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「文学フリマ東京38」と「技術書典16」に参加して心理的安全について考える

あっという間に日々がすぎていきますね。
長編を書いているると(まだ書いてるんかい!とつっこみたいですよね)、感情の全てがそっちに持っていかれてしまって、noteに書けることがなくなってしまう……というのが最近の悩みです。

そんななか、5月19日(日)に文学フリマ東京38、5月26日(日)に技術書典16にサークル参加してきました。前回はどちらもインフルエンザでお休みしたこともあり、今回は一週間前からマスク着用で、ものすごい緊張感ですごしました。会場についたときは「参加できた!」という思いが強くなりすぎて、開場前にはもうぐったりしていました。

やっとこられた、ここへ…!

文フリでは「いつも読んでいます」というお声がけをいただいたり、いつもリプしてくれるフォロワーさんがきてくれたり(アカウント名を名乗ってくれないので、帰ってからフォロワーさんだっのか!と気づきましたよ)、すっごく久しぶりに会う人が来てくれたり、私のことを全く知らないけど「面白そうだったから」ときてくれる人がいたり、感情が忙しい一日でした。

今回の売り子さんは、「同人誌即売会行ってみたい」と言っていた科学オタク仲間の編集者さん(担当さんではない)にお願いしました。そしてそして『キーボードなんて何でもいいと思ってた』の装画を描いてくださったくゑさんも、午後から売り子として参加してくださいました。ふたりとも『キーボードなんて何でもいいと思ってた』の売り子Tシャツを着て……

必死に設営する私を撮影する編集者さん

ちょっと驚いたのは『キーボードなんて何でもいいと思ってた』と文学フリマの相性の良さです。物書きの方が多いこともあり、「ちょうどキーボードを買おうと思ってた」という人に多く買っていただきました。店頭に展示しておいたREALFORCEとHHKBに触って行ってくださった方も多かったです。キーボードが置いてあったから寄ってくれた方もいたかもしれない。「朱野さんのキーボード本を読んで、そっくり同じデスク環境を作りました!」と報告に来てくださる方もいました。小説新潮の最終選考まで残った経験を書いたこの本に、私のキーボード本の紹介をしてくれていています。うれしい!

すごくおもしろかった

楽しかった文学フリマ。でも、帰ってから一週間ほどメンタルダウンしてしまいました。疲れているのか何なのか、体が全く動かないのです。なんとか回復しようとしてランニングしようとしたら転んで、膝をざっくりと切り、口の周りに擦り傷をつくりました。「暴力を振るわれた人みたいなので宅配便の受け取りにでないでほしい」と言われたくらい、かわいそうな見た目になって、それでも「たいしたことがないから」と自分に鞭を打って仕事をしていました。

やばいな……もう即売会とか行けないのかな……と思いつつ、気力を振り絞って参加した一週間後の技術書典。朝起きた時はまだ絶不調だったのですが、なぜか会場に入ると体が軽くなるのを感じました。そう、ここはテックエンジニアのお祭り。完全なる他業界です。会場五分前くらいに「決済アプリに不具合が生じましたので、新しいバージョンをリリースしました」と運営からアナウンスがあり、参加サークルのエンジニアの人たちが「ふっ」と笑うというところからして、もう他業界です。

参加ハードルをさげてくれる手ぶらでセット
布がかわいくないですか?

もちろん他業界には他業界なりの大変さがあるわけですが、技術書典にはハラスメントポリシーがあります。かつて治安の悪かった(と、みんながいう)テック業界ですが、いまでは心理的安全の確保を徹底している企業が多いです。ハラスメント行為をけっして許さないという空気もあります。そういうことに私がすっかり詳しくなっていることもあり、「警戒しないと危ない」という感覚がない。体がすごく楽なのです。

さすが技術書典
キーボードに詳しい人が多すぎた

参加している最中に元気になっていき、帰ってからも楽しい気持ちだけが体の中に残っています。翌日も仕事がさくさく進む……。なんだこの違いは、と思ったときにようやく気づきました。もしかしたら、文学フリマのあとにメンタルダウンしたのは、商業出版の人たちがたくさん集まる場にいったからなのではないか、と。

この件、文学フリマはまったく悪くありません。スタッフの人たちも、隣のブースになった人たちもほんとに優しかったし、お客さんも優しかった。久しぶりに会えた同業者も優しかった。でも、『急な「売れ」に備えるサバイバル読本』に書いたような災厄がまた起きるのではないかと心の深いところで警戒していて、つまりはPSTD的な反応を私は起こしていたんだと思います。海で溺れて死にかけた人が船に乗ったようなもので、体が揺れを感じ取るとどうしても「あのとき」のことを思い出してしまう。こういうのって自分の意思とは関係なく起こるのだなというのが興味深かったです。ワーカーとしてはつらいんだけど作家としてはよい体験をしました。

でも、何度もいますが、文フリが悪いわけではないし、商業出版の人たちが集まっている場を避けつづけていくこともできないので「行ったらPTSDが起きるのは仕方がない」とあきらめて、スケジュールをたてていくしかないんだろうなと思いました。

そして、本当に悲しいことだけれど、商業出版の世界には心理的安全がないのだということを改めて確信しました。自分を育ててくれるはずの編集者から音信不通にされる(ネグレクト)、数字を出した作家と出さない作家で扱いが違う(条件付き愛情)、売れた後も「いい気になるな」とばかりに不当な評価を浴びせられる(普通にハラスメント)、これらが作家たちから語られるとき「あるよね〜あるある〜」という空気になることが多いのですが、それだけ暴力が日常的にあるということです。作家だけでなくて、編集者もハラスメントの被害に遭っています。でもそのハラスメントをしているのが人気作家だったりするとその事実は伏せられてしまう。
担当編集者がいい人で、作家もいい人で、いっさいストレスなく仕事できることもあるのですが、それでも「いつそういう目に遭うかわからない」緊張感を持ちながら面白いものを作るというのは……つーか、そんなとこで新しいものなんて作れます? 

そういう状況を変えもしないで、本が売れないのはブックオフのせい、図書館のせい、読者の読書離れのせい、とすることに私は疑問を覚えます。だって売れている本はすごく売れているのです。技術書典で(心理的安全を確保されて)出した最初の同人誌『急な「売れ」に備えるサバイバル読本』だって同人誌なのにすでに二千冊を超えて売れています。ほとんどの商業出版の本よりも実売数が多いと思うのですが、っていうことは、敵は業界の「外」じゃなくて「内」にいるんじゃないのだろうか。

そんなことを考えさせられた二週間でした。ちなみに技術書典にはライターで作家でもあるヒオカさんに売り子をしていただきました。大手ウェブメディアから取材もしていただいたよ!

売り子さんたちと乾杯

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