君からの手傷と音楽

俯いて歩いてゆけば人道のタイルの組がずれて、転調

転調の合図としてのさよならとそのときどきに覚えたコード

便箋に文字を植え付け送るから君の心で育てて欲しい

友達の女の名前の短くて鳴き声のごとその名前呼ぶ

調律の狂ったギターで奏でたる君との季節、黒きダアリア

憂鬱がさんさんさんさんって鳴り響く、朝日が耳にうるさい月曜

真夜中の歩道で潰れたゴキブリの苦しくってやがて朝焼け

雨降りのなんで青色?降る雨の全てに名前を付けて尋ねた

一枚のガラスを隔て肺呼吸、鰓呼吸してつか見つめ合う

鳴き声で分かり合おうとしてみたら、言葉が生まれてしまう、助けて

荷台から荷物をおろす口ぶりで、君は私に「おろす」と言った

君の喉裂いてしまって一生の夜の吐息や薔薇を取り出す

一年に何度か生きて死んでゆく短歌のなかの架空の人が

眠りゆく猫の動画を見るたびの瞳のうちに眠りゆく猫

妹のまぶたの裏にある都市へゆっくり降りるオリオン、こぐま

三分で魔法のようにラーメンを作ってくれる私の右手

電線に鳥は音符のごと並び、これは一瞬だけのソナチネ

鳥たちは冬の言葉でさえずって、いつしか君にライ麦落とす

お互いの鍵を失くして笑い合い、この牢で死ぬ覚悟を決める

最後には愛が必ず偶数で閉じていくよう祈る夕暮れ

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