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目の前のたった一人を大事にすることから始まると信じていたい。

外交の基本は、信頼である。国と国といえども人と人であり、人間関係の信頼によって成り立つのと同じだ。だから我々は、常に信頼に足る人物でなければならない。

彼ならば信じられる。そう思わせる人間になりなさい。人には誠心誠意、尽くしなさい。人は真心で動くのだから。

このタイミングで読むのはとても辛く、でも目を背けてはいけない、忘れてはいけない過去と現在を知る義務があると思いました。

「また、桜の国で/須賀しのぶ」

https://www.shodensha.co.jp/matasakuranokunide/

一九三八年十月一日、外務書記生の棚倉慎はワルシャワの在ポーランド日本大使館に着任した。ロシア人の父を持つ彼には、シベリアで保護され来日したポーランド人孤児の一人、カミルとの思い出があった。 先の大戦から僅か二十年、世界が平和を渇望する中、ヒトラー率いるナチス・ドイツは周辺国への野心を露わにし始め、緊張が高まっていた。 慎は祖国に帰った孤児たちが作った極東青年会と協力し、戦争回避に向け奔走、やがてアメリカ人記者レイと知り合う。だが、遂にドイツがポーランドに侵攻、戦争が勃発すると、慎は〝一人の人間として〟生きる決意を固めてゆくが……

読みながら、私はいかに第二次世界大戦を日本が関わる部分しか知らないんだなと勉強不足を実感しました。

何度もスマホで舞台となっているポーランドの歴史、世界大戦の時の各国の同盟国の動きを調べ時間をたくさん使いながら一冊を読み終えました。


祖国というのは、無条件で愛するものなのか、それとも縛りになってしまうものなのか。

愛する祖国が壊れていくのをなんとか止めるため、未来ある子供だけは生かしたいと切実に望むための戦いに賭す命はどれほど重いものなのか。


ポーランドにとって、日本は自分たちの敵であるドイツの同盟国です。
ただ、主人公の慎の仲間であるポーランド人はかつて日本が助けたシベリア孤児のメンバー。

たとえ今がどうであれ、過去に助けてもらった恩義は忘れない。
目の前の一人の出身国は敵国であれ、目の前の一人は自分にとって大切な、信頼に足る人物。

大きな歴史の動きのなかで、国として見るのか、人として見るのかで世界はぐっと変わるのだと当たり前だけど見落としてしまいがちなことを、何度も訴えかけてきます。

主人公の慎は、ロシア人の父を持つ日本人。
重要人物のなかには、ドイツ系のポーランド人や、ポーランド人だけど国籍はアメリカだったり、自分は一体何者なのだと悩みながらもその特性を上手く活かしていく(しかない)あたりは何度も涙が出てきます。


戦況が悪化していくにつれ、大義名分なんてあやふやになっていきます。
国や家族、友達、恋人のために戦うのではなく、ただ人間としての尊厳を守るために負けるとわかっていても戦う人がいたこと、その歴史は正しく伝えていかなければいけない。


人は他人の思想を借りて自分の思想とするかぎり、自分にも、自分の行いにも最後まで責任を持つことができない。自ら考え、自ら信じるところに従って動く時のみ、全責任を負うことができるのだ。

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私にとって貴重な体験のなかで、学生時代に(日本の部分のみですが)第二次世界大戦を日本側とアメリカ側から学べたことがあります。

高校生の時の修学旅行は沖縄でした。もちろんひめゆりの塔など観に行き学ばせてもらったのですが、
中学生の時の修学旅行(語学研修?)がハワイだったのです。

そのなかの1日は、ハワイのオアフ島にあるアリゾナ記念館に行きました。
日本の戦闘機によって沈められた戦艦からいまだに出続ける海面に浮きあがってくる油(黒い涙というそうです)をいまだに忘れることは出来ません。

心のなかで、「ごめんなさい」と思い続けていました。

日本人としてアリゾナ記念館に足を踏み入れる前は、何度も何度も引率の先生方から注意を受けました。

「日本人としていくのだから」と。
敵国である日本人の私たちが軽率な行動を万が一にもとらないように。(もちろん誰もそんなことはしませんでしたけどね)


重たい気持ちで記念館を出て、バスに向かう途中のことでした。
大柄の黒人の方が私たちに向かって「Hey」と言ってハイタッチをしてくれたのです。

日本の学生が、歴史を学びにきたのは一目瞭然で。きっと彼なりに「元気だせよ」とか「偉いな」っていう気持ちを込めてくれたんだと思います。

なんだかその気持ちがとても嬉しかったのです。
私たちを敵の「日本人」ではなく一人の人間として見てくれたような気がしたから。


きっとそういうことなのかもしれない。

この本を読み終えたあと、こんなことが現実に起きていたなんて…と思うと同時にいや、今まさに戦争中の国があるじゃないかと。
何を思っているんだ自分…と反省しながらあまりにも自分には世界が遠く感じてしまう。

戦っている彼らのことを考え胸を痛ませながらも、別の世界の出来事のようだと考えている自分がいるのはとても悲しい。

出来ることは少ないけれど、今ある現実を決して忘れないように知る努力は怠らないでいたい、と今は思います。


戦争は国と国だけど、結果人と人になってしまう。
私たちの国でも、武器がなくても人を傷つけることは出来てしまうのだ。

だからあの時、黒人の彼が教えてくれたように、まずは笑顔で目の前の人を大事にし信頼していくこと。
それはとてもとても小さいけれど今の私ができる一歩なのだと信じていたいのです。



読んでいただき、ありがとうございました。


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