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『死んだ私と屍術師(ネクロマンサー)の契約』第2話(創作大賞2023漫画原作部門応募作品)

<第二話シナリオ>

<雅人さんとの出会いから数日、私はというとーー>

上司「宮野さん、今度の会議の資料よろしくね」

結衣「はい!」

自分のデスクでノートパソコンを使っている結衣。

<何事もなかったように、職場で働いていた。

 私の職場は新宿三丁目、家は中野坂上の方だと彼に教えたら、>

雅人「俺は大抵新宿からは出ない。遠出しないのであれば、君は今まで通りの生活を送って問題ないだろう」

<…と言われたから。なんだか、本当に自分が死んでいるのか信じられないぐらい日常が続いている>

同期女子「結衣、午後は年に一度の健康診断だって。一緒に近くの病院行こう?」

結衣「そうだね」


◆場面変換 病院


結衣「身長体重測って、次は血圧か」

検査着を着て病院内を歩く結衣。

看護師「…ちょっと待ってね、あれ、記録が出ないわ…?故障かしら」

ピーと機械音がして、血圧計はエラーになってしまう。

<ま、まずい。そうか、血圧測っても測定不能になるんだ!>

看護師「ごめんなさいね。先に心電図を測ってもらえる?」

<心電図? やばいやばいー!>

医師「んん? おかしいな、脈拍が感知できない…」

機械を覗き込む医師、看護師も集まってきて、患者たちも何事かと様子を見ている。

<なんだか大変なことになっちゃった…!どうしよう…!>


■場面転換(雅人のマンション)


結衣「…ということがあって、今回は病院の機械の不調ということで帰ってきたんですが…。ど、どうすればいいでしょうか」

雅人「それで慌てて俺の家に来たわけか。心臓が止まっているんだから、健康診断なんか受けられるわけないだろう?」

ソファに座っている雅人が呆れたように言う。

<確かに、胸や手首からでも、脈は無い。体温も低くひんやりしている…死んでるん、だもんね……>

結衣「でも、年に一度の健康診断を受けるのが会社の決まりですし、どうしよう……」

落ち込む結衣に、雅人はため息をつきカップを置く。

雅人「検診ができれば、病院の場所はどこでもいいのか」

結衣「え、ええまあ」

雅人「知り合いのやってる病院がある。……そこで都合をつけてもらおう」

スマホを耳に当て、どこかに電話してる雅人。

◆場面転換 二階堂クリニック 病室

<南口の近くの二階堂クリニック……ここが雅人さんの知り合いがやってる病院?>

結衣「診療時間外のようですが…」

雅人「大丈夫だ。入ろう」

真っ直ぐに診察室のドアをノックする雅人。

二階堂「はいはい、どうぞー」

診察室に入ると、白衣にメガネの二階堂が椅子に座っている。

二階堂「雅人、久しぶりに君から連絡が来たと思ったら、彼女の検診予約とは驚いたね」

雅人「彼女じゃない。契約者(ヴァレット)だ」

二階堂「初めまして、医師の二階堂遼です。雅人とは同郷のよしみでね」

白衣についている名札を見せながら、結衣に挨拶をする二階堂。

結衣「はい、よろしくお願いします」

二階堂「へえ、こんな美人さんを契約者にするなんて、雅人もすみに置けないねぇ」

軽口を言いながらニコニコ笑っている二階堂。不服そうに腕を組む雅人。

<二階堂先生、雅人さんの同郷ってことは、まさかこの人も……?>

二階堂「ふふ、そんなに見つめられると恥ずかしいな。そうだよ、僕も雅人と同じ屍術師さ。表向きは、しがない開業医だけど」

やれやれ、と肩をすくめる二階堂。

<やっぱり、屍術師なんだ>

雅人「お喋りはそこまでにして、要件は伝えただろう」

二階堂「久しぶり会ったんだから良いじゃないか。はいはい、彼女の検診結果を書けばいいんだろう? 身長と体重を教えてくれる? 他の数値は適当に女性の平均値を書いておくね」

サラサラと検診の結果の用紙にペンで書き込んでいく二階堂。

<え、そんな適当な感じで良いの?>

驚く結衣。病院名と最後にハンコを押す二階堂。

二階堂「はいできた。これを会社に提出すればオッケーだよ。来年もうちに来なね」

結衣「あ、ありがとうございます……!」

二階堂「死体が動いているだけだから、脈拍も血液もないのが不便だよね。見た目ではわからない分、尚更。お店の入り口にある体温のセンサーに引っかからないように、貼るホッカイロを常に服の下に貼っておくのがおすすめだよ」

結衣「なるほど…」

二階堂の言葉に、急いでメモを取る結衣。

二階堂「雅人。契約者にするなら、その後の生き方もちゃんと教えてあげなきゃダメじゃないか」

雅人「……急だったからな。それに、俺はお前と違って今まで一度も契約者を作ったことがない」

二階堂「はは、そうだったね」

<二階堂先生にも、契約者がいるの……?>

コンコン。(診察室のドアをノックする音)

男児「せんせー、お客さん?」

女児「お休みの時間でしょ?あそぼうよー」

二階堂「こらこら、先生は今お客さんとお話ししているんだ。部屋で待ってなさい」

男児「はーい」

結衣「あら、お子さんですか? 可愛いですね」

二階堂「いや、僕の子供じゃないよ。彼らは僕が勤務医時代に治療してた、孤児の子だ」

結衣「え……?」

二階堂「不治の病で身寄りもないまま死んでしまった子たちを、屍術師の力を使って契約者として過ごしてもらってる。一生子供の姿のままだけど、幼いまま死ぬのは可哀想だからね」

結衣「すごい、ご立派です!」

<そっか、屍術師の力の使い方ってそういうのもあるのね…!>

二階堂「はは、でも七人も面倒見るのは大変で、家は幼稚園状態だ」

結衣「な、七人?」

二階堂「魔力の消費も半端ないから大変なんだけどね」

男児「ねえお姉ちゃん、この絵本読んで」

女児「おままごと遊びしようよー」

結衣「うん、いいよ!」

子供に囲まれ、笑顔の結衣。

やれやれとため息をつく雅人に、結衣に聞こえないように小声でつぶやく二階堂。

二階堂「新宿の通り魔の被害者か、彼女」

雅人「…そうだ、よく分かったな

二階堂「わかるよ、僕は医者だよ? 長い髪でわかりにくいけど、首にうっすら跡があるだろう」

雅人「犯人はおそらく『贋作』だ。勝手なことをしてくれる」

二階堂「彼女を君の契約者にしたのは、それが理由?」

雅人「そうだ」

二階堂「本当かなぁ。今までずっと、同胞や贋作の奴らに無関心だった君が、急に?」

雅人「……」

二階堂「まあ、あまり事件にも彼女にも深入りしない方が身のためだよ。またあの頃のように戻りたくないだろう」

雅人「……分かっている」

子供と楽しそうに遊ぶ結衣を二人で見つめながら、重々しく頷く雅人。

◆雅人宅


結衣「今日はありがとうございました。おかげで、検診の結果ももらえましたし」

<偽造だからバレないか心配だけど…。子供とも遊べたし、楽しかったな>

雅人「ああ。……はぁ」

あくびを噛み殺す雅人。

雅人「昨日小説の締切で、徹夜だったんだ。少し寝る。……君はこの部屋にいてもいいし、帰ってもいい。好きに過ごしてくれ」

それだけ言うと、雅人はソファに横になり、眠ってしまった。

<疲れている時にお邪魔して、病院に案内してもらって悪かったな……>

彼の一人暮らしの部屋を見回して、結衣はそうだ、とひらめき手を打つ。


◆時間経過 雅人宅:夜


雅人がソファから目覚める。

雅人<一時間ぐらい眠ったか……>

結衣「あ、起きましたか。キッチンお借りしてます!」

エプロン姿の結衣が、ソファに座る雅人に声をかける。

結衣「もう夕飯の時間ですし、軽くご飯作っておきました。あと洗濯ものは洗濯乾燥機使って畳んであります。掃除も軽く」

畳んである衣服や、テーブルに並んだ料理を見て、雅人が立ち上がる。

雅人「食事は宅配か外食だし、週に1回ハウスキーパーを呼んでいる。君がする必要はないよ」

雅人の言葉に結衣は首を横に振り、エプロンを外しテーブルの席に座る。

結衣「遅くなりましたが、私を助けてくださったお礼をまだしてなかったなと思いまして」

<あの夜殺されていたはずの私が、こうやって普通に喋って、歩いて、笑えるだけで、すごく嬉しいんだもん>

結衣「このくらいしかできませんが…お嫌いでしたか?」

結衣の問いに、雅人が首を横に振る。

雅人「いや……ありがとう。パスタ好きなんだ、食べるよ」

結衣「よかった! スープもあるのでよそりますね」

キッチンへ向かう結衣を見つめ、雅人が昔を回想する。


<わたし、ゆいっていうんだ。よろしくね!>

幼い少女が、手を差し伸べてくれている。


雅人「……俺が必ず…」

結衣「? 何か言いました?」

雅人「…いや」

エプロン姿で聞き返してきた結衣に、小さく微笑みパスタを口へと運ぶ雅人。


<第2話 完>


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