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祖母の着物を染め直して、洗い張り

 先日の茶道教室でのこと。二十代後半の方だと思われる女性の着物の柄に目が止まった。つい癖で、その人が隣りに座った時に、お聞きした。
「なかなかモダンな、良い柄のお着物ですね」
 と話しかけた。そこから、彼女の物語が始まった。思いもかけなかった話の展開に、人には話しかけてみるものだと感心した。中には、声をかけなければよかった、と後悔させられる人種も、たまにはいるが。
 この時の彼女の話は、面白かった。どう面白かったのかと言うと、こうである。
「なかなかモダンな。良い柄ですね」
「ありがとうございます。実は、このお着物は祖母の物なんです」
「それは、それは。それにしては、時代を感じさせない、良い柄ですね」
「実は、元は無地の着物だったのです。それが、前に泥が跳ねてしまって、その跡がシミになって消えないものですから、ほどして染めたんだそうです。ちょうど。この辺りに泥のシミ跡があるんですが」
「全然わかりませんね」
「そうなんです」
 祖母の着物の話をしている彼女は、嬉しそうに話している。その笑顔に釣られて、新たな質問をしてみた。
「お着物を着て、毎回電車に乗ってお稽古に来てるんですか?」
「以前は、そうだったんですけど。最近、環境が変わったものですから、そうもいかなくて」
 などと、着物の話から始まって彼女の育った環境まで垣間見ることができたが。いかんせん、お稽古のお仕舞いの挨拶の途中だった。
「カゲロウさん、盛り上がっているところ申し訳ないけど、ご挨拶ね」
 まあ、先生には私の話好きのメリットもデメリットを見透かされているので、無条件で従うしかないのだが。この間も、
「お雛様のお茶会、男性の出席者が少ないので。カゲロウさん、当日は注目の的よ」
 と、からかわれる始末。
 幸せな時間は、あっという間に過ぎて行きました。

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