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海外で日本人に会いたくない日本人

 海外に長く住んでいたり海外旅行したりすると、街中で日本人に出会う機会があるのですが、日本人に会いたくない人が一定数いるようです。さて、その心情とは?
 


警戒心が強い


 私はお喋りではないですが、知らない人と会話することに抵抗感はありません。先日あるショーを観に行ったのですが、隣りの席にいたワーホリでカナダに来ていた日本人女性と帰りの電車で乗り合わせ、「楽しかったね」と、少しの間会話ができて後味の良い夜になりました。

 ただ、このように会話が弾む人は珍しく、多くの場合、海外で日本人に声をかけても怪訝な顔をされたり、あまり乗り気でない様子が分かるので、そそくさと会話を切り上げる場合が多いです。パリのロダン美術館で着物を着た日本人女性を見かけ、同じ着物好きとして声をかけずにはいられず、「素敵ですね。私も着物を着るんですよ」と言いましたが、無言で見返されバツが悪くなり、「帯が跳ねてますよ」とサッと直して立ち去りました。

 海外永住者にはこのようなタイプは少なく、どちらかというと日本人を懐かしく感じるので、むしろ海外ですぐ横に同胞がいるのに黙っているほうが居心地が悪く感じる人が多いように思います。しかし、旅慣れていない人は、「海外で声をかけてくる日本人には気を付けろ」と言われているのか、「騙されるまい」と警戒心マックスな旅行者が多い印象です。
 

海外気分に浸りたい


 まだインターネットがなかった若かりし頃、『地球の歩き方』の黄色い表紙のガイドブックを片手に1人でバックパッキングした当時は、ユースホステルで日本人が輪になってお喋りして情報交換をしていました。「あのサハラ砂漠を自転車で横断すると言ってた日本人はどうなったかなあ」等の面白い話もたくさん聞かせてもらい、当時は突拍子もない日本人バックパッカーも結構いたようです。旅先で意気投合して一緒に目的地に向かったり、食事を共にしたことも多々ありました。

 今は海外旅行自体が特別なことではなくなり、どこにいてもスマホで十分な情報を得られるので、現地語や英語が話せなくても特に困るようなことも減りました。むしろ、せっかく海外に来たのに、日本人を見かけると海外旅行の非日常性に浸れないと思い、接触を避けているのかもしれません。ですから私も、今はよほど困っているように見える日本人旅行者にしか声をかけないようにしています。
 

ウチとソトを分ける


 勇気を出して声をかけても迷惑がられると少し意気消沈しますが、これはウチとソトを明確に分ける国民性に由来しているのではないかと思います。
 日本人は昔からウチに対してはたいへん気を遣います。ウチとは、ご近所や親戚、職場の人や友人など、狭い範囲で自分が関わらなければならない、生活に密に関係する人間関係で、彼らに嫌われることを日本人は極端に恐れます。いわゆる同調圧力にはとても敏感で、ウチの人たちとは同じように振舞おうとします。一方、自分とは関係の薄いソトの人に対しては驚くほどの無関心を貫きます。

 その結果、ソト、いわゆるいつも慣れ親しんでいるのとは違う人たちに対しての免疫力が下がるのではないでしょうか。ソトの人に対しての準備ができていない人が、いきなり(同じ日本人でも)ソトの人に声をかけられるとどうしたらよいのかわからず、固まってしまうのかもしれません。
 

色々な国民性があっていいのだが


 私は、海外で同胞に声をかけられると固まってしまう日本人がダメだとは思っていません。色々な国民性があって当然で、誰もがアメリカ人やカナダ人のように陽気で、見知らぬ人とでも気軽に話せるとは限りませんし、他人と気軽に話すから親切とも限りません。他の人には気安く話しても私に対して冷たい態度を取るカナダ人同僚もいました。

 何度か長期で滞在したことのあるフランスで、フランス人もソトの人に対しては中々心を許さないことを知りました。ただ、他人の目を気にしない個人主義のフランス人と、同調圧力に屈してしまいがちで個人を尊重しない日本人という違いはあります。日本人の特徴、特に日本人女性の気遣いの細やかさや優しさは世界に誇れるレベルです。その日本人の良い部分を作ったのも国民性なので、日本人のここがダメとは一概には言い切れません。

 ただ、ソト(変化)を受け入れにくい人は、これから生きにくくなっていくのではないかと思います。ウチだけに気を取られていると、日本や海外で起こっているグローバリゼーションや、ITを中心として目まぐるしく変化するテクノロジーに付いていけなくなるのではないでしょうか。2023年度の「世界競争力ランキング」で、日本は64か国中35位で過去最低となり、その中の「変化に対する柔軟性と適応性」という項目では63位でした。日本が変化に取り残され国際競争力が低下していることを示しています。

 国際競争力だけでなく、変化を受け入れられない人は守りに入り、右傾化や保守化していき、思考の硬直化や人々の分断にも繋がります。好むと好まざるにかかわらず、日本国内でも外国人と接触する機会が増え、世の中の変化の速度はますます早くなっていきます。今まで想像していなかったソトにも対処できるように、許容力や柔軟性を上げておくことが、今後さらに必要になっていくのではないでしょうか。
 
参考:「IMD『世界競争力年鑑』2023年版からみる日本の競争力」 https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20231030.html 

この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2024年6月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-52

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