国会議員特権の不逮捕特権や発言免責特権とは何か

国会議員の不祥事が相次いでいる。
そんな中、日本国憲法が定める50条の不逮捕特権や51条の発言免責についてしばしば、「国会議員は犯罪を犯しても逮捕されないのではないか」や、「国会議員の発言には免責特権があるから何を言っても許されるのではないか」というのが世の一般理解であるようだ。
しかし、これらは誤解である。
これらの国会議員特権について、正しく理解するために、その内容を説明しよう。

まず、国会議員の不逮捕特権についてだ。
憲法50条には、「両議員の議員(衆議院議員と参議院議員)は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議員の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。」と定められている。

国会議員も犯罪を犯せば当然に逮捕され、裁判によって裁かれる。
ただし、国会の会期中に逮捕されない場合があるだけである。
憲法で不逮捕特権が定められている趣旨は、①逮捕権の濫用から国会議員の身体の自由を保証し、②議員の自主性を確保するところにある。
さらに言えば、国会議員に不逮捕特権が定められた理由は、衆議院または参議院という会議体として進めている政治的活動を、特定の議員の逮捕や拘束によって阻止されるのを防ぐためだ。

民主主義においてよく「表現の自由が大事だ」と言われるが、この場合の表現の自由とは「政治的表現の自由」のことであり、政治活動は最も重要な民主主義における権利である。
民主主義において、国会議員は立法のための活動などを含め、様々な活動をすることが期待されるが、そのような国会議員の政治活動を「捜査機関による逮捕や拘束」という手段を使って政治活動を封じることがまかり通れば、健全な民主主義制度が維持できない。
このような趣旨から、国会議員には不逮捕特権がある
のだ。

では逆に、国会議員はどんな犯罪を犯しても逮捕されないかと言ったら、そんなことはない。
衆議院や参議院という会議体が、「その国会議員は現在進めている議論に必要だから逮捕しないでくれ」といって逮捕しないように要求できると国会法33条で定められているが、これは逮捕の内容が不当な場合にのみに拒否権が認められている説と、議員活動に支障がある場合にのみ拒否権が認められているという説がある。
いずれにせよ、「別に、あの議員が居なくても国会の運営は出来るし、逮捕するための内容は妥当だよ」ということになれば、そもそも「国会議員の不逮捕特権」は発動されず、国会議員も逮捕されてしまうのだ。

不逮捕特権は、例えば、ある法律について国会で議論しているとしよう。
そのときに、その反対派が法案を潰すために、法案を通す議論に必要な重要人物の議員活動を潰すために、その重要人物の一部の発言を切り取って名誉棄損で訴えて逮捕させようとしたとする。
そのようなときに、「そんな内容の名誉棄損罪で逮捕しようなんて、不当だ!」という主張や、「その議員が居なければ、現在の国会で行われている議論が進まないから逮捕するな!」という主張が当然に出てくるだろう。
不逮捕特権は、このような場合を想定して作られたものである。

なお、衆議院議員であれば衆議院の、参議院議員であれば参議院の審議体が不逮捕の請求をしなければならないが、これはそれぞれの審議体が不逮捕特権を請求するために過半数の賛成が必要となる。
つまり、各議院において、「その議員が居なければ現在の国会運営ができないから逮捕しないでくれ!」という意思表明をする議員が過半数必要となる。
国会議員だからと言って逮捕が免れるとあっては国民の目があるため、よほどの理由がない限り、国会議員たちは会議体としての不逮捕特権を行使することはなかなかないだろう。

仮に不逮捕特権が行使されたとしても、「逮捕」という身柄が拘束されるということが行われないだけであり、刑事訴訟の手続きは始められる。
極稀に、犯罪行為を行った者であっても、逮捕されずに刑事捜査が行われ、刑事裁判が始まることがあるが、不逮捕特権を行使された国会議員はこの流れとなる。
つまり、不逮捕特権があるからと言って刑事裁判を通じた制裁を免れることはできないのである。

なお、2022年に参議院議員となったガーシー議員だが、彼は詐欺罪(刑法246条)を侵し、国会議員になることによって不逮捕特権が使えると発言していたが、彼の場合には不逮捕特権を行使するよう、参議院の過半数の賛成を得られることは到底できないであろう。

また、日本維新の会の足立康史議員は2021年6月4日に国会の場を通して、日本国籍を乗っ取った中国人を擁護する発言を行っているが、先日、当該中国人が日本国籍を不当に取得した中国人であることが深田萌絵さんの裁判で明らかにされ、足立康議員の国会答弁が国会議員という地位を利用し、国会という場を用いて特定の外国人(中国人)の地位確保を目的とした工作であったことがあきらかになった。

国会議員というのは、日本国の利益のために活動することが当然に要求されている。
そのような国会議員が、国会という民主主義国日本において最も重要な場で、特定の外国人の利益の為に行動したことは国会議員としての背任行為(刑法247条)となる行為と言えるし、それに加担した国会は国家賠償請求を請求されかねないような背任行為にあたるのではないか。
いずれにせよ、国会運営とは関係のない犯罪行為を行った場合には、国会議員の不逮捕特権は適用されないのだ。


次に、国会議員の発言の免責について説明しよう。
憲法51条には、「両議院の議員(衆議院議員と参議院議員)は、議員で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。」と定められている。

国会議員の発言に免責特権が認められている趣旨は、国会議員の発言や表決について、①国会議員の自由な言論活動を保証し、それによって、②衆議院や参議院の審議体としての機能を確保することにある。
つまり、「熱く議論をして、ちょっと口を滑らせてしまったことによって責任を問われるようなことがあると、萎縮して思ったことを言うことが出来なくなる。そのような目的から、国会議員の自由な発言ができるようにしよう。」というものである。

では、国会議員はどのような発言をしても許されるのかといったら、そうではないのである。
一般人であれば、特定の発言によって他者を攻撃した場合に、損害賠償責任を負ったり、名誉棄損罪や侮辱罪が科される可能性がある。
国会議員の場合は、「国会議員の議員としての職務行為の範囲内であれば」、そういった罪や責任が免責され得るという程度のものが、国会議員の発言の免責特権なのである。

つまり、発言について免責されるのは職務行為の範囲に限定されているため、免責される内容はかなり限定されている。
更に言うと、国会議員がする野次や私語のような不規則な発言や、侮辱罪などのような犯罪行為は、国会議員の職務行為ではないので、当然に免責特権は及ばない。

なお、国会議員としての政治的責任(衆議院や参議院という院内に対する責任や、政党内における政党議員としての責任)は当然に追求できる。
また、選挙民における政治的責任も免責されることはない。
つまり、国会議員であるからと言って、簡単には発言に関する免責特権が認められることはないのだ。

例えば、先の例に挙げた足立康史議員は先日、インターネットの公開の動画内で深田萌絵さんを「深田萌絵を呼び出して、しばいたる!」と発言したが、これは国会議員の議員活動ではなく、単なる脅迫罪(刑法222条)に当たり得る可能性があり、実際に脅迫罪に当たる場合には、足立康史議員に発言免責特権は適用されないだろう。


日本では、野党の国会議員だけでなく、与党の国会議員によっても、日本国民の権利を大きく損なう活動が様々に行われている。
そのような中、国会議員である彼らには「不逮捕特権がある」とか、「発言免責特権がある」と思って、国会議員に対する責任追及の手を緩めてしまうケースがあるかもしれない。
だが、国会議員はそもそも、日本国民の為の政治活動をするために存在している。
にもかかわらず、その責務を逸脱するような行為は罪に問われかねないのであり、日本国民たるわれわれには、当然に責任追及をする権利が与えられているのである。


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