外国為替市場について学ぼう:国際金融のトリレンマとは

経済学の中には是非とも知っておくべき理論がいくつかある。
経済学はかなりの部分が疑わしい理論で成り立っているものも多い。
そんな中、とても分かりやすくて重要な理論の一つに「国際金融のトリレンマ」というのがある。
今回はこれについて解説したい。

ジレンマという言葉はご存じだろうか。
例えば今、自分の財布には1,000円しかなく、このお金で何かお昼ご飯を食べるとする。
あなたには色々好きなものがある。
焼き魚定食も魅力的だし、肉じゃが定食も魅力的だ。
そばを食べに行って親子丼を追加する手もある。
パスタを食べてもいいし、中華やアジア系でもいい。
だが、1,000円という制限があるので、それ以上のものは選べない。
よし、和食の定食屋に行こう!
すると、とんかつ定食と刺身定食がとても魅力的に見える。
どちらも1,000円だ。
とんかつ定食を選ぶと刺身が食べられないし、刺身定食を選ぶととんかつが食べられない。
とんかつか、刺身か、どちらを選ぶか・・・といったのがジレンマである。

つまり、一方を選べばもう一方を選べないというのがジレンマだ。
この「あちらを選べばこちらを選べず、逆にこちらを選べばあちらを選べず」という葛藤の選択肢がジレンマでは2つなのだが、トリレンマは3つとなる。
つまり、トリレンマは3つのうちの2つを選ぶと残りの1つは選べなくなる。
逆に言うと、何かを優先させるために3つのうちの1つはあきらめなければならないというものである。

国際金融において、「国際金融のトリレンマ」というものがあり、これは、①自由な資本移動、②金融政策の独立性、③為替相場の安定、という3つの目標を同時に達成することは不可能で、このうち2つの目標しか選択できず、必ずどれか一つをあきらめなければならないことをいう。

①自由な資本移動をあきらめた場合
このパターンは、金融政策を自由に行い(金利の上げ下げを政府が自由に決定する)、かつ、為替相場も安定的に固定する。
こうした場合、金融政策によって金利が変動されることによって資本が流入したり流出したりしようとする。
資金の流出入によって通常は為替相場が動いてしまうのだが、為替相場を固定しているので、流出入が止められない。
しかも、為替相場を維持するために各国政府が資金の流出入に合わせた為替市場の調整を行うことになる。
これによって資本移動を自由には出来なくなるというわけだ。

②金融政策の独立性をあきらめた場合
これは自由な資本移動(①)と為替相場の安定性(③)を選択した通貨ユーロを選択したユーロ圏の欧州の国々が実例だ。
資本は欧州域内外で取引できる上に、欧州内では単一通貨ユーロで取引をするために為替相場が安定している。
しかし、欧州中央銀行によって金融政策がとられているため、ユーロ圏各国は自由な金融政策(②)を取ることができない。
過去にはそれによってギリシャやイタリアなどが破綻危機となった。

③為替相場の安定性、つまり、固定相場制をあきらめた場合
このパターンは日本やアメリカ、イギリスなどの先進国や一部の新興国などの多くの国に当てはまる。
自由市場経済を実現させ(①)、金融政策も自由に行うため(②)、為替相場は安定的な固定相場制をあきらめて変動相場制を採用するというものである。
自由市場経済の実現(①)は資本主義経済の根幹であり、その経済の発展と安定性の為に自由な金融政策(②)は必須なため、多くの国は為替相場に悩まされるのである。

「だとしたら、先日の日銀の為替市場介入は何だったのだ?日本は③の固定相場制をあきらめているのに、相場を安定させるために市場介入したのはどういうことだ?」と気づけただろうか?
そう、③をあきらめた国が為替市場介入を行ったということは、③を少しだけ守るために②を少しだけ犠牲にしたというのが、2022年9月22日の為替市場介入をしたことになるのだ。
③を完全に守りに行くと②を完全に放棄することになるということだ。
国際金融市場というのは、そういう一長一短の政策の中で、どの政策を取っていくかというもので成り立っているのだ。


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