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35年前に書いたハード・ボイルド アイテムを最新機器でリメイクするぞ!

 第一章 月と星と、砂の湖 

 摩天楼の夜景が広がる、高層マンションの一室。その乾いた空間に、電話のベルが響いた。相手が話し始めるまで、中岡は受話器に向かって話しかけない。それは仕事がら身に付いてしまった職業病のようなものだ。人によっては失礼だと思うだろう。しかし、くだらないことに関わり合いたくないからだ。間違い電話なら、そのまま切ればいい。仕事の依頼なら向こうから話はじめる。取材活動に対する嫌がらせなら、そのまま切ってしまえばいい。
「圭吾……」
 受話器の向こうで女の声がした。電話はそこで切れた。次の言葉は無かった。声はレイのものだ。名前を呼んだだけで、すぐに向こうから切れた。声の調子からは落ち着いているようにも思えたが、ひどく緊張しているようにも聞こえた。言えるのは、陽気ないつものレイの声のトーンではなかったこと。しかも、すぐに電話は切れた。何か重要な用件なら、またレイからかかってくるだろうと思った。そこまで考えたとき、しばらく電話も連絡も取れていなかったレイが、どうして突然、電話をかけて来たのか、思いあぐねた。もう、彼女と連絡が取れなくなって半年あまりになる。
 中岡は千絵が忘れていったメンソールのタバコに視線を投げ、そして今かかってきた電話の受話器に視線を移した。
“いまのは確かにレイだった”(※ 後略)

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