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日々読み #11

1/9 晴れ

成長が鈍化していないか、このままやっていたらこの先何も変わらないんじゃないか、本当はもっとこんなふうに活躍できるはずなのに、もっといい給与をもらって働ける場所はないのかな。そんな思いばかりがぐるぐるする。きっと焦っているのだろう。

ぐるぐる悩みながらも一歩引いて考えてみると、目の前のことを一つずつクリアしていっていない人がその先のことを考えられるだろうか。いや、無理じゃないか?多分これは繋がっている話なのだと思う。
先ばかりみて、焦っているよりもまずは目の前のことなのだろう。先が気になり過ぎて手元がお粗末になったら先のこともうまくいかなくなってしまうだろう。
「今」と「先のこと」の割合というのは8:2くらいがちょうどいいのかもしれない。


1/10 晴れ

文章ってこういうことを書こうと思って書き始めるとまったく書けない時がある。
日記として書こうとすると、書けないのに気づきとして書こうとするとかけたりする。文章って不思議だ。
プロはこんなことはないのかもしれないけど、そういうことってある。


1/11 晴れ

初めて訪問看護師として関わった利用者さん。生活スタイルや生き方に関して全く変わらない人だった。お酒を飲みたいときに飲む。入浴の時間はこの時間。自分の守りたいマイペースがあるから、こちらの提案はなかなか受け入れられない。自分のペースを崩せないが故に、過度に薬効が効きすぎて血圧が下がったり、お風呂上がりに具合が悪くなったり。
 僕も看護師としてあの手この手で本人の生活がうまくいくように調整してきた。そのせいもあってか、本人のマイペースは保ちつつも、適切に医療的な介入もできるという塩梅に落ち着いた。
良いルーティンが回り始めてからは順調だった。
ただ本人のペースで生活することはできていたけど、変化は本当に乏しかった。これでいいのかな。
もっとこういうことをしてみたらどうかと悩み、提案してみるが断られる。その繰り返しだった。
それでもその人と関わりだして、8ヶ月。
全く変化のない日々だなあと思っていたが、ふとその人のふらつきの少なさに気づく。いつもは入浴のとき、浴槽を跨ぐ時に介助が必要だったのにいつの間にかいらなくなっていた。本人はその変化に気づいていないようだったけれど、僕にはわかった。
僕が関わって8ヶ月。変化のない方と思っていた人が変化してきているのだ。僕が気づいていないだけで。
本当はもっと早い段階で変化が少しずつ見え隠れしていたのかもしれないけれど、僕が勝手に変化がないと心のどこかで思い込んでいたからか気づけなかった。
反省と喜びのある1日だった。


1/12 晴れ

入浴介助での訪問。訪問するといつものようにタバコをふかしていて、「おう」と。
バイタルサインを測り終わると、タバコをぷかぷか。
お風呂のセッティングを終えるとぷかぷか。隙あらばタバコを吸うという今じゃ珍しい、ヘビースモーカー。
タバコが吸い終わるまでは待つ。本人の大切な習慣だから。
ある日、奥様が豚汁を振る舞ってくれた。
なぜかその時だけは吸わない。
その訳を聞いてみた。
「ご飯食べる時にタバコは嫌でしょ、気にしてんの」と。なんだか笑ってしまいそうだったけれど、その人なりの優しさだったのだ。
そういえば私が学生の頃、父も私がご飯を食べている時はタバコを吸わないで食卓に座っていたっけなあ。
不器用な父親なりの気遣いだったんだなあと思った。
なんだか父親と話したくなった。
しばらく会ってないから実家にも帰りたいな。


1/13 晴れ

突如退職者がでた。急な調整だったり、1人あたりの負担量もかなり変わってきてここのところ大変だ。
それでも自分の力が試されている感があって、充実感がある。自分のやることが明確になったぶん、なんだか気持ちが楽になった感じもする。
少し前まで場所を変えて自分の力をより発揮できるところを探そうかと思ってたけど、思いがけない展開が自分の意図していないところで動き出した感じがして、少しワクワクする。


1/14 雨

ある水族館のイルカショーでトレーナーのお兄さんたちが「自分たちはイルカのための波になりたい」と言っていた。
なんだかすごくわかる気がした。
水族館の水槽は外敵の危険もないし、餌も保証されている。でもそれだけでは物足りないのは僕らがイルカの立場でも同じだ。だからこそ、トレーナーはイルカたちに新鮮な刺激としてゲームや技を教え、喜びや気づきを与える。新たな刺激は生活に彩りを与えるのだろう。

僕は訪問看護師として利用者さんにとって何になれるだろうか。そういう視点に立って考えてみると、訪問看護師って風みたいだなと思った。
「訪問看護師さんがきてくれるようになって笑顔がふえた。よく笑うようになった。」そう言われたことがあった。
多分それは自分の部屋だけで毎日が過ぎていく方にとって僕らは新しい刺激だったのだ。窓から心地のいい新しい空気が入るように、その人を刺激する。しばらく窓を閉めた部屋は気温はいいけれどなんだか苦しくなってくる。居心地は悪くないけどもったりする。そんな時に僕らが入ることで換気になるのだ。清々しい空気となる。そんなことを考えていたら、訪問看護看護師は外の空気を運ぶお仕事みたいだなあという気もしてきた。


1/15 雨

「最強の2人」という映画をみた。鑑賞中、腹がよじれるほど笑ったり、いいひとときだなあと目をほそめたり、改めていい映画だなあと思った。
この映画を初めて見たのはフランス語の授業で見た。
ケアって知識とか、技術も大事だけどそれよりも前に大切なものがある。そのことをこの映画は気づかせてくれる。
訪問看護師として見直してみると納得できることも多い。時としてケアの『正解』はエビデンスに基づいたものではないかもしれない。医療的な視点だけで見たらタブーかもしれない方法も結局、その人にとって『正解』なこともある。その人が何を求め、自分がどう反応し、作用するか。それを本人と一緒に考えて『正解』のようなものを探していく。『正解』一つじゃないし、絶対もない。だからこそ一回ずつちゃんと考えなきゃならない。ケアって難しくていいね。


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