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「花月百回、うる覚え?」

「カゲロウさん、違うでしょ。花月百回、朧月(おぼろづき)、でしょ」
「そうでした」
 周りに居た姉弟子達も、
「言葉の意味が似ているので私たちも違和感なく納得してました」
 茶室に居合わせた皆が笑ってしまった。相変わらず美人で気の強いおっしょさんとは、掛け合い漫才をやっている。それまでは床の間の茶掛やお花の話をして、高尚で優雅に盛り上がっていたのに。
「寿星光彩掛南山」と崩し事で書かれているお軸を見て、
「先生、お軸が読めません」
「どの字が、わかりますか?」
「一番上は、春かな」
「右に点があるでしょ」
「寿、星、光、彩、南と、心ですかね」
「最後の筆の払いが、心なら上でしょ」
「山、です。寿星光彩、南山に掛かる、ですか。なんとか読めました」
「諦めないで、まずなんとか読めると思い込むことも大切です」
「私も、そう思います。思い込みは力になることも、多々あると思います」
 どうして花月の話になったかというと二ヶ月先にお茶会があって、そこでお点前を披露するお弟子さんを選抜する試験が行われる。その試験まであと一ヶ月を切っている。
「カゲロウさん、来週の土曜日も選抜試験のためのお稽古でしょ?」
「来週は無しです。というのも日曜日が花月のお稽古が入っているものですから」
「そう。花月はどうですか?」
「体育会系の血が騒ぎます」
「そう、体育会系よね。ホッホッホッホッ」
 そこで、
「でも、花月100回、うる覚え、です」
「違うでしょ。それは、朧月でしょ」
「あっ、そうでした。花月百回、朧月でした。」
 と、お稽古の茶室が笑いに包まれたわけです。
  次回のお稽古が、今から楽しみです。

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