なぜゲームプランナーは、ディレクターになるのが難しいのか?隠されたクラスチェンジ条件とは
最近、新米のディレクターにディレクションを0から説明している。noteではいろいろディレクターについて書いてみたが、ディレクターの持つジレンマは、ある程度成長したタイミングで出てくる問題で、初期に感じるものではないため、説明としては不十分だと感じた。なので、今回はもう少しディレクター初心者、または将来ディレクターになりたい人向けに全体像を把握できるよう書いてみる。
今回の記事は、結果として5回ほど書き直すことになった。理由は、全体像が何度書いても見えなかったためだ。最終的には、このnoteの最初の記事であり、テーマでもある「なぜゲームづくりをまるごと理解できる人が増えないのか?」にたどり着いてしまった。そして、自分の盲点が見つかり、ようやく解法がみえたのである。そして回答は2番めの記事に書いてあった。
結論を最初に書いておこう。
気がつけば簡単なのに、この1つ目の結論を出すのに、3ヶ月ほどかかってしまった。聞けば、当然だと思う人も、そんな馬鹿なと思う人もいると思う。順番に説明していくことにしよう。
前提条件:各職種の定義
まずは出てくる職種の整理をしておこう。私がこれぐらいがゲーム業界として標準かというものに設定しておく。
プランナーからディレクターの成長パスと現実
一般的なゲーム会社では、プランナーからディレクターへのルートがあるだろう。ぱっと考えると、企画職が成長してディレクターになるというのは直感として間違っていないと感じる。ところが、直感に反して、このルートはほとんどの人が通り抜けられない。
ほとんどの場合は、「あいつはディレクターとして働くには、まだ経験が足りない」で無限に次に進めないような状態になる。運良くディレクターとして進んだとしても、そこで優れた結果を出す人は何故か非常に少ない。
例えば、よく見るのはこのような状態だろう。
プランナーがディレクターになって最初にやりがちなことは、今まで以上に頑張って仕様を作ることだ。コンセプトを作って、仕様を作る。この流れはおかしくない。
仕様をある程度作っていい感じで進めていくと、各所に矛盾が現れ始める。それは、企画同士のコンフリクトだったり、UIとのぶつかりだったり、エンジニアサイドからの要求だったりする。
これまでは発生した問題に対して対策案を考え、ディレクターに提案を行い、許諾を得てそれを各所に伝達するという仕事をすればよかった。ただ今回は、あなたがディレクターだ。自分でOK/NGの判断をすることになる。
OKを出したとしよう。次にまた似たような問題が出てくる。各所で矛盾したところが現れ、それを「決定」する。でも、この「もぐらたたき」は終わらない。次は「決定」と「決定」の間で矛盾をする。収まればよいのだが、なぜか「決定」しなくてはならない仕事は増えていく。今まで通りにやっているはずなのに。何を間違えたのだろう。
また、ある程度成功した大きい企業だと、プロパーの新入社員をエリートとみなして、補佐に熟練のディレクターやPMを付けて、パワーレベリングを行うことがよくある。
ベテランが付いていれば自然と育っていくだろうと思うが、ところが現実はいつまで立っても独り立ちできない偉そうなことをいう暴君がうまれるだけである。暴君というのは、彼らが横暴なことを言っているのではなく、ゲーム制作のフローがわかっていないので、現場のクリエイターからすると無茶苦茶に聞こえることを提案するのである。彼らは部隊指揮をベテランに頼っていたので、なんとかなっていただけであり、ベテランなくしては何もできないのである。
彼らは、私達は、何を間違えたのだろうか?それとも、私が業界で何度か耳にしたことがある「ディレクターは育てることができない」という結果論からの類推に戻るしかないのだろうか。
ゲームディレクターの階段
ディレクターとしてプロジェクト進行を行うためには、全体像の把握が絶対に必要となる。ただ、この全体像の把握は、ゲームプロジェクトは範囲が広いためとても難しい。新しいディレクターに伝えるために簡易モデルを作成してみた。
ゲームプロジェクトの全体像のモデルは、階段型のモデルになった。初めてのディレクターは下から順番に上っていくというイメージだ。
これがディレクターからみた、(新規)ゲームディレクターの階段だ。
企画→制作管理(PM)→UX管理→チームマインド管理→ビジネス、マーケ管理
まずは、何を作るのかの企画が1段階目となる。何を作るのかを決めずに作るほど悲惨なことはない。どんなチームを揃えようが、どんな予算があろうがあらゆる状況を超えて、ゲームは完成しない。何しろ、進みたい方向がないのだから。
次に、制作管理(PMスキル)が出てくる。個人で作るのではなく、チームで作るため、チームで制作するための命令形、管理をできないとものは作れない。なおこのPMスキルはディレクター本人が持っていなくても、チームとして足りていればよい。ここまでくれば、ゲームのような何かはできる。だいたい世の中で作られるゲームの7割はこの段階である。しかしこれを笑ってはいけない。ゲームを完成させるというのは、かなりの難易度である。当然ではあるが、この段階を通らずに、まともなゲームは作れない。
3段階目にようやく、ゲームUX管理が出てくる。ここはディレクターという職種に任されており、担保するべき部分だ。どうすると、どんなUXができるのか、パーツを組み立ててUXを作る段階だ。この段階はテクニカルである。ここが一般的なゲームデザインと言われるレイヤーだ。ただ、下位の段階の地盤ができてない限り、ここには立てない。私がゲームデザインの記事を書こうとしているのに、ほとんどそうじゃないことを書いているのは、これが原因だ。
4段階目に、チームのマインド管理が出てくる。この段階は、3段階目と、トレードオフをされる。過去の記事で書いているが、面白いゲームUXを作るためには、作り直しを何度も要求される。このためには、面白いゲームを作るという目的に沿ったチームを作ることが必要になる。そのためには、チーム求心力となる何かが要求される。ここの段階は、グループフローだったり、組織の報酬系(給与でもいいが、褒めるだったり、推奨するだったり)だったり、なんせ難しい。人数が増えるとここの難易度は爆発的に上がる。ただ、お金があれば、ある程度余裕は作れる部分ではある。
5段階目は、ビジネス層だ。4段階目までは、面白いゲームを作るところに注力している。5段階目は、作ったゲームを広めること、そして売上を出してビジネス的に成功することだ。当然だが、商業ゲームは、ビジネスである。ビジネスであるから、利益がないと次のゲームは作れない。そして利益を上げれば、より多くの労力をかけたものを作ることができる。成功は次回の成功を呼ぶ。ビジネス的な成功は、必要なことだ。
5つの段階は、プロジェクトやメンバー、パラメータによっては多少上下や並列することもあるだろう。だが、全体像の把握としては、認識しやすいモデルになっていると感じる。優れたディレクターは、これらを認識して成果が最大化するように動くのだ。
プランナーからディレクターへの成長パス
さて、プロジェクトの成功のためのモデルを説明することでようやく、なぜプランナーからディレクターへの道が難しいのかの説明ができるようになる。それは、企画に特化した状態でディレクターを任されると、1層目の企画の伝達と、2階層目の制作管理層がうまく扱えないために、無駄な摩擦が増えるためである。
企画の伝達には、高い言語化能力、もしくは絵やプログラムを通じてモックを作れる能力が要求される。プランナーからキャリアをはじめた人は言語化能力やモック制作能力の面でまずつまづくことになる。そして、チームを率いた経験がないまま人に指示を出す立場になると、チーム崩壊は秒読みである。
これは、もちろんディレクターがすべての制作管理ができないといけないと言っているわけではない。ただ、ディレクターは制作工程を理解し、制作にとって自然な方向がわかっていないと、チームに対して的確な指示はできない。
そもそもとして、異職種間コミュニケーションはとてもむずかしいものである。ある職種が、相手のことを考えて良かれと思って、言ったことが相手を激怒させてしまうというのはよくあることだ。特に開発の後期のみんなの余裕がなくなったタイミングでは、感覚としては地雷原を走る様になる。
私の経験を書いておこう。私は、そもそもエンジニア出身なので、エンジニアに対してのある程度の理解はあるつもりだ。私自身の感覚として、ここの信頼がない状態だと、正直ゲームを作っていくのは難しいと感じる。また、エンジニアリーダーもこなしていた。エンジニアリーダーは、実は半分くらいPMのようなことをしている。なので、この記事を書くまで認識していなかったが、制作管理が見えて理解できていたのだ。ただ、私はPMみたいなことは、苦手ではあるため、そのことに気が付かなかった。
かつてブラウザカードゲーム時代に、4人のチームでエンジニアリーダーをしながら、ディレクターをするという状態になった。今考えてみてもただの無茶振り(自分で受けただけではある)である。だが、経験豊富なメンバーだったので、初めてのディレクションでありながらもなんとかこなすことができた。4人しかいないチームなので、当然職種に縛られては何もできない。全ては足りない、理想には程遠い。でもその中で、最短ミニマムで体感を作ることを繰り返し、どうにかゲームのようなものにできた。
ゲームディレクターの階段で説明すると、2段階まで理解している状態で、3段階目にチャレンジし仮設検証を行い、4段階目はメンバーのやる気に助けられ、5段階目は当時の市場の初期拡大にぶつけられたので成功したのである。
プランナーから、ディレクターに上がるキャリアパスを修正しておこう。
プランナーからディレクターになるためには、プランナーだけではなくPMスキル(または視点)が必要だ。今振り返って成功しているディレクターを思い出してみると、エンジニアリーダーからディレクターになった人、アートディレクターからディレクターになった人、あとはビジネス方面からディレクターになった人がいる。彼らは、いずれもいくつかのスキルを統合させて、得意分野で戦っていた。ただ、メインになる企画・ディレクションの裏には、エンジニアリングやデザイン等、昔やっていた前提となるスキルがあった。
事業が大きくなっていくと、職種別に人を採用することで効率化される。しかし職種のキャリアモデルを間違えていたので上位職種へジョブチェンジができない状態になっていたのではないかと思う。なお、これを理解した上でも、当然だが努力や才能は要求される。
第1世代目はなぜ一線級を保ちつづけるのか?
このような背景があるため、ディレクターは自然に生えてくるのを待つと、市場の黎明期~拡大期の短期間にしか作られないのだろう。市場規模が大きくなり、会社が大きくなり職種が整理されればされるほど、PMなどの職が整備され、自然とディレクターになるための前提条件を揃えた人が少なくなるためだ。
こうなると、「無理やりPMに転向してスキルを付ける」か、「もっと整備されていない新しい市場のディレクターになる」かなのだろう。ゲーム制作であれば1人でゲームを作ってみるのも良いだろう。必然的に全ての仕事をすることになるため、各々の職種がどのような仕事をしなくてはいけないのか、その間にどのようなやり取りがあるのか、というのを学ぶことができる。
環境の整備は善意だが、善意の結果、成長にとって望ましくない状況が生まれてしまうというのはよくある話ではある。
他のパスのルートとしては、エンジニア→エンジニアリーダー(軽いPM含む)→ディレクターという道もあるだろうし、デザイナー→アートディレクター→ディレクターという道もある(任天堂の宮本茂氏など)。黎明期の市場ではよく聞く話なのだが、市場が成熟すればするほど聞かなくなる。
あと、企画者の特性としてADHD/ADD特性をもつものが多く、彼らはアイディアを閃くので企画者向けではあるが、整理や伝達は苦手なのでPMスキルの学習が苦手なのだ。彼らは才能を示すことも多いが、これが原因でチームメンバーが10人以上の場合、ディレクターになるのが難しかったりする。
まとめ
業界の成長に伴って、職種の整備が行われる結果、各々のパートについては安全に仕事を進めることができるが、全体を俯瞰した仕事ができる人が少なくなるというのが構造的に説明できたかと思う。逆にこの構造にアプローチをすれば、新たな才能が発掘できるかもしれない。
優れたディレクターは常に足りないので、ハードルが可視化されて、できる人が増えることで、面白いゲームや新たな才能の人が発掘されるとうれしい。
以下、近況報告です。
STEAMゲーム作成中/台北ゲームショウで初出公開できませんでした
去年作った会社でSTEAMゲームを作るチャレンジをしています。2/6~9に台湾で行われる台北ゲームショウのインディーハウスB2Cに出展してくるつもりでしたが、新型コロナウイルスのために、台北ゲームショウ自体が夏に延期されてしまいました。台北ゲームショウ向けに色々準備をしたので、動画とかストアページを見ていってくれると嬉しいです。
作っているゲームは、PC向けローグライクゲームです。タイトルは「DIMENSION REIGN」です。今までソシャゲを作ってきて、今回はPCインディーゲームで、似ているようで全然違うものだったので、概念の認識に苦労しました。とても面白くなったので、ウィッシュリストに入れておいてもらえるとありがたいです。
このゲームは、コンセプトとして、以前記事で書いたフロー理論(熱中して時間を感じなくなる体験)をメインに作っています。2人組のキャラで、特殊なタイミングにできる追加行動を駆使して、「ずっと俺のターン」をしていくゲームです。プレイをすると時間は溶け、「こんなの倒せるわけ無いじゃん、絶対バランスおかしいよ!あれ、倒せた、なにこれ???」という感じのプレイ体感です。開発中ずっと、遊んでいましたが、デバッグをしているといつの間にか1時間半経っているという恐ろしいゲームでした。今はリリースに向けて調整をしています。
今年の4月のインディーズゲームイベントTOKYO SANDBOX2020にも出展予定です。出展予定の方や参加する方はゲーム作りについてお話しましょう!
苦労した話や、実はフロー理論にはこんな穴があるという話や、ソシャゲと比べてSTEAMはこうだよ見たいな話は、noteなどで公開していこうと思っています。
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