しかし、それすらも暖かいおっしょさんの影の声で、なんとか乗り切ることができた。
 お稽古が終わって4人の姉弟子、妹弟子たちとともに、おっしょさんに挨拶をした。
 最後に、
「何かご質問は?」
 とおっしょさんに聞かれて、私は最近の話を少しした。
「最近は俵屋宗達の話を書いています。資料を読み進んで行きましたら、千家二代目の少庵がある人に出した手紙の中に、俵屋宗達もお茶会に呼んであります、という一文を見つけて、一人静かに喜んでいました。さらに千家三代目の宗旦が、初めて武家から天皇に嫁いだ徳川和子にお茶を教えていたという一文も見つけて宗達が朝廷に結びついていく証拠を見つけ、これも一人静かに喜んでいました。出来上がりは一年後ですが、今度こそは期待してください」
 とおっしょさんにアピールした。
「完成したら、ぜひ読んでみたいと思います」
 と姉弟子、妹弟子たちの前で笑顔で答えてくれた。
 こんな些細なことだが、執筆の労苦に耐える強力なエネルギー源になる。

 ちなみに後で調べてみたら清原深養父は、清少納言のおじいちゃんだった。

創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。