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売り上げ100万も作ったことない男が、社長に「お前が年間2億売らないと会社が潰れる」と言われて、必死に頑張っていた時に起きたある事件。




R社長との出会い


題名通りとにかく会社を潰さないためにも、1枚でも多くの洋服を売るコトに必死になって頑張っていた時に、新規で△という会社のR社長から弊社と取引きしたいとアプローチを受けました。

関東に10店舗ほどお店を展開されていて、今後も店舗をどんどん展開していきたいし、kaeneというブランドもしっかり打ち出していきたい!と仰ってくださり、展示会での発注額も初回から下代※で約100万円分つけてくださいました。

※下代とは卸値のことで上代はその商品の定価です。下代=メーカー売上げ


1円でも売り上げが欲しい時期だったので、それはそれは本当に嬉しくて、契約時に記載してもらった取引き契約書を、ドヤ顔で弊社の社長に提出したところ、


「この会社とは取引き出来ない」と一括。


え?なんで?ちゃんと契約書も書いてくれてるし、今は1円でも売り上げが欲しい時期じゃないですか?

なんでも社長曰く、その取引き契約書の書き方を見れば、何となくその会社の状況や社長の性格が見えるとのこと。

はぁ~?そんな根拠の無い超能力的なコト言われても、こっちは社長に2億やらんと会社が潰れる言われて、必死に頑張って掴んだ100万なんすよ!たった紙切れ1枚、その書き方で取引き出来ないってどういうコトですか??

私は怒り心頭で詰め寄り、弊社の社長は何時間説明しても埒が明かないと思ったのでしょう。

「分かった、じゃあお前が言う通り取引きやってみろ。その代わり何かあっても絶対に自分でケツを拭け。それから登記簿謄本※だけは貰ってこい

と言われ、取引を承諾してもらいました。

※会社やその社長の現住所等が載ってる用紙



もちろんR社長にはそんな細かいことは言わず、

「弊社の社長にも取引きOK貰いました!今後とも末永く宜しくお願いいたします!!」

と伝え、R社長も

「こちらこそ宜しく!御社のブランドを広めていくよう頑張るから!せっかくなら新ブランドとして一気に打ち出したいから、発注した商品が全部上がってきてから一括納品してよ!」

と言われたので、kaeneの商品たちが10店舗ほどある△社の店頭にドーンっと並ぶイメージを浮かべながら、そして一気に100万円というまとまった売り上げを自力で掴めた!という嬉しさも重なり、元気よく「はい!」と返事をしました。





入金が無い


約束通り、商品が全て揃った時点で一括納品したのですが、翌月の入金日を超えてもお金(約100万円)が一向に入ってこないので、電話にて


「R社長、行き違いでしたら申し訳ございませんが、ご入金が確認出来ていなくて・・・」

「あぁ、ごめんごめん!経理に入金するように伝えておくから!それより、商品売れてるよ!特に売れてる商品があるから別注(※)出来ない?」

「本当ですか?ばり嬉しいです!!出来ますので是非お願い致します!」

※別注とは形は様々ありますが、ある程度まとまった数を注文していただけるというコトなので、更に売り上げの見込みが立つコトを意味します


こんな感じでやり取りを交わし、世間知らずの私は入金よりも、また売り上げが立つだろうコトに目が眩んでいました。

しかし弊社の社長からは入金が無いことを再三詰められて、入金が無いと別注どころか今後の取引きが出来ないということを告げられたので、後日またR社長に電話をし、



「R社長・・・いつお支払いしていただけるんですか??」

「今、タバコ買ってるからちょっと待って・・・・んで、どうした?」

「いえ、どうしたではなくて、いつお支払いしていただけるんですか?」

「いや~実はさ、お金無くて払えないんだよね」

「いや、お金が無いって!?僕はR社長を信用して色々と対応してきたのに!ブランドを広げたいって言ってくれたじゃないですか!」

「それは変わらないよ。でもさ、無い袖は振れないっていうじゃん。そもそも勝手に信用したのは日永君だからね、裏切られたみたいに言われると納得いかないなぁ」


タバコは買う金があるくせに・・・悔しさやら憤りやらなんやらかんやらが入り混じって、何より目先の売り上げになびいて簡単に信用し、いとも簡単に裏切られた自分の不甲斐なさでいっぱいになりました。


「とにかく、◯月◯日の◯時に御社に集金に行くので、お金と登記簿謄本を必ず用意しておいてください!」


弊社の社長に指示されていたにも関わらず無視していた、登記簿謄本もこの時初めて伝えました。


「えぇ?福岡からわざわざ?そんな金あるなら、少しはまけてよー」



くそっ、こっちだってお金が無いのに・・・

必死に感情を抑えながら電話を切り、早速東京までの夜行バスを予約し、約束の期日に東京にある△社に訪問しました。


「本当に来たんだ!わざわざごめんねー」

その社長以外にも従業員が2人いて、相変わらず軽い口調とノリで会話が進もうとしたので、ひと呼吸置いて自ら重い空気を作ろうとするも、

「ちょっと、なんか暗いね!もっと明るくいこうよ!」と缶コーヒーを差し出され、またも向こうのペースに持っていかれそうになったので、


「とにかく、約束したお金と登記簿謄本を先ずはください」


冷静かつゆっくりとそう伝えると、


「焦らなくていいじゃん!せっかく東京来たんだし、だってこの為だけに来たんでしょ?だったら時間あるじゃん!」


冷静を保とうとするも、R社長のこの人をバカにした態度や口調に、今にも爆発しそうな感情を押し殺して、


「とにかく、お金と登記簿謄本を先ずはください」


再度そう伝えると、


「分かったよ、はいはい、ちゃんと準備してたから」と小さめの茶封筒と大きめの茶封筒を渡されたので、中を確認すると、小さい方には2万円、大きい方には確かに登記簿謄本が入っていました。


私は思わず立ち上がり


「2万円ってどういうことですか??こちらは100万円請求してるんですよ!!!」色んな感情を交えながらそう伝えると、


「別に全額払うって言ってないよね?日永君に言われた通り、お金と登記簿謄本用意してたのに、何でそんなに怒ってるの?ちゃんと約束守ったのにさー」


くそっくそっくそっ!もう全てを捨てて、人を馬鹿にしまくったこの男をぶん殴ってやりたい!でも、それじゃ自分のケツを拭いたことにはならない。。。


私はこれ以上成す術が無く何も言い返せずに、不甲斐ない自分にイラつきながら、来月は必ず全額払ってくださいと捨て台詞を吐いて、渋々その場をあとにしました。





自分で自分のケツを拭くということの難しさ


会社に戻って弊社社長にその旨を伝えると、掛かった経費も含め約束通り自分でケツを拭くように冷徹に伝えられ、とにかく先ずは自分の頭で出来る事を考えて実行しました。

とは言え、回収のための新しい発想は思い浮かばず、次の入金日が過ぎてももちろん入金が無いので、ひたすらしつこく毎日何度も、早朝から夜中まで色々な時間帯に連絡をするということしか出来ませんでした。

もちろん△社の色々な店舗にも連絡をし、特に奥様だろう人が働かれているお店には何度も電話をしていましたが、その人からもほとんど居留守を使われて、運良く繋がってもRは不在だし忙しいから捉まらないと言われ、最終的には電話がしつこい、これ以上の電話は営業妨害になると逆ギレされる始末でした。

R社長もそれ以来私からの電話を取ることはなく、一度だけメールで


「ようやく、光が、見えてきたので 近々必ず連絡入れます。

コスト削減の為事務所変更致します。
まだはっきり決まらないので必ず連絡します。」

(↑当時のメールのコピペ)


と連絡が来たので、それでも無知でバカな私は「必ず」という言葉に一縷(いちる)の望みをかけて、信じています、ご連絡お待ちしております。と返信したのがメールの履歴にしっかり残っていました。

そしてそれ以来、R社長からはあの日まで連絡が来ることはありませんでした。


もちろん弊社の社長からはずっと詰められており、私はあれだけ怒り心頭で突っ張ったにも関わらず、これ以上は成す術がなく途方に暮れるしかなかったので、情けなくもどうすれば良いかの指示を仰ぎました。


弊社の社長からは、


・全店舗に訪問し、弊社が納品した商品の引き揚げ及び、足りない分は他社の商品も含めて100万円分を回収する

・登記簿謄本に載っているR社長の現住所に訪問し、全額、もしくはその他の金品にて100万円分を回収する


ただし、法律には引っかからない方法を自分で調べて実行するように。


と、予想をはるかに上回るどう捉えても難易度の高い、ドラマティックな指示を頂きました。ちなみに金品とは何ですか?と質問したところ、テレビでもなんでもお金に変えれるもの全て、との返答でした。


ケツを拭くとはこういうコトか・・・


そして私は、これから始まる本格的な回収劇に不安を感じながらも、これを回収出来なければ明日は我が身と、その感情を拭い去り、自分で自分のケツを拭く覚悟を決めました。





回収劇、忘れられない「あの日」


私は自分なりに不良債権の回収の仕方や法律を調べ、費用対効果や現実性を考慮し、社長の現住所に訪問するコトに決めました。

そして何より、

家まで訪問したら誠意が伝わり、全額払ってくれるかもしれない

どこまでも甘ったれたカスは、最後までそんな甘い考えを抱きつつ、登記簿謄本※に記載してあった千葉県から始まる住所に向かいました。

※弊社社長は最初からこうなる事を予測して、登記簿謄本を貰うように指示したそうです


松戸駅を通過した辺りには日が暮れていて、目的の駅に着いた頃には深々と雨が降っており、冬に入った頃だったので一層寒気が増していました。

私は傘を買うお金をケチり、駅から15分ほどの場所にあるその住所目掛けて、建物の屋根伝いに雨を避け、白い息を吐きながら小走りで向かいました。


そして、R社長は絶対に電話に出られないので、予め下記の作戦を立てていました。

インターホンを押す→不在の場合→R社長に3回ほど電話する→電話に出ない→閉店間際に捉まりやすい奥様だろう人がいるお店に電話する→家に訪問していることをR社長に伝えてもらう→R社長から私に電話が来る


記載されてる住所に到着し、かなり立派なマンションのエントランスに入り、部屋のインターホンを何回か押すも、応答はない。

そして早速先ほどの作戦を実行すると、作戦通り見事にコトが進み、R社長から実に半年ぶりに着信が入りました。


「もしもし、社長ご無沙汰しております」

「お前本当に家まで来てんの?」

「(お前??)はい、登記簿謄本に記載されているマンションのエントランスにいます」



一瞬間が開いたと思いきや数秒後、突然発狂に近い叫び声が電話から響き出したので咄嗟に耳を離し、再度少し近づけて何て言ってるかを聞き取ろうとすると、


「✕✕てめーふざけんな✕✕✕待っておけよ!✕✕✕警察呼ぶからな✕✕✕✕」


そんな感じのことが聞こえ、一方的に電話を切られました。

いつもは軽くて適当な雰囲気のR社長とは思えない状態にびっくりしつつ、福岡から千葉までわざわざ時間とお金をかけて、払っていただく約束のお金を回収しに来ているだけなのに、なんでこちらがここまでキレられるのか、、、


私は間違ったことをしているのだろうか・・・


そんな気分に陥りつつも、いやそんなコトは無い、だってこれを回収しなきゃ自分の会社が倒産するかもしれないんだし、何よりこっちは何も悪いコトはしていない。約束通り納品したのに、半年以上経っても2万しか払ってくれてないじゃないか!ぶちギレたいのはこっちの方だ!


感謝されこそすれ激怒されるとは予想もしていなかったので、どうしようかと思い、おもむろにR社長の部屋番号の郵便ポストの前に立つと、1枚のハガキがポストの口に挟まっていて、


「○○ちゃん最近学校来てないから寂しいな、また一緒に、、、」


のようなコトが記載されてあるのが目に入りました。

その瞬間私はもしかして、R社長とその家族の幸せをぶっ壊しに来た悪党なのではないか?という錯覚に陥り、圧倒的な自己嫌悪感に苛まれ、その場から一時動けなくなってしまいました。

そして幾ばくかの時間が流れ、ふと遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきました。

そういえば警察呼ぶとか聞こえたけど、マジか、、

私は我に返り、何も悪いコトをしていない筈なのに、慌ててマンションのエントランスを飛び出し、白いガードレールを飛び越え、目の前の4車線ほどある大きな道路の反対側迄一気に駆け抜けて、遠くの方の木陰からエントランスを見守っていると、そのマンションの前に1台のパトカーが停まりました。

その後、また別のサイレン音が聞こえてきたので、弊社社長に電話をして事情を説明し、ここから立ち去る事の了承を得ると同時に「ただ雨の中を急ぎ足で電話をしている青年」を演じながら足早に最寄りの駅へと戻りました。




目先の売り上げだけに囚われた行く末


その日は色々とショックが大きく、現場から少しでも遠くに離れたかったので、都内まで戻り渋谷のインターネットカフェに泊まり、安い発泡酒を1本だけ飲んだことを記憶しています。


そして福岡に戻り社長に頭を下げ、何一つ回収出来なかったこと、自分で自分のケツを拭けなかったことを告げました。

社長は最初からこうなるだろうことを予測しており、資金繰りの対応はされていて、高い授業料になったと言い放ちつつも、回収の難しさ、取引相手の選定の重要さ、何よりも売り上げはただ作れば良いということではなく、回収するまでが本当の売り上げだということを、身をもって体験させてくれました。そして、自分のケツを社長に拭いてもらうという、最低最悪の結果に終わりました。


その後も諦めきれず、月に1回程のペースで電話をしていたのですが、もちろん繋がることはなく、私も日々の仕事が忙しかったので次第に連絡をしなくなりました。

それからどのくらいの月日が経ったか忘れたころに、ふと電話をかけてみると

「もしもし、、、」

とまさかの!R社長が電話に出られたので、

「ご無沙汰しております!日永です!覚えていますか?」

と繋がった嬉しさからか、なぜか元気よく伝えると、

「あぁ、、ご無沙汰しております、、、実は会社が倒産して、、直接電話で話すことを禁止されておりまして、、何かございましたら弁護士にご連絡していただけますか?多分FAXで用紙が届いているかと思いますので、、」

私の知っている、調子が良くて軽い感じのR社長でもなく、一度だけ見せた狂暴なR社長でもなく、打って変わって全く生気が無く小さな声で、かつ丁寧な口調で伝えられたので、こちらもそれにつられて、かしこまりましたと小さく返すと、

「その節は大変ご迷惑をお掛けしました、、、本当に申し訳ございませんでした」

と呟かれ、電話を切られました。



言葉では言い現わせない、何とも言えない感情が私を取り巻き、電話を握ったままその場に座り込んだことを今でもしっかりと覚えています。


弊社社長は、私との取引が決まる前からR社長の会社は火の車で、他人を信じやすそうな無知でバカな人間から商品を引っ張って、少しでもお金を回収して復活するなり辞めるなりする計画だったのだろうと言っていました。

それが事実かは分かりませんが、明確なのはR社長も私も目先の売り上げを作る事だけに囚われてしまい、お客様に喜んでいただくとか、商品に対する愛情だとか、もっと大事なモノ(本質)を見失っていたのだと思います。

もちろん当時は私も、多分R社長もそんな余裕が無かったのだと思います。





人を信じるというコト


そして私は、この経験を経て、

人や何かを信じるというコトは一見とても美しいことだけど、単に信じるというコトは、たとえ裏切られたとしても当時の私みたいに「信じてたのに!」と悲劇のヒロイン(被害者)になれる側面を持っているし、何より信じるために必要な、相手の背景や実情を調べたり疑ったりと、相手のコトを知るという面倒だけど重要な手間を省いて、楽をするために使っていた都合の良い言葉だったのではないかと思い直しました。


「信じるという大義名分を立てて、真実から目を背けている」


簡単に言うとこんな感じです。

なので私が、R社長をもっと知るコトに努め、良い意味で疑い、それらを経て本当の意味で信じれたのであれば、支払いが滞っても納得できたのかもしれないし、弊社の社長のように最初から、もしくは途中で騙されるかもしれないというコトに気付けたのかもしれません。



当時の自分にとっては壮絶な出来事でしたし、高い授業料となりましたが、甘ったれた自分に喝を入れるには本当に良い体験だったなと今でも思います。


いや、100万円で済んだと思えば安いのかもしれません。


そして2度と同じことを繰り返さないためにも、今でもR社長の名刺は、私の名刺入れの目立つ場所に入れています。


R社長、貴重な体験を本当に有難うございました。







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