【物語】夢への道連れ

 ◯アイミの夢◯

 内容は覚えていないが、夢を見た。
 夢の中でありながら夢を見るのか。
 夢中夢から一段階目を覚まし、部屋の天井を見上げる。
 八畳ほどのワンルームマンションの一室、ベッドから半身を起こす。
 七月初旬にして昨夜はすでに熱帯夜、当然のように私は裸で寝ていた。
 いや、寝る前にせめてナイトブラはしたはずだ。脱がされたか?
 私の隣で未だ寝息をたてる女、サユリもまた当然のように裸だ。
 脱がしたとしたらこいつだが……まあそれはいい。

 壁の時計を見れば11時半。
 二コマ目の講義はもう終盤にさしかかっているころで、つまりは私とサユリはサボってしまったことになる。
 であれば、せめて午後の三コマ目には間に合わなければ。この女を間に合わせなければ、と、サユリの頬をかるく叩く。

「サユリ、もう昼だよこれ。起きな。」

 サユリは目を閉じたまま、むにゃむにゃとこたえる。

「なよ竹の方だよぉ……」

 なよ竹?
 ああ、起きな、翁か。
 厚かましいな。
 翁でないならせめて嫗だろう。

「起きろ。学校いくよ。」

 頬をぺしぺしと叩く。

 ようやくサユリはぱちりと目を開き、私を見る。
 およそ寝起きとは思えない鋭さで私の瞳に焦点を合わせる。

「あ、アイミ。おはよう。」

「おはようじゃないよ。やんごなき夢を見くさって。」

「え、なんで知ってんの。」

「もれてたよ。なよ竹の。」

「そっか。」

 サユリもまた、上半身を起こす。

「おわ、裸だ。」

「脱がしたろ。ブラ。」

「えぇ? 自分で脱いだんじゃない? 暑かったもん。」

「そう……かなぁ。」

「だいたいそれ、バンザイしないと脱がせられないんだから。」

「ああ、そっか。」

 私とサユリはベッドを出て、大学に行くための身支度を始める。

 私は気づいている。

 これは、夢だ。

 私はあまりに幸福だ。
 サユリという恋人がいて。
 バイトをしなくても学び遊ぶだけのお金があって。
 すでに県内のそこそこ大きな企業の内定があって。
 卒論も、このペースでいけば問題なく書き上がるだろう。
 つまり、時間に余裕があって。

 そのすべてで以て、このサユリという甘えた女を甘やかすことができる。

 私は幸福すぎる。

 夢でなくてはなしえないほどの。

 寝汗を拭い、服を着る。
 サユリは寝汗を流そうとシャワーを浴びている。
 その間に、洗面台で、顔を洗い、歯を磨き、化粧をし、髪を整える。
 シャワーから出たサユリが、体を拭くのもそこそこに、歯を磨き出す。

「ほひう、ほうふふ?」

 歯を磨きながら、サユリがもごもごと問いかけてくる。

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