介護職が天職?
認知症のあるAさんは、何度も同じ話をする。
Aさんと私は、もう1年くらい、同じお話を日に何度も、繰り返している。
「あなた、どこからきたの?」
『○○ですよー。』
「お子さんはいるの?」
『小学生が二人います。』
「あらー、いいわね!男?女?」
『上が息子で、下が娘です。』
「今度、連れてきなさいよ!それで、あなた、家は近いの?」
『○○ですよー!車で15分くらいですね。』
「じゃあ、いいわね。お子さんはいるんでしょ?」…
なんて、無限ループになって、同じ話を10回20回とされたとしても、愛想よく返答できる。
こういうのは、全く苦にならない。
ちょっと面白いとさえ、思う。
毎回、数分前のことは忘れて、初めて聞いたように、新鮮な反応をしてくれてる。
毎回、同じように私の子どもに会いたがってくれる。
Aさんの優しい人柄が、よく分かるし、なんだかあったかい気持ちになる。
何十回に1回くらい、「あれ?あなた、前もきたよね?」なんて言われたりする。
なんだかちょっと、嬉しくなったりする。
そういう時、介護の仕事は、天職だなぁ、と思う。向いてるなって思う。
ある人は、もう100歳近いのに「子どものお弁当を作らなきゃいけないから、帰ります!」と言い出したりすると、ちょっと面白いな、と思う。
息子だって、もはや80近いので、お弁当どころではないのだけれど、それでもこの人は、ずっと母なんだなぁ、と思うと、なんだか切ないような、あったかい気持ちになったりする。
突然、猫を探す人もいる。「猫がいました。あそこに!」と言って、探していたりする。もちろん猫はいないのだけれど、一緒に探してみたりする。
その人は、お家で猫を飼っていた人で、猫に会いたいんだろうなぁ、と思うと、また、なんだか、切ないような気持ちなる。
認知症のせいで、いろいろなことを忘れて、家族の名前や、ここがどこで、何月なのか、昼なのか夜なのかも、分からなくなったとしても、その人らしさは、ちょっぴり、残っている気がする。面白いな、と思う。
やっぱり、向いてるな、と思う。毎日楽しいし、天職だな、と思う。
介護の仕事をずっとやっていきたいと思う。
それでも、人員不足から、夜勤ばかりで疲れは溜まるし、ボーナスが減って、頑張りが報われない気持ちになったりする。
そういう時には、もっといい仕事があるような気がする。
ある利用者さんに、一晩中、怒られたことがあった。
「あなた、警察呼ぶわよ!!自首しなさい!!お母さん、一緒に行くから!自首しなさい!!!」
もちろん、私は警察のお世話になるようなことは、何もしていない。
それでも、何時間も怒られると、さすがに心が折れそうになる。
怒られていても、転倒する可能性があるから、目が離せず、近くにいなければならない。
叩かれたりすることもある。
夜中に、他の人の部屋に入ろうとするので、止めようとすると、怒ってしまって、顔や腕や胸をバチバチ叩いてくるのだ。
よく知らないところに連れてこられて、本人は帰ろうとしているのに、よく知らない人に静止されたら、怖いだろう、と思う。
その人も、なんとか家に帰ろうとしているのだと思う。
けれども、私たちだって、一晩中、バチバチ叩かれたら、辛い。
逆に、胸を触られたり、なぜか腕を舐められたりすることもある。
おじいちゃんに突然、腕をベロベロ舐められると、びっくりするし、気分のいいもんじゃない。
そういう時にも、もっと別な仕事が、あるような気がする。
高齢の方や障がいのある方を虐待してしまうニュースが、続いている。
私は、介護を天職だと思っているし、ずっと続けていきたい、と思っている。
それでも、虐待してしまう人の気持ちも分かるのだ。もちろん、虐待はしない、絶対。
けれど、気持ちは分かる。
理不尽なことで怒鳴られたり、叩かれたりする。それでも、転んでしまうかもしれない、どこかへ行ってしまうかもしれない、その人に危険があるとなれば、そばに居て見守ったり、お手伝いをしなければならない。
転倒してしまえば、事故報告書を書いて、ご家族に謝罪する。その人がどんなに、バチバチ叩いてきたり、暴言を吐いていたとしても、「転倒させてしまって、申し訳ありませんでした。」と謝らなければならない。
とくに、夜間は沢山の利用者さんを一人で対応するところが多いと思う。
逃れようがなくて、追い詰められてしまう。
利用者さんを虐待してしまうケースは、ニュースになったり、取り上げられているけれど、介護職が暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたり、セクハラのようなことをされていることは、あまり表沙汰にならない。
確かに、病気や障がいのせいで、その人本人は、もともとそんなことをするような人でないのだろう。
私たちの対応や適切な医療の介入で、改善できる部分もあるだろう。
それでも、利用者さんからの暴力や暴言はたくさんある。そんな中で頑張っていても、退職者が増え、勤務状況はどんどん厳しくなっていく。それでも頑張っていても、処遇も改善されないとなれば、辞めてしまうのは、当然のことだ。
介護する側も、される側も、守られながら、共に生きていけることが大切だと思う。
介護する側は、誰が守ってくれるんだろう。
介護を天職、とたくさんの人が自信を持って言える、そんな社会になると、いいと思う。
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