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罪と魂の代価として、涙するシーンを悪魔と天使から譲り受ける

 悲しくて涙を誘う話しを書こうとすると、自分が現実に相手を痛めつけている様な罪の意識に捕らわれる。今度は別人の仮面を被って痛めつけられた人間を、強く抱きすくめる。抱きすくめられた人間が、悲しみから逃れられた感謝の言葉を何度となく口にしても、
『お前を落としめたのは何を隠そう、お前をだきしめているこの私なのだから』
 と、罪の意識にさいなまれる。そうでありながら一部始終が記された字面からは、涙を誘う情景が溢れ出てくる。この状況を作り出した自分の罪をどうやって償えばよいのか、出口が見えなくなってしまいそうだ。
 しかし、この壁を乗り越えなくては、悪魔と天使に魂を売った命を揺さぶる物語を紡ぐ事はできそうにない。いっそのこと罪の意識を逆手にとって、悪魔と天使になりきるしかなさそうだ。
 明日の直木賞受賞作家の名の下に、一切のこの世の罪を犯し、起こりうる全ての悲嘆の沼の底に沈みかけている哀れな者たちに手を差し伸べる、救世主のように。

創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。