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プロの昔ばなし

かれこれ20年以上前のこと。

「プロってすごいな…」

当時、すでに撮影で生活してはいましたが
その技術を目の当たりにして

「自分はぜんぜんプロじゃないや…」

と思い知らされた時のお話。

ある大先輩との企画で
若手向け撮影レクチャーを開催することになりました。

その方は報道出身で
プロスポーツがメイン。
時に紛争地帯にも取材するほどの
ガチプロでした。

若手5人と自分、そのプロの7人で
事務所界隈をスナップしながらの
レクチャーとなりました。

当時はデジタルも出始めていましたが
まだまだフィルムカメラが主流で
仕事撮影のほとんどがフィルムです。
ので、撮影画像はその場では見ることができないので
フレーミングやらアングルやら露出やら
何かと説明に時間をかけての撮影レクチャーでした。

終盤に差しかかり

 プロ「AFって遅いし、ピント甘いよねぇ~」

と一言。

 かえる「いやいや、Canonならだいぶ速いし正確ですよ~」

当時、Canonのフラッグシップを使っていた自分は
そのAFにだいぶ助けられての日々だったので
ちょっと噛みついてみました。

 プロ「でもAFって苦手あるじゃん」
 かえる「そんときは、ほら、AF獲れるところで…」

 プロ「でもワンテンポ遅れるじゃん」

 かえる「…確かに。」

 プロ「AFは便利だし、使えるときは使えば良いけど
    MFでも撮れるようになっておいた方が
    結果残せるじゃん」

 かえる「…そうっすね。」

と、完敗でした。
ちょっと悔しかったので

 かえる「じゃあその腕前、見せてくださいよ~」

 プロ「いいよ~」

一行はローカル線が走る線路脇へ。
田舎だったので、周りに遮るものはなく
真っ直ぐの単線。
安全に配慮して、線路脇の側道で待機。
程なくして5両編成の電車がやってきました。

その時のレンズは70-200mmF2.8。
135mmで撮るとのこと。
あえて望遠端でないあたりが
憎らしい感じだったので
ちょっといじわるをして
ワイドの最至近にセットしました。

徐々に近づいてくる電車。
プロはまだ右手にカメラを持ったまま
両手はだらりと両脇。

 かえる「結構きてますよ。」

 プロ「まだまだ」

だいぶ近づいてきていて
135mmではもうそろそろ
フレーミングしておきたい距離感。

 かえる「いやいや、もう構えるでしょ!」
 プロ「まだ大丈夫だよ~」

流石にもうギリギリ!といったところで
プロはサッと構えて
ほぼ同時にズームとフォーカスを
クイックイッと操作して
一枚だけカシャ。

 一同「!!!」

 プロ「撮れたよ~ん」

その後も電車が来るたびに
同じように直前まで両手はだらり。
ギリのところで
サッ、クイッ、クイッ、カシャ。
その姿は、まるで早撃ちガンマン。

 プロ「まあまあかな。」

余裕な感じでカメラを渡されました。
みんなで現像所に直行して
その場で現像上がりを待ちます。

田舎なので30分に1本。
4カットしか撮れませんでしたが
ネガにはお手本のような電車カットが並んでいます。

電車撮影では水平は当然として
上下左右の余白が重要だそうで
左右は均一、上下は3:2程度なのだそうな。
(一般的にはそうらしいです。違ったらごめんなさい。)

4カットすべてが水平&余白比率が完璧。

ピントは拡大ルーペでチェックします。
15倍ルーペ。
ピントチェックには十分な倍率ですが
これまた全カット正面の行き先表示がくっきり。

一同、ルーペを覗いてはため息。

 プロ「AF用のファインダーは見づらいねぇ
    最後、ちょっと甘かったねぇ」

ですって!

 かえる「これって、全部目視で確認してシャッター切ってるんですか?」

 プロ「見てるっちゃ見てるけど、なんとなくね」

一同ため息。

これがフィルム&MF時代に鍛え抜かれたプロの技なのだと
打ちのめされた瞬間でした。

オート機能は便利なので
使えるときは使えば良い。
でも万能ではないから
一応、マニュアルでも撮れた方がいいじゃん。

そういうことなのですね。
しかも「なんとなく」

マニュアルを極めることが重要ということではなく
そこに至るまでの労力と、技に対する自信が
プロなのだな~ということ。
まさに機材が体の一部になっている感じ。

デジタルになっても
AIオートが進化しても

『写真が写る』

のではなく

『写真を撮る』

をしていきたいと思うのです。
しかも ”なんとなく” ね。

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