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白居易の「酒に対する」に、お茶碗の銘にいいのがあった

 先日の李方子作のお茶碗には、お茶室に居合わせたみなさんに、幸せを少し分けていただきました。それで気を良くした私は、次の作戦を練ることにしました。選んだ漢詩は、白居易の「酒に対する」です。この漢詩は五首連作の作品だそうですが、特に有名なのは二首目だとか。

蝸牛角上に 何事をか争う
石火光中 この身を寄する
富に随、貧に随う しばらく歓楽せよ
口を開いて笑わざるは これ痴人

 上記の漢詩から「口を開いて笑う」の「口開笑」にしました。
 白居易と言う詩人は70歳代で退官し、その後は、詩と酒と琴を三友として悠々自適に暮らした。そんな概ね恵まれた人間らしい生活を送って来た人だから、こう言う漢詩を残すことができたのだろう。
 さて、この漢詩から引き出した三文字の銘を茶杓に使うのは割と楽である。ただ、お茶碗となると、作者がはっきりしているから、その取り合わせを間違えると、意図したものとまったく違った意味合いになる可能性がある。
 今回の銘は、お茶碗の銘として使おうかと考えている。
 前回のお稽古で味をしめた「MY おちゃわん」の第二弾である。使うお茶碗は、佐々木昭楽作、楽長次郎の「草庵」の写しである。通常の黒楽よりもわずかに小ぶりなお茶碗。その分、手のひらにしっくりと馴染むしつらえになっている。そんなお茶碗に、「口開笑」を銘として付けようかと。
 白居易の人生と楽長次郎の「草庵」。
「口を開けて笑わないのは痴人である」
 と。権力闘争の続く世界から身を引き、詩と酒と琴を三友として暮らす。  
 楽長次郎に「草庵」という黒楽茶碗を作らせた千利休も、晩年はそういう茶人の生活を送りたかったのだろと、思えてくる。
 


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