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女優のお隣りで、お茶会出席の誉れ!

 先日は、茶道教室の恒例のお茶会でした。そこで、またもやらかしてしまいました。しかし、精神的な凹みを埋めて、さらにお釣りが来る様な出来事に遭遇してしまいました。本当に茶道は私を何処へ運ぼうとしているのか。輝かしい未来を予見させられる様な、そんな出来事がありました。
 まず、やらかしたことというのは、自分がお手伝い要員になっている事を知らなかったこと。
 会場の入り口で、席入りの列に並んでいた時のこと。やって来たおっしょさんが私と顔を合わせるなり一言。
「あなた、どうしてここにいるの。お手伝って決まっていたでしょ。あなたにピッタリのお仕事を決めてあったのに。下足番のお仕事。午後4時まで」
 一瞬にして顔が青ざめてしまった私でした。しかし、午後も予定が入っていた私は非常事態宣言をして、ご容赦願いました。
 そして、凹んだまま、お茶会が始まりました。私は偶然、成り行き上、正客の隣りの次客に。正客は高齢の男性。そして、私の次の席には和服の見目麗しいご婦人。あまりの美しさにしばし見惚れるほど。そしてお茶をいただいたあとのこと。私は萩のお茶碗。三客のご婦人は黒い楕円形のお茶碗。そこで、いつもの癖で、ご婦人にお声がけ。
「変わったお茶碗でしたね。楕円形の黒いお茶碗で」
 するとご婦人は笑顔で質問に答えてくれました。
「ええ、そうなんです。どうやって飲めばいいのか、悩んでしまいました。あれは、黒織部ですかね」
「そう言われれば、黒織部の沓茶碗みたいでしたよね」
 と答えながらお顔を見ると、何となくテレビでよく拝見する美人女優に似ている。私はしばし思案した。その様子を、ちょっと離れた所で見ていたおっしょさんが口を挟んできた。
「カゲロウさん、どうなさったの?」
「ええ。こちらの方が、あまりにもお美しいので」
「どなたかに、似てらっしゃると?」
「そう。似てるんですよ」
「そうでしょ。女優さんですから」
 その一言で、全てを理解した私でした。ご婦人の方に向き直ってさらに一言。
「どうして、こちらにいらっしゃったんですか?」
「私も先生の弟子の一人ですから」
 と言って微笑んでくれました。そのあと茶室を出て立礼の薄茶でもお隣りで。さらに食事の点心の席でもご一緒させていただきました。その間、移動中も席に着いてからも、食事中もずっと二人でお話をさせていただき、綺麗な女優さんを2時間という長きにわたり、私一人で独占してしまいました。その間、私の書いた本を紹介させていただきました。松本清張賞に応募した長谷川等伯を書き上げた時の苦労話。さらに、いま手を付けている俵屋宗達の執筆のアイデア。また、彼女は京都出身なので小説の舞台としての京都の魅力。本当に知古の友人の様に話は続き、会を終えて別れ際まで、二人の会話は途切れることはありませんでした。最後には女優に向かって恐れ多くも、
「お一人でいらっしたんですか。よければ私の車でお送りしましょうか」
 と立場も忘れてお声掛けをしてしまいました。当然、断られましたが。夢の様な時間は、あっという間にすぎ去ってしまいました。
 本当に茶道は、私を何処へ連れて行こうとしているのか…。
 別れ際に一言。
「あなたに出演していただける様な良い作品を、近々絶対に書き上げます」
「楽しみにしております」
 お別れのお辞儀をする和服の彼女の姿が、瞼に焼き付いて離れません。

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