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月の見えないよるでさえ不在の意味を探すほど孤独を愛す僕たちです
“月の見えないよるでさえ 不在の意味を探すほど 孤独を愛す僕たちです“ -Da
江國香織さん訳「更級日記」を読みました。
平安時代だから1000年近く前の40年を綴った女性の日記の中に、退屈な日や初めて物語に耽りオタクとも言える引きこもりになったり、女としていつか「君に届け」の風早くん的存在が現れてくれる夢が敗れて打ちひしがれたりと、ときめく日も退屈な日も、生まれた感情を浸透させていく快活でうつくしい女性だったのだろうとわかります。
更級日記にはじまったことではないですが、この日記には本当に2ページに1回は「月」が出てきます。月の光の強さが霞や空気の澄み方によって変わったり、あるいは同じ月の明るさでも主人公の大切な人たちとの死別や離別によってヒロインとの距離が変わります。主人公のもう一片は月なのではないかというほど、この女性は自分と相対的に月を定義することによって彼女自身を守っている。
彼女は宮に出入りし他の女性と話したり、身分の高い女性に献上する機会だって少なくはない。身分の高い男性と短歌のやり取りをしたり道端でナンパされたりもするくらい、多くの他者と関わっているけれど、本質的なところで他者にはそれほど興味がない。というか、自分と比べて現状を嘆くことが一言も書かれていないことが、ある種私の中にある黒い女性性とはかけ離れています。
では、彼女は本質的に孤独ではなかったのか。
というとそれは全く真逆だったのです。
40年を通して多すぎるぐらいの別れを嘆き、理想的な恋愛や結婚ができず、夕顔のように美しい艶やかな女性にもどうやらなれなかったらしい、そんな超現実的な悩みも彼女は一度、月の次元にまで上げ、よりスケールの大きい孤独として耐え抜きます。
傷から回復しようとする。痛みが多いからこそ、繊細だからこその生き抜く力です。
月の光の明るさに毎日異なる理由を探したい。
そして月に寄りかかってしまう心理を言い当てるある男性のセリフが、私は一番好きです。
「かえって風情のある秋ですね。月がくっきりとあかるすぎるのは、お互いの表情なども見えすぎて、きまりが悪く、面映ゆいものに違いないでしょうから」
—(抜粋)
「人は、自分の心が何かに感じ入ったとき、自分の身に印象深いことやおもしろいことがあったときに、そのままそのときの空の様子や月や花を、心に深く刻み込んでしまうもののようです。」
(一部略)—あなた方にも、春と秋にまつわるそういうご経験がきっとあったのでしょう。ということは、今夜からは、暗い闇夜に時雨がぱらつけば、またお互い心にしみて風情を感じることになるでしょう。
私にとってこの夜は、斎宮での冬の夜にまさるとも劣らないものになりました。」
--「更級日記」江國香織訳
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