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技術系同人誌即売会「技術書典14」に参加します

このたび、技術書のオンリーイベント「技術書典14」にサークル参加することになりました!

「技術書典」は主にテック系のエンジニアたちが書いた技術系同人誌の即売会。そこに私も参加して技術系同人誌を頒布しようというのです。

「ちょっと何言ってるのかわからない」って思われたかもしれません。自分でも「どうしてこんなことになったんだ?」って思っています。気づいたらこうなっていたというしかないのですが、記憶を掘り起こして、サークル参加するまでの経緯について整理してみたいと思います。

藤井太洋さんがVS-Cordというプログラマー用のエディターを拡張して作った「novel-writer」に興味を持ったのがきっかけでした。エンジニアでもある藤井さんが作った小説執筆に特化したエディター。どんな機能があるか興味がある方は藤井さんがゲスト出演されている「VS Code Conference Japan 2021」をご覧ください。

さて、この「VS Code Conference Japan 2021」を見終わった後、「プログラミングのためのエディターを使って執筆をしている人たちがいるんだな」と未知の世界をもっと知りたくなり、関連動画をたゆたっていました。

そしてこの動画「VS Code Meetup #18 - ドキュメント、ブログ、書籍執筆編」のトップバッターに登場したLINEで働かれているテクニカルライターの方(筆名:mochikoAsTechさん)のプレゼンに聞き入ってしまったのです。VS Code で文章が書けるし、書籍も作れるよという話をされた後「技術書典というイベントを知っていますか」とmochikoAsTechさんは言い、そしてそのイベントのことをこう説明されたのです。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=e5-1SVKKHv4

好きな技術へのあふれ出る気持ちを本にしたためて販売できるイベント……

同人誌即売会というと、それまではコミティアや文学フリマのような、漫画・小説・エッセイ・評論などのオリジナルの同人誌即売会、あるいはコミックマーケットのような二次創作の同人誌即売会しか知りませんでした。漠然と同人誌を作ってみたいとか、頒布してみたいとか、思いつつ、「でも私には無理だな」と思っていた私。オリジナルにせよ、二次創作にしろ。同人誌即売会のベースにある「仕事の余暇でやる趣味の世界!」という空気に馴染めないというのあったのかも知れません。

私は仕事大好きな人間で、趣味がない。編集者さんとの打ち上げでもずっと仕事の話をしていて、「朱野さん、仕事の話をやめてください!」と怒られたくらい、仕事の話をずっとしていたい人間なんです。星野リゾートの星野社長が「仕事が趣味の上司ほど迷惑なものはないので、年間53日スキーに無理やり行くようにしている」と言ってましたが、私もまさしく仕事が趣味なんです。こういうことを言うと「小説家だからでしょ?」といわれがちですが、会社員時代も「クロス集計した統計データを読む喜び」をブログに綴っていました。大学時代の友人たちがその記事に「めっちゃ面白い」と言ってくれたのが、今思えば労働小説家の第一歩だったかも知れません。
でも、星野社長の言う通り、そういう人間は職場の他の人たちにとっては迷惑にもなりかねない。仕事が好きな人でも休日は離れていたいと思っていたりします。

しかし「好きな技術へのあふれ出る気持ちを本に認めて販売できるイベント」があったとは。……それってつまり「仕事へのあふれ出る気持ちを叫んでもいい」イベントってこと?

私はエンジニアではないですが、技術書というジャンルが好きです。マーケティングプランナーをやっていた頃はマーケティングリサーチの技術書を読み漁っていました。定量だの定性だのサンプル数だの誤差率だの、未知の業界の知らない用語に戸惑いながらも読んでいるうちに、リサーチのことがわかっていく喜び。マーケティングの本読んで一番グッときた言葉はドラッガーの「マーケティングの目的は営業を不要にすること」です。

小説家になった後も、小説技術本は予算が許す限り買ってます。吉川トリコさんに「小説技術本をもっともたくさん買ってる作家なのではないか」と言われたことがありますが、小説技術本で一番グッときた言葉はなんだろうな……。スティーブン・キングが言ってた「副詞はタンポポである」かな。仕事小説や労働小説を書いていると、未経験の分野の技術本も資料として買います。そのうち「いい技術本は異業種の人間が読んでもおもしろい」ということがわかってきて、小説に書く予定はなくてもめくってみてグッときたら買ってしまうようになりました。

その一つが『人工衛星をつくる−設計から打ち上げまで』。人工衛星を作る予定はないのですが、宇宙ビジネスについて書いてみてと言われたことがあるので、つい買ってしまいました。人工衛星は宇宙に飛ばしてしまったら直しにいけません。なので「三重の冗長性が必要」なのだそうです。「三重の冗長性」なんかグッとくる言葉ではないですか。

アジャイル開発もする予定はないですが、『アジャイルサムライ』も持っています。この本に出てくる工数をどう見積るかという問題について、「端的にいえばこうだ。前もって正確に見積もるなんて無理。だから私たちはあたかも正確に見積もれるかのような素振りをやめるべきだ」と述べた言葉が心に刺さりました。

「前もって正確に見積もるなんて無理」なんて素晴らしい言葉なんだろう。作家が締切を設定するときにもこの言葉を思い出すべきではありませんか? そんな思いでこんな記事を書いたこともあります。

「副詞はタンポポである」も「三重の冗長性」も「前もって正確に見積もるなんて無理」もそれを書いた人たちがそこに行き着くまでのどれだけの……どれだけのあれこれを積み重ねてきたかと思うと、小説なんか読むよりよほど胸が熱くなります。

長くなってきましたが、もう少しだけ技術書というジャンルに対する、私の個人的な思いを書いてもいいでしょうか。

技術書は「とある技術」を教えたい人と「とある技術」を教えられたい人の間をつなぐものですよね。けれど商業出版の場合に難しいのが、「とある技術」を教えられたい人の数が少ないとビジネスとして成立しないということ。これは創作でも同じなのですが、ニッチなものを書くのが好きな人とニッチなものを書くのが好きな人が商業出版で出会うのは難しい。だからこそ同人マーケットがあるのでしょう。そういう場が、技術書の分野にもあったんだということに私は単純に感動してしまいました。

さっそくmochikoAsTechさんの技術系同人誌『最高のおうちオフィスではたらく ~快適なリモートワーク環境の作り方~』を買って読み、労働環境を整えはじめたという記事も書いています。

「技術書典」は現在、オフライン開催とオフライン開催、普通の対面形式の即売会と、コロナ禍になって始まったオンライン販売との、ハイブリッドで開催されています。『最高のおうちオフィスではたらく ~快適なリモートワーク環境の作り方~』はオンラインマーケットで買ったのですが、できればオフライン開催のほうにも一般参加してみたい。「でも私なんかが行っていいのかしら」と迷った挙句、昨年度の秋に行われた「技術書典13」に勇気を出して参加してみました。同じく技術書が好きそうな青木祐子さんと編集者さんを誘って……。

そして、気づいたら1万円が消えていました。

ひととおり買い物を済ませた後、遅れて到着した青木祐子さんの買い物について回ったのですが、私とはまったく違う技術本に興味を示されるのが面白かったです。ちなみに青木さんちは一年前、コミティアに行った際「作りたいですね、同人誌」と言い合っていたのですが、私がグダグダしている間にさっさと何冊も同人誌を作り、コミケにも文フリにも出てしまいました。コバルト文庫で鍛えられた作家さんたちはみんな行動力がありすぎだなといつも思います。

mochikoAsTechさんにも挨拶できました。私があまりにこの本を推していたせいか、相互フォローになってくださっていたのですが、リアルで挨拶ができ、新刊本も既刊本も手に入れることができたのでとても満足。
しかし、上の写真を見ると、mochikoAsTechさんの新刊が写っていませんね? 新刊『最高のおうちオフィスではたらく vol.2 ~快適なリモートワーク環境の作り方~』の在庫は当時の会場にはなく、あらかじめダウンロードした技術書典のアプリを使い、QRコードから「紙の本と電子書籍版」と「電子書籍版」のどちらかを選んで注文・決済、紙の本は後日印刷されて家に届くシステムになっていました。

DXがすごい

ここがおそらく技術書典が他の同人誌即売会と違うところではないでしょうか。アプリで購入した同人誌は、電子書籍版ならすぐに技術書典のプラットフォームからダウンロードできます。「紙の本」の方は後日印刷されて自宅に届きます。印刷するのは技術書典が提携する印刷所です。
つまり、一般参加側は「売り切れ」「帰りの荷物が重い」「現金が尽きた」などの不安を感じずに同人誌を買うことができるというのです。そして、サークル参加側は「在庫を抱えない」で済む上に「自分の住所を知られずに購入者に送付できる」。そういうシステムができあがっていて、しかもイベントを重ねるごとに進化しているようなのです。前回の「技術書典」にはNFTも発行されたとか……。さすがエンジニアのお祭り。

(もちろん当日、紙の本を頒布してもよし。現金で取引してもよし。サークルそれぞれが選べます)

初めて参加のくせに偉そうに語っていますが、もっとちゃんとした説明を聞きたい方は出典元をご覧ください。

「いやー面白いイベントだったなあ」と感動し、「DXってこういうことなんだな」とわかったようなことを言いながら帰った後、「創作でなくていいなら、このnoteに書いているような、自分の仕事について誰かに伝える内容でいいなら、私にも同人誌が作れるかもしれない」と思いました。そんなふわっとした気持ちをTwitterで発信したところ、mochikoAsTechさんが「技術書典は初めて参加の割合が高いですよ」という情報とともに、初めて同人誌をかく人のために技術書典が作った動画のリンクを送ってくれました。

動画を見てみると、もはや技術系同人誌を書くノウハウに止まらない、本を書くために必要な情報が満載でした。本の構造について教えてくれる第6回 「紙の不思議」を見たときは、「デビューした時に教わりたかったな……」と思ってしまいました。逆に言えば、原稿さえ書けばあとは出版社がなんとかしてくれるのが商業出版で、表紙や目次などを含むデータ全てを作ったり、印刷に発注したり、流通を選んだり、宣伝をしたり、というところまで全部やるのが同人誌なのですよね。同人作家さんはみんなすごい。

私がとくにグッときたのが、第1回 「技術書を書き始める」の回で「誰も書いてない本もいいけど、似た本があるからといって敬遠する必要はない」という言葉でした。「類書がたくさんあるほうが、むしろいろんな人に興味が示されている、実績がある分野なので有利」「同じジャンルでもいろんな本があるのはユーザーベースが大きいプラットフォームであるということ」……そ、そうだな!!! 商業出版をやっているとテーマかぶりが気になります。でも、みんなが書くジャンルはやはり強いのです。

あと商業出版をやってる人間として新鮮だったのは「MVP:実用最小限の製品を決めよう」という言葉でした。前後が荒かろうが、コアな部分がしっかり書けていれば大丈夫、というのは商業出版でもそうなのですが、あそこが雑だ、あそこが書けてない、と突っ込まれるのを恐れるあまり、完璧にしなきゃいけないと萎縮しがち。でも前後は荒くても、ワンシーンで良いから「これが書きたかったんだ〜〜〜〜〜!!!!」という情熱をぶつけている本はやはり強い。小説の新人賞を突破するのはそういう作品だと思います。

こうやってサークル参加の外堀が埋まっていきました。リアルな印刷所に行き、入稿の方法も教えてもらいました。一人では怖いので、蒼月海里さんについてきてもらったのですが、入稿の方法を必死にメモして振り返ると、蒼月さんがいない。どこへ行った? と思っていたら、別のスタッフさんについてもらってグッズを作っていました。グッズが作れることはわかっていたのでデータを持ってきたそうです。すでに同人誌を作った経験があるだけあって、用意周到……。

いよいよサークル参加申し込みをすることになり、技術書典のサイトにログインしようとしたときでした。「SNS連携済みの場合、こちらからもログインできます」という表示の下にでてきた選択肢に「Twitterのアカウントでログイン」や「Googleのアカウントでログイン」に並んで、「GitHubのアカウントでログイン」がありました。

GitHubの「Git」とは、プログラムのソースコードをバージョン管理するツールで、GitHubはこのGitをオンライン上で管理するウェブサービスなのだそうです。……さっぱり意味がわかりませんが、藤井太洋さんの「novel-writer」でもこのバージョン管理ができます。原稿をいちいち「修正前」とか「修正後」とかファイルに分けて保存しておかなくてもいいのでとても便利です。この機能を説明するとき、藤井さんが「このバージョン管理機能は、GitHubと同じで、なんたかんたら(←私には理解できない)」とおっしゃっていました。「novel-writerといっしょにGitHubの使い方も教えてあげましょうか?」と尋ねられて「いえ、脳がパンクしそうなので今日はいいです!」と断った記憶もあります。

そうか、ここは藤井さんと同じようにGitHubのアカウントを持っているのが当たり前の人たちのお祭りなんだ、プログラミングコードという私が知らない言語を操る人たちのイベントなんだ。そう思うと臆しました。どうしよう、本当に参加するの?

一年間休んで、復帰したばかりで、未知の世界に飛びこんでいる場合なの?

でも、停滞状態を打ち破ってくれるのはいつだって「えいやっ」と飛び込む行為だけだったじゃないか。自力で調べて勉強して、未経験の世界で恥をかいてボロボロになるのは、なかなかに楽しかったじゃないか。

同人誌を作るだけのことでそんなに悩まなくてもいいじゃいいかと同人作家の先輩方は思うかもしれないけど、私は保守的なのです。作家になるまで昭和の小説ばかり読んでいて編集者さんに「現代小説も読んでください」と言われたし、マックに行けばてり焼きしか食べないし、みんなが殺到しているChatGPTも「なんか面倒そう」と手を出していません。志も低めなので「朱野さんはここがピークじゃないですからね! ここからですからね!」と言われるたび「いや、もう疲れたので転職したい」と言って失望させてきました。スタバの新作にも興味ないし、運命に崖から突き落とされない限り新しいことをやろうとしないんです。失敗したくないから。
なので「行け、セルフパブリッシングの世界へ」と自分で自分を崖から突き落としてやらないといけないのです。

勇気を持って普通にメールアドレスでログイン。その先、どんな本を出そうと思っているかの企画を書く作業は、一応プロですから慣れたもんです。いや嘘です。技術書を書くことに関しては初心者なのでわりと苦戦しました。がんばって書いて申し込み終了。一週間ほどしてマイページの「当落状況」が「入金待ち」に変わり、Amazonペイで入金すると、すぐに「当選」に変わりました。わーい当選した!

しかし本番はこれからで、当たり前ですが原稿を書かなければなりません。本業の原稿を優先しながらの執筆作業なので進みは遅いですが、ラストスパートには強いので早割がきく日までに書き上がるといいなと思っていますが、ちょっと書き始めたところで「やっぱ、私にしか書けないテーマで書くべきじゃないか」と気が変わっていたりして、危ない予感がしています。

そんなこんなで技術書典にでることになりました。

オンライン開催もしているのでオンラインでも買えますが、私から直接同人誌を買いたいという奇特な方がいらっしゃいましたら、オフライン開催(5月21日@池袋)の方へ是非いらっしゃってください。技術系同人誌、見ているだけで楽しいですよ! 

昨年度開催の「技術書典13」では一般参加者も予約が必要でした。今年はどうなるかわからないのですが、日時や会場などの詳細は技術書典のサイトでご確認ください。

告知なのに長い。
終わります。