映画の感想2

ここ数ヶ月で見た映画の感想を書きます。
『インヒアレント・ヴァイス』『ノスタルジア』『HELLO WORLD』『この世界の片隅に』『ももへの手紙』



『インヒアレント・ヴァイス』 ★★☆☆☆

好きな小説家トマス・ピンチョンの現在唯一の映画化作品ということで、原作の『LAヴァイス(新潮社)』を読んでからの鑑賞。

原作を読んでしまったので描写的に不満足な部分はあるにしても、明らかに2時間の「尺」や「舞台」「原作の文章」というものに”制限”をされてしまっている印象が否めない。

正直原作読んでないとストーリー意味不明すぎると思います。そもそもの原作がわかりやすい話ではないにしても、今作は展開がハイスピード過ぎて、謎が謎としての魅力を持つ前に話が終わってしまう。
まずこれが「尺」の制限として残念。

次に「舞台」の点で。
作品舞台の70年のロサンゼルスの描写の制限が目立つ。単に「引きの絵」が少なすぎる。LAPDとか黄金の牙(歯科)の建物が見れたのは良かったが、ほぼほぼ人物がいる”舞台”が描かれていないところに強い制限を感じた。(そりゃ当時を再現するのは難しい話ではありますが、、、)
全篇通して役者の顔のアップばかり。もしかしたらその時代の映画へのオマージュだったりするのかななんて思いながらも、それにしてもあまりにも顔面ショットが多すぎる。しかもセリフを喋ってる人を映してるので映画的にも何にも面白くない。

最後が「原作の文章」の制限。
これは一番良くなかったところ。原作の文章を尊重した会話がわざとらしく感じた。小説の”文字”ではある程度わざとらしくても気にならないのだけど、映像として人が発する”言葉”になった途端違和感が増す。
また厄介なのが”地の文”の扱い。今作では一人の女性キャラがナレーター役として言葉を紡ぐ。ピンチョンの文章を大切に扱ってこのような演出になっているのだが、正直これでは映画化ではなくて映像化でしかない。
こんな映画前にもみたなと思い返すとあれだ、ディカプリオ版の『グレート・ギャッツビー』だ。(こっちは当時の世界をCG使って再現してたのでそこは良かった。)フィッツジェラルドの原作は読んだことなかったけれど、「小説が結局面白いんだろうな」という印象を受けたのを覚えてる。

と言っても、笑えるところもたくさんあるから星二つ。

映像全体の雰囲気は好きだけど”映画”としては少々お粗末。見たかったのはピンチョンの”映画”だったのに、、、
収穫があるとすれば人はこのようにして原作厨になっていくのだなぁと実感できたこと。


『ノスタルジア』 ★★★★★

自分が好んで読んでるタイプの本の何冊かで本作への言及があったので観ることに。それまでタルコフスキー作品は原作が好きな『ソラリス』しか観たことがなかった。

いやぁ素晴らしい映画ですね。映像としての詩、暗喩表現がかなりハイレベルで飲み込まれるように観ていた。
この作品について何かを理解できたかというと微妙なところだが、理解以前のところ、感覚的なところ、言葉になる前の心のざわめきを掻き立てる表現、ストーリーには感嘆。

映像美もさることながら、虚実、いや精神と空間が混ざったような映像演出(ホテルのバスルームから愛犬が現れるところなどまさに)はかなり刺さった。寄り画から引き画のカットでの空間の広がり、雷や物が割れる音の鳴るタイミング。ものすごく気持ちいい。

特にこの作品で良かったのは、鑑賞者が語り手と聞き手のどちらにも同化させられるような演出である。語り手の顔のみ、聞き手の顔のみを長回しで写し、主観と客観(どちらかというと間主観?)が混じり合うような世界観である。
さて今自分はどっちだろうか。常に自分の立ち位置を考えさせる良い映画体験だ。これによってドメニコの言葉がただの狂人の戯言ではなくなってしまう。

主人公アンドレイがロウソクの火を消さないように干上がった温泉を渡るシーン。ここは演出技法的なところでの知見も広がった。
このシーン2度火が消えてしまって3度目にようやく渡りきるのに成功するのだが、恐ろしいことにワンカットなのだ。火が消えてスタートラインに戻るまでの道のりもカットせずに描かれる。
これ、可能性として3度目も消えてしまうこともあったわけだ。つまり何が言いたいかというと、映画としての演出コントロール(制御)から解き放たれたような映像になっているということ。こういう話運びをするからこういう演技をしてね、というコントロールからの解放。
普通の映画だったら、失敗も織り込み済み、カットも織り込み済みで「2回失敗して3回目に成功」と演出を制御するだろう。(例えば、火が消えるところをアップ→主人公の顔→やり直し、としっかり”見せる”ためにカットを入れるなど。)もちろん冗長なスタートに戻るシーンなんかカットする。
しかし、ワンカットで撮ることは繰り返しのストレスをも含めた描写となり、非論理的なアンドレイの行為に対して観客が彼の精神を追体験する手助けとなる。そうして初めて3回目の成功でのアンドレイの崩れ落ちるような安堵の感情が鮮明になる。
非論理的な行為だからこそ、その行為自体を嘘偽りなく、というかお話都合という”論理”に絡め取られないようにワンカットで全て写したのだと思う。

いや、恐ろしい。


『HELLO WORLD』 ★★★★☆

ここからアニメゾーン。
前に映画館で見て思いの外面白かったのでamazon primeで再視聴。当時、『天気の子』『二ノ国』をみて日本のアニメ映画が(悪い意味で)ヤバイ!!と落ち込んでいた時に観てちょっと安心した作品。

何より良いのは2時間の映画にしっかりまとまっているということ。もちろん作品外の世界をほのめかす描写はあるものの、一つの映画としての満足度が高い作品である。(むしろこういう作品が少ないのが不思議)

特に良いと思ったのはCGの表現。
ジャパニメーションの旨味をいかにCGで表現するかということへチャレンジが見て取れて良かった。キャラクターの柔らかさや美少女を美少女たらしめる演技などなど。その上で2Dの模倣に収まらず3Dならではの表現(タイムラプスの表現)などちゃんと3Dの旨味もこぼさないようにしていたのが好印象。もちろんまだ若干動きが甘いところなどあるけども、大事なのはチャレンジ精神だ。

オタクっぽい話であるにしてもしっかりマトリックス系SFの要素を取り入れつつ日本アニメ、ゲームのアイコン(親密度メーター的なやつとか)をうまくギミックに使っているところに、おおと思ったりもした。

しかし、女の子がどうしても男の子が気持ちよくなるために存在している感が否めないのが残念。

とりあえず、何回か見てもいいなと思えるので良作。
監督はアニメの『僕だけがいない街』も監督しており、こっちも12話構成に話が綺麗にまとめられていたので、巧い人なのだと思う。
個人的には今敏みたいになって欲しい。


『この世界の片隅に』 ★★★★☆

これはいろんな意味で価値のある作品だと思います。戦時中の人間の生活に焦点を当てたこと、クラウドファンディングで作られたこと、キャラクターの演技作画の細やかさ(を現代でやった)、など。

特に演技の細やかさ、監督曰くショートレンジ(細かく中割!)のアニメーションはいいですよね!自分は最近のアニメのババっシュパっ!ビシ!みたいな動きをどうも好みではないのでこのようなアニメーションが一つの価値を帯びるというのは大変うれしい限りである。(まあしかし限られた範囲ですが、、、)
細かい動きを書いた理由としてこの映画がすずさんの「実在」を至上命題としていたことと関わりがあるとのこと。よく言及される箸の持ちかえなど、細かなところまで描くことによってある種の”無駄”を取り入れている。これは先に『ノスタルジア』のところでのロウソクのシーンに似たところがある。論理、合理の外にあるものをしっかり描くことでリアリティを出すわけだ。
ただ、アニメーションが実写と違うところは「偶然」がないということ。基本全ての動きはアニメーターの手によって「意識」されて生み出されている。(オートマティクス的なことは今は無視)
自身がアニメを描く身でもあるのでそういったところに酷く感銘を受ける。

他に、アニメーション表現以外、映画としてのお話や演出に関して。
お話自体はどんな状況でも生活があり、生きることが仕方なく進むようなところを描いているので個人的な好みにも合致して良かった。
ただ、少しエピソードが多すぎるという印象も。漫画であればある程度長くてもいいけど、やはり2時間映画であるならもう少し取捨選択した方がいいのではと思うところあり。
特に、もっと欲しいなと感じたのは街の描写。すずさんを実在させるならすずさん以外をも実在させなければいけないという困難にエピソードを削ってでももう少し迫っても良かったのかなぁなど。
もちろんべらぼうに調べたからこそあそこまで表現できたと思うのでこれはかなり贅沢なこと。


『ももへの手紙』 ★★★☆☆

リアリスティックな作画を楽しむ映画。

本作の一番の特徴である作画、よくもまぁここまでやるなと思いつつ、どこか違和感を覚えた。演技も細かいししっかり人体であるので好きな部類の作画なのだが、リアリティがあるゆえに細かいところが気になった。

その細かいところというのは主に「止め」。
動くときはそれはもう綺麗に動くのだけれど、それがスッと急に魂を失ったように絵として止まってしまう。なぜかプレステ2の3Dゲームみたいな印象を受けた。自分がやることをやったらそれで終わり、停止。といった感じ。人間それこそほとんど止まってることなんてほぼほぼないので、動きをリアルにすればするほど「止まっている」ことが気になる。もちろん「微かに動いている」なんてアニメで一番描きたくないところだけども。

お話は、ももがかわいそうに尽きる。
だってもも何にも悪くないんだもん。父親はももとの約束破って、あ、みたいな顔するだけで謝りにいかないし、妖怪たちはただただ悪さするし、母親は(まあ仕方ないけど)ももの話聞かずに叱るし。

ももの成長を飛び込みで表現するなど、王道中の王道であるが、王道であるがゆえに安心して観れるところがあり、子供が見ると良いアニメではあるかな。瀬戸内の景色なども気持ちよく描かれているので夏休み感を味わいたいならいい映画。

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