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『死んだ私と屍術師(ネクロマンサー)の契約』第1話(創作大賞2023漫画原作部門応募作品)

【あらすじ】

 OLの結衣は、仕事帰り夜遅く新宿の路地裏で、何者かに首を絞められて死んでしまう。
 絶命する時、偶然通りかかった黒髪の男が問いかけてきた。

「生きたいと願うなら、俺と契約しろ。
 俺が死ぬまで側から離れるな」

 契約すると心の中で願う結衣。
 助けてくれた男は加賀見雅人。彼は今人気のミステリー作家であり、屍術師(ネクロマンサー)だった。

 屍術師は、死人を生き返らせるわけではなく、霊力で死体に本人の魂を留まらせておけるだけで、霊力が届かないほど離れると、肉体から魂が抜けてしまうという。

 平凡なOLと、「呪われた血」と恐れられた異端の屍術師が、彼女の死んだ夜に出会ったことから始まる、恋愛ダークファンタジー。

【アピールポイント】

 この作品のテーマは「絶望的状況から生まれる恋心」です。

 主人公の結衣は、平凡で退屈な毎日を送っているOLで、ある日急に通り魔に殺されるという「絶望」的状況に置かれます。

 しかしヒーロー的存在の雅人の屍術師(ネクロマンサー)としての力で、契約者として現世に留まる事ができます。
 自分を殺した犯人を見つけるため苦悩しながらも、雅人に恋をし、少しずつ自分の置かれた状況に前向きになっていく過程を描きたいです。

 また雅人も、『呪われた血筋』と呼ばれる屍術師に生まれ、迫害されていた暗い幼少期のせいで、他人に「絶望」していました。
 人と関わらず、孤独に生きていた彼が、結衣と契約を交わし一緒に過ごすことによって、彼女の純粋さにゆっくり心を開いていきます。

 置かれた状況は違えど、お互いの存在によって、絶望的状況を打破していくストーリーです。
 コロナ禍における暗い時代を日々過ごしていた読者の方達に、側にいる人を信じること、前向きに生きることが大切だと、思っていただける物語にしたいです。

 異端の屍術師と、死んでしまった契約者の、一癖も二癖もある、切なくもときめく恋愛をお楽しみください。

 注目ポイントは2つあります。

 一つ目は、結衣と雅人の心が少しずつ通っていくシーンです。

 第一話で、夜の路地裏で絶命する結衣と、雅人が見つめ合い契約を交わす場面。
 結衣が作った食事に喜び、一緒に食卓を囲むシーン。
 常に側にいた方が契約者の霊力が増し危険が減るという理由で、同じベッドで毎日一緒に寝ることになってドキドキする展開。
 犯人との対峙中に、実は雅人と結衣は幼い頃出会っていて、ずっと一緒にいようと約束をしていた相手だったことに結衣が気づく場面。

 契約者は作らないと心を閉ざしていた雅人が、結衣だけは助けた理由が分かる、女性読者がキュンとする要素も見所です。


 二つ目は、屍術師の戦闘シーンです。
 王道のバトルシーンとは違い、屍術師らしい「闇」の戦い方をするところが見所です。

 雅人が目を見た相手を黒い影で縛り上げ、操る能力。
 二階堂の、相手の血液を注射器で抜きとり、魔法陣を描き内臓を腐らせる能力。
 犯人の、相手の脳内に語りかけ幻覚を見せる能力など、「ダークファンタジー」な激しいバトルシーンを描きたいです。

 二人の恋愛を物語の主軸に置きつつ、屍術師の生い立ちや設定、戦いも楽しんでいただきたいです。


【キャラクター設定】

・宮野 結衣(みやのゆい:24歳)

 都内に勤めるOL。長い栗色の髪に華奢な体。
 会社では真面目でしっかり者で通っているが、少し天然。恋愛には奥手。

 残業をした帰り道、路地裏にて通り魔に殺されてしまう。
 雅人の能力にて契約者(ヴァレット)となったため、常に彼の側にいなければいけない。

 クールだが心根の優しい雅人に次第に想いを寄せるが、すでに死んでしまっている自分が好きになってはダメだと悩み、葛藤する。


・加賀見 雅人(かがみまさと:24歳)

 新宿に住む人気ミステリー小説家。
 黒髪、高身長。寡黙で常に無愛想な表情。あまり人に心を開かない。
 路地裏にて倒れていた瀕死の結衣を見つけ、屍術師としての能力を使う。

 契約者とは離れることができず、なるべくそばにいる事で契約者の霊力も増すため、自分の家に招き寝食を共にすることを提案する。

 一見冷たく見えるが、結衣が昔仲が良かった初恋の幼馴染だと気がついており、なにがあっても彼女を守ろうという気持ちを秘めている。

 能力:目を見た相手を自分の言う通りに操る。


・二階堂 遼(にかいどうりょう:29歳)

 新宿の開業医。眼鏡に白衣、切長の瞳で手足が長い。
 常に笑顔で飄々としており、おしゃべり。
 雅人とは同郷出身で幼馴染。屍術師ネクロマンサーの能力を不治の病の子供達に使う。

 能力:触れた相手の臓器や血液をゆっくり腐らせていく。


屍術師(ネクロマンサー)とは…

 死者や霊を用いた術を使える者のこと。
 黒魔術師の一種。
 心臓の止まった死人と、死後6時間以内に口頭で契約を交わすことによって魂を死体に留まらせることができる。

 契約者は、従う者という意味の「ヴァレット」と呼ばれる。
 死体に本人の魂を留まらせ動かせるだけで、本人を生き返らせれるわけではない。
 あくまでも心臓は止まっており、体温もなく冷たい。

 契約者は死んだ時のまま老いることはないが、霊力を常に屍術師から貰っているため主人から離れることができない。(半径約10キロ以内)
 よって、契約者は死んだ時の年齢のまま、主人が死ぬまで側にいなければならない。

 雅人と二階堂が生まれた村は、村人みんな屍術師の純血の家系だった。
 死者を冒涜する呪われた血と迫害されてきたので、皆その能力は隠して生きている。

 稀に、黒魔術の方法を記述した禁書を見つけ、同じような力を使えるようになった「贋作」と呼ばれる屍術師もいる。


<第一話シナリオ>

新宿の雑踏。人の多い交差点の信号を渡りながら、電話をする雅人。

編集者『先生、新作の売れ筋良いですよ。そして次回作の打ち合わせですが……』

雅人「ああ」

生返事の雅人。

編集者『先生、聞いてますか?』

電話の相手には答えず、新宿のネオン街を見上げ、新月の夜で真っ暗な空を睨みつける。

<嫌な夜だな……>

高層ビルに囲まれた街並みと、雅人の後ろ姿。


■場面転換(新宿の路地裏)


結衣「ふう…もうこんな時間」

腕時計を見ると23時前。歩きながらため息をつく。


<入社して三年、やりがいはある仕事だけど…こうも残業が続くと疲れちゃうな>


細くて暗い路地裏を覗き込む。

<街灯もなくて暗いけど、この道の方が駅まで近いから、通っちゃおう>

早歩きで進んでいると、後ろから足音がする。

謎の男「お姉さん、ちょっといいですか?」

声をかけられたので結衣が振り返る。

結衣「ああ、駅だったらあっちですよ?」

声をかけてきたのは、黒いフードを深くかぶり、口元までしか見えない怪しい男。

謎の男「いえ……貴女、とても綺麗ですね」

ニヤリと笑う男。
その言葉に驚き、眉をしかめる結衣。

<やだ、ナンパ? やっぱりこんなところ通らなきゃよかったかな…>

結衣「はは、いやそんなこと……」

愛想笑いをして去ろうとしたが、自分の両手が勝手に動き、首を締めだす。

<自分で自分の首を絞めてる…!? どうして…>

路地裏の壁に背をつけ、もがく。

<く、苦しい…声が出ない…! た、助けて…>


謎の男「苦しいよね、辛いよね。でももうすぐ楽になるよ。そしたら僕と…」

男が結衣に手をかざすと、ますます自分をを絞めている指の力が強くなる。

<うう…私…死んじゃうの…? どんどん体が冷たくなっていくのがわかる…>

謎の男「いい子だ」

ゆっくりと力尽き、地面に倒れ込む結衣。


雅人「おい!」

事態に気がついた雅人が、後ろから声をかける。

謎の男「ちっ…一旦引くか」

フード姿の男は雅人の声に、足早に去っていく。

雅人「おい、大丈夫か?」

雅人が結衣に駆け寄るが、仰向けに倒れ、瞳孔は開き、ぐったりしている。

<ああ、体が動かない。私は死ぬんだ…。仕事も残ってるし、明日も早いのに…>

<ううん、そんなことはいい。もっといっぱい笑って、恋して、楽しく過ごしたかった…>

結衣の腕を手に取る雅人。

雅人「脈が止まっている。間に合わなかったか」


<死にたくない…死にたくないよ…>


結衣の頬を一筋の涙が伝う。

雅人「死にたくないのなら」

その涙を指ですくう。

雅人「俺と契約しろ。条件は、俺が死ぬまで側から離れないことだ」

結衣を覗きこむ雅人と、雅人を見上げる結衣の姿。

<――月の光も無い闇に溶けるような、漆黒の彼との出会いは、私が死んだ夜のことだった――>


雅人の瞳と、結衣の瞳のアップ。


「死んだ私と屍術師の契約」 
 雅人と結衣の扉絵


■場面転換(雅人のマンション)

ベッドで寝ていた結衣が目を覚ます。

<―――ここは、どこ?>

寝室を出ると、広いリビング、カウンターキッチンのある綺麗なマンションの一室。

<あれって現実? 思い出すだけで恐ろしい……>

路地裏での出来事を思い出して身震いをする結衣。
奥の部屋から雅人が出てくる。

雅人「起きたか」

結衣「あなたは、私を助けてくれた人ですよね?」

雅人「俺の名前は加賀見雅人だ。どうやら動けるようだな」

黒いシャツを着た雅人が自己紹介をする。

結衣「え! 加賀見雅人って、あのミステリー作家の? 本屋にいっぱい並べられてるし、ドラマ化もしてますよね? すごい、私は宮野結衣です!」

有名人を目の前にして、目を輝かせる結衣。

雅人「…そうだけど。そんなことより、自分の体を心配したらどうだ」

結衣「え?」

雅人「自分の胸に手を当ててみろ」

雅人に言われて、胸に手を置く結衣。

<鼓動が…しない…?>

結衣「そ、そんな…!」

慌てて右手で左手首の脈を触る。

<脈拍がない…そして自分の肌が、氷のように冷たい…!>

結衣「私、死んでるの…?」

雅人「ああ。信じられないかもしれないが、間違いなく君の心臓は止まっている」

結衣「じゃあ、なんで私動けるの?」

雅人「……俺は屍術師(ネクロマンサー)だ。死霊使いとも呼ばれる種族の末裔。普段はそれを隠して過ごしている」

<ネクロ…? なにそれ…>

聞いたことがない言葉に首を傾げる結衣。

結衣「ゲームとかに出てくる、僧侶みたいなことですか?」

雅人「……少し違うな。どちらかというと黒魔術師みたいなものだ」

腕を組み、淡々と説明する雅人。

雅人「俺は死体を生き返させることはできない。死んだ体に、魂を留めておくことができるだけだ」

雅人「人は肉体が死んで、一定時間が経つと魂も消えることになっている。
その間に契約をすれば、死んだ体に魂を留めることができるんだ」

路地裏での雅人の言葉を思い出す。


『俺と契約しろ』


<あれはそういう意味だったのね>

『俺から離れないことだ』

結衣「じゃあ、側から離れるなっていうのは、どういう意味?」

雅人「肉体は死んでいて、魂をそこに結びつけているだけだから、常に主人である屍術師から霊力をもらっていることになる」

雅人「契約者という意味で『ヴァレット』と呼ばれる者は、主人から霊力の供給を受け続けることで、死んだ体を動かせる。
逆に霊力が届かない距離まで主人から離れてしまうと、動けなくなり魂も消滅する」

雅人「まあ、人と契約するのは初めてだから、どのくらい離れていいのかとかはわからないがな」

話を必死で理解しようとする結衣。

結衣「今まで契約したことがなかったのに、どうして私を助けたの?」

少し困ったように目を伏せる雅人。

雅人「…目の前で人が死んでいることが、たまたま今までなかっただけだ。
そして君が、生きることを望んだから」

確かに、そんなによくある状況では無いかと結衣は納得する。

結衣「私は死んでいて、彼は私の主人の屍術師ネクロマンサーで。体に魂を留めているから、あなたから離れてはいけない…」

<頭が追いつかないな…>

雅人「まあ受け入れられないのも無理はない。それこそミステリー小説でも無いような状況だからな」

<信じられないけど、鼓動が止まっている私が動けているのが一番の証拠よね…>

雅人の横顔を眺めながら、その整った顔立ちに少しドキドキする結衣。

<加賀見雅人…彼が私の恩人で、主人なのね。なんか不思議…>

すると、リビングのテレビからキャスターの声が聞こえる。


『次のニュースです。新宿近辺で、女性の不審死が多発しています』


結衣「え!?」

二人でテレビの前に駆け寄る。

『皆、自分の首を絞め窒息していることから、事件と事故の両方で捜査をしておりーー』

立ち入り禁止のテープの貼られた新宿の街と、そこを捜査する警察の姿が映し出される。

路地裏で会った、深くフードを被った男の姿を思い出す。

<あの人が犯人だ…!>

雅人「対象者を操ることができるのだから、犯人も屍術師に違いない」

結衣「やっぱりそうですよね!」

ニュース画面を見ながら、眉をしかめる雅人。

雅人「おそらく、『贋作』のやつの仕業だ」

結衣「がんさく…?」

雅人「俺たちは生まれつき、屍術師ネクロマンサーの血筋を持つ純血の家系なんだが。
まれに、禁書と呼ばれる、術のやり方が記載された本を手に入れ、悪用する奴がいる。
ニセモノという意味の、贋作と俺たちは呼んでいる」

深いため息をつく雅人。

雅人「今回も、そんな愉快犯の仕業だろう」

結衣「見つけましょう、もっと被害者が増える前に!」

雅人「そうだな」


<そうして、平凡なOLだったはずの私は、屍術師(ネクロマンサー)の彼の契約者(ヴァレット)となり、
 生きていた時には想像もしなかった運命に巻き込まれていくことになる>


第一話シナリオ完

↓続き 第2話

↓続き 第3話


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