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大人だって泣いちゃうよ。

大人だって泣くよ。うまく泣けない時もあるけど。

並んでいるこの本を最初に見たとき、最初に思ったことでした。

「大人は泣かないと思っていた/寺地はるな」


毎年行われる、各出版社からの夏の文庫フェア。

今年のノベルティはなんだろう~、
何が選書されているのかな~ とわくわくの時期。

私の今年の夏のフェア1冊目は
なぜか目を引かれて離せなかった表紙と
印象的なタイトルの「大人は泣かないと思っていた」


隣の老婆が庭のゆずを盗む現場を押さえろと父から命じられた翼。ところが、捕らえた犯人もその目的も、まったく予想外で…。表題作をはじめ、人生が愛おしくなる、魔法のような物語全7編を収録。

恋愛や結婚、家族の「あるべき形」に傷つけられてきた大人たちが、もう一度、自分の足で歩き出す姿を描きだす。人生が愛おしくなる、始まりの物語。

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子どもの頃、大人は泣かないと思っていた。
そんなふうに思えるほど、子どもだった。
泣くな、とは俺は言わない。相手が男であれ女であれ、誰にもそんなことは言わない。(表題作より)

大人だから。男性だから。女性だから。はたまた ”社会人として”。

どれだけたくさんの言葉にがんじがらめにされて、
「あるべき姿」と自分を比べたのだろうか。

目標だった「あるべき姿」は自分の本当に「なりたい姿」なのか。

立場、年齢、性別で分けられて、感情のコントロールだけ一人前になっていなかっただろうか。


本当に心を許す人の前だけでは泣けるけれど、それでも泣きたい時こそ笑って、笑って、笑って、誤魔化すことのほうが圧倒的に多い、年齢だけは大人の私は、
本当の気持ちすら何かわからなくなることのほうが多くて。

そんなぐちゃぐちゃな感情を優しく包んでくれる、

どんな感情も間違いではないんだよ。ってあらゆる言葉を通して教えてくれるそんな本でした。


去年の今と比べても、いろんなことが変わった。だからほんとうにわからないけど、でも遠くばかり見ないように、と今は思う。遠くを見過ぎて、目の前にあることをないがしろにしないように。
他人にどう思われようと気にするなよ、とまでは、俺は言わない。なにを人生の一大事とするかは、ひとによって違う。
「去っていかれたほうの人間が『忘れる』をやりとげるのは、大仕事です。そこに至るまでに、何度も泣いたかもしれない。・・・怪我したら痛いですよね。血も出るし、膿も出る。どんな経過を辿ってその傷が治ったかは、傷を負った本人しか知りません。他人が、治癒後の姿だけを見て『簡単に治ったんだね。じゃ、別にいいじゃない。怪我したことなんか忘れなよ』なんて言うもんじゃないと思いますね」

きっと、どこかで傷ついたり、はたまた誰かを傷つけてしまったり、、
そんな経験を経てきた私たちに、刺さる言葉がたくさんありました。

誰かがひどくて、誰かがかわいそう。ではなくて、

みんなに等しく、一人一人に光を注いでくれる、
あらゆる視点から紡がれた、とても優しい小説です。


この本を読んだ人が、ほんのちょっとだけでも誰かに優しくなれたら、
世界はもっとあたたかくなるのかも しれません。

大人だって、感情を涙で消化したくなる時が絶対あるんだから。


読み終わって、私が最初に惹かれたこの本のタイトルと表紙を見ると、
心がほっと、ちょっとだけ幸せになれたのは、嬉しい誤算でした。


ぜひ、一度読んでみてくださいな。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




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