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「癒しの洗濯機」〜ショートショート物語1〜

自宅のドアを開け、そのままリビングにドタドタと雪崩れ込む様に入る私
肩に掛けていたカバンと、いつもより早く帰宅した事で購入することができた、近所のスーパーの弁当(半額)をテーブルに置くと、そのまま床にドッカリすわり壁にもたれかかる。
 深く大きな長いため息一つ。
カバンからは時折スマホの通知音が鳴るも、目線はずっと反対側の壁を見つめたまま。
 いろいろな事が頭をよぎる。どれも取り留めなく、しかしどれも少しづつ私の心をすり減らしていき、今日という日を実りあるものから、史上最低の日へと塗り替えていった。
 再び深く大きな長いため息、が突然。
「ガッ!、バチッ!、ゴゴゴゴゴゴ!」
突然部屋中になり響く轟音と振動。
多分実際にはそこまで大きな音では無かったのだろうけど、咄嗟に身構えてしまった私は、音の出所を目で追い始める。ほどなくそれが洗面所である事に気づいた。
 「あぁ...、洗濯機か...」
何てことはない。出かける前ににタイマーセットした洗濯機が動いたのだ。
徐ろに立ち上がると、洗面所のドアを開ける。するとフワッとした花の香りが鼻腔をくすぐる。
 そういえば、いつもは帰ってくる頃にはもう洗濯が終わっているから、こうして動いているのを見る事ってあまりないかも...
つい今しがた動き始めた洗濯機の前に立ちながら、そんな事を思う。
花の香りもリズミカルな音も妙に新鮮に感じ、そのままジッと見つめる。
ジリジリとタイマーの数字が減っていく。
それと共に頭の中の取り留めのない思いもまた湧き上がってくるのを感じる。
 どうしてこんな事になってしまったのだろう?
そう思う私の心と裏腹に、洗濯機はなおも音を立てながら動き続ける。
タイマーの数字がまた一つ減る。
 ジッと見つめる私
ガチ!音がなり先ほどと打って変わって連続的な轟音と振動が響き渡る。それと共に花の香りが今までで一番強くなった。
 あぁ、洗濯機ってこんなに匂いを漂わせるんだ...
今までの生活では気づけなかった事に気づく。どんどんタイマーの数字が減っていきついに0になる。
 「え!?なんでそんな音なん!?」
鳴り響く洗濯完了のアラーム。しかし、あまりに魔の抜けた音に思わず声に出してツッコミを入れてしまう。
 浅く短いため息一つ
微妙に口角が上がるのを感じつつ、先ほどより軽くなった気持ちでリビングに戻る。
カバンに手を入れスマホを手に持つと、意を決して先ほどから何度も鳴る通知の主へと通話をし始めた。


 初めて洗濯機を購入したのは、確か今の会社に勤める前、一人暮らしを始めた時でした。
最初の頃は洗剤の他に柔軟剤が必要だとは思っておらず、大体タオルとかをゴワゴワにしていました。
柔軟剤の匂いっていいですよね

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