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接客は向いていないと決めつけていたのに販売員を始めて天職に出会った話

販売員を始めた経緯は偶然の出会い

 写真をニュージーランドで専門的に勉強していた筆者ですが、帰国前までの3年間は、とある日本人経営の土産物店で販売員をしていました。
 これも不思議な縁で、新しい街に引っ越した直後で職を探していた最中、後に上司となる女性とプライベートで出会い、何度か会う中で新店舗のオープニングスタッフとして働かないかと声をかけてもらったのでした。

 しかし正直な所、職を探していたとはいえ、あらゆる求人情報を見る中で土産物屋は選択肢から除外していたのです。なぜなら販売ノルマが厳しいと聞いていたから。営業など自分に1番向かないと思い込んでいたので、接客トークで物を買ってもらう自信が微塵もなかったからです。

 それでも、丁度新スタッフのトレーニングをしている最中だからそれだけでも来ないかと言われ、乗り気ではないまま参加したのでした。

来る場所を間違えた!と思ったのに、やってみることにした理由

 トレーニングに参加して初めに渡されたのは分厚い商品資料。主に力を入れて売りたいオリジナル商品やニュージーランドの特産品についての情報で、特に有名なマヌカハニーやプロポリス、プラセンタなどは効能などまで覚える必要があるため、数日遅れてトレーニングに参加していた筆者は他の新スタッフにすでに遅れをとっている状態。これらをしっかり頭に入れるまでは、接客販売のロールプレイングすらできないわけです。

 来る場所を間違えたと思いました。暗記するだけならまだしも、その知識を接客にいかしてどうお客様に売るかという仕事は、自分自身に1番向いていないと決めつけていたジャンルです。
 とりあえずトレーニングに参加するだけという話だったので、やはり自分には合わなかったとやめることもできました。

 しかし、当時無職だった焦りはありながらも、それ以前に向いていないと決めつけていたことが本当に向いていないのか試してみたくなったのです。やめるのはいつでもできる。だからもうこれ以上自分には無理!というラインを探したくなったというか、当時22歳と若かったこともあり、本当の自分の限界や、本当に向いているもの、いないものを知りたいと、ふと思ったのです。

 そして帰ってから猛勉強。暗記という作業自体が久しぶりで、専門用語がスムーズに頭に入ってきません。そもそも効率の良い勉強の仕方というものに自信がないので、高校のテスト勉強でしていたような、「ひたすら書いて声に出して読む」という方法を1日中繰り返しました。
 今だから言えるのですが、商品にさほど興味がなかったのでなおさら覚えられません。学生時代は興味がなかった歴史をテストのためにひたすら覚える作業に似ていて、同じ紙面を見続けながらクラクラしました。

勉強を続けられた理由はあることをイメージしたから

 今すぐ投げ出したくなる暗記作業。でも、ひたすらイメージしたのです。次回のトレーニングで「遅れて始めたのにもう覚えててすごい!」とみんなから言われている自分を。ただこれだけを思ってひたすらブツブツと商品の効能などを唱え続けたわけです。
 これだけ見るとただ単に褒められるのが好きな奴ですが、褒められたいから、というよりも、遅れて参加してついていけずにいつの間にか辞めた人になりたくなかったのだと思います。これはもう、やり始めてしまった意地もあったのでしょう。それに、今は興味がないものでも、やり続けてみたら好きになるかもしれないし、そこが切り替わる瞬間の自分の心情に興味もありました。
 まだまだ自分というものをわかっていない時期だったからこその、自分という人間に対する好奇心に背中を押されたわけです。

 そして数日の猛勉強の甲斐あり、何とか知識が他のスタッフに追いつき、同じオープニングスタッフとして同じラインに立てたのでした。

向いていないと思っていたことが実は最も向いていたという大発見

 こんな経緯で始めた販売員は結果的に今でも自分の天職だと思えるものでした。トークで買っていただくという結果だけにフォーカスしてのことではなく、知識を増やすことや実力を磨くための努力が苦ではなく、むしろ楽しかったのです。これは筆者の人生史上、いまだに1番の大発見。最も向いていないと思っていたことが、実は最も向いていたなんて。先程書いた、「興味のないものを好きになる瞬間の心情」を早速体験できたわけです。その心情を一言で言うと「知らなかった自分を1知るだけで、可能性が10開けた気分」
自分にはまだ思ってもいない可能性がたくさん眠っていると、希望を持てた瞬間です。

できないと思っていたことが、実はすべて楽しめることだった天職


 笑顔で話すこと
 買ってもらうための自然な話術を磨くこと
 商品に興味を持って知識を深めていくこと
 ノルマの重圧に耐えながら働くこと

 実際はノルマはあれど、ペナルティなどはなく、スタッフみんなでゲーム感覚でクリアできるようなものだったため嬉しかったのですが、上記のそれ以外の事に関しては自分には絶対にできないと決めつけていたことです。
 それが実はどれも楽しんでできるものだったのです。

 日本人以外の様々な国のお客様と話すことはとても楽しかったですし、だからこそ自然と笑顔で話すことができました。
 オープニングスタッフだったこともあって、商品1つ1つに対する愛着も日に日に増していきました。新しい商品が入ると嬉しくて、自然と情報が知りたくなります。
 自分が商品をちゃんと好きだからこそ、お客様に良さを伝えたい。ではより伝えるためにはどういう話し方をするのが押しつけがましくなくて効果的なのか、自然と考えるようになります。
 やがてそれが販売成績にも反映され、さらなるモチベーションにつながります。完全なる良いサイクルができあがっていたのです。こうなると、楽しくないわけがありませんよね。販売員をしていた頃程、毎日仕事へ行くのが楽しみだったことはありません。シフト制でしたが、遅番の時は朝から出勤が待ち遠しかった程です。

「自分開拓」の経験は現在の写真業にも活きている

 この時の経験はフォトグラファーになった現在にも活きていて、様々なジャンルがある写真業の中で、自分には経験のない、不得意そうなジャンルの案件がチャンスとして現れた時、「1から学んでみたら案外面白さがわかるのでは?」という気になるのです。
 さすがにフリーランスとなった今はクライアントとの信頼関係がもっとも大事ですので、相手の期待に沿う仕事ができなさそうな場合は安請け合いはしないことにしていますが、元々ブライダル専門だった筆者が時々行っている商品撮影がまさに、興味はなかったけれどやってみたら奥深くて楽しかったジャンルです。

まとめ

 思いがけず始めた販売員。全く興味がなかった仕事ですが始めて見ると面白さを見いだせて、自分で天職だと思える程のものだったこと。
 自分の可能性に蓋をしてはいけない、とはよく聞きますが、筆者は自身の体験を通してこの言葉の意味を実感したのです。

 自分のことでも案外よく知らないもの。30代になった今でも思うのですから、20代の頃は尚の事、わかっているようでわかっていなかったのだと思います。
 得意不得意はもちろん、人に対しても同じことで、大人になるにつれて、苦手なタイプだと思っていた人からの方が学ぶことが多かったり、考え方が参考になったり面白かったりすることはよくあります。初めは苦手だったのに、いつしか恋愛に発展することだってあるくらいです。
 物事も人も、苦手だからと決めつけて切り捨てることも効率面で時には必要ですが、ちょっとの好奇心を持ってあえて蓋をこじ開けてみると、意外な世界が待っているかもしれませんね。

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