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"アンの夢の家” モンゴメリ

赤毛のアンシリーズ6作目です。海外に旅行に行っていて読書の時間が取れず、少し間が空いてしまいました。

6作目は、アンとギルバートが結婚するところから物語が始まります。タイトルに「夢の家」とある通り、二人が住む家を中心に物語が展開して行きます。
二人は故郷のアヴォンリーを離れ、グレンという街の海辺にある家に引っ越します。海が近いだけでなく、家の周りにはアンの大好きな森も小川もあり、アンにとってまさに夢の家と言えるような場所です。

その家の周りに住むご近所さんたち(男嫌いのコーネリアさん、美人で悲しい過去を背負っているレイリー、灯台守のジム船長)とのやりとりや小さな日常の事件が起きるのですが、本作もとても読み応えがありました。

個人的に好きなのは、やっぱりレイリーが辛い過去を乗り越えてようやく本当の幸せを手にしていくお話なのですが、一番好きなキャラクターはジム船長です。灯台守のおじいさんって、もうそれだけで好きになりませんか?彼が最期を迎えるシーンは、思わず涙が出ました。

アンたちが家に入ってすぐの、ジム船長とのこの場面も好きです。

(ジム船長が、アンの家には昔どんな人が住んでいたのかを暖炉の前でお話ししている場面で)
再び沈黙が訪れ、ジム船長はアンやギルバートの眼には見えない訪問者と一瞬旧交をあたためていた。その人々は消え失せた年月、ジム船長と共にかの炉辺にすわり、たのしく新婚の喜びに眼を輝かせていたのであった。
その眼はすでに久しく教会の墓地の芝草の下や何マイルもつづく海のうねりの下で閉ざされていた。

過ぎ去った年月の夜々子供らはここで明るい笑いを投げ交わした。冬の夕はここに親しい人々が集まった。踊ったり音楽を奏でたり冗談のやりとりをしたのだ。ここで若者や娘たちは夢を描いたのだ。この小さな家には、ジム船長の記憶にしがみついて忘れられまいとする幻のむれが住まっているのであった。

古い家って、少し怖くなるようなパワーがありますよね。昔の住人の濃い歴史が、家中に染み付いている感じ。同級生をほとんどみんな亡くしたジム船長は、その人たちの分の記憶も背負っている。今は写真やSNSがあるけれど、昔の人たちは記憶に刻むしかできなかったから、逆に死者を今よりもっと近くに感じていたんじゃないかなあって、この場面を読んでいて感じました。

あと、赤毛のアンといえば森の中のイメージが強かったので、アンの新しい家が海の近くっていうのは意外!とも思った。文中に、モンゴメリが森と海をどのように考えていたかがわかる表現があります。

森というものは決して孤独ではない。囁いたり、招いたり、愛情豊かな生命に充ちている。しかし、海は偉大な魂である。絶えず何か大きな、人に分つことのできない悲しみに呻いている。その悲しみのために海は永遠に黙している。
私たちにはその無限の神秘を極めることはできない。その周辺をさまよい、畏れ、魅せられるだけである。
森は無数の声で私たちに呼びかけるが、海は一つしか声を持っていない。その壮大な音楽で私たちの魂をかき消してしまう強力な声である。森は人間的だが、海は天使長のむれの世界である。

モンゴメリはこんなふうに感じてたんですね。海よりも森の方が怖いっていう人もいるし、感じ方はもちろん人それぞれだと思います。私はどちらかというと、森の方に畏れを感じるかもしれない。でっかい木とか見ると、果てしない時間の経過と、そこにじっと立っているだけの木の凄さを感じるんですよね。

もっと取り上げたい場面もあったんですが、最後にひとつ。ラストシーンで、アンとギルバートがこの「夢の家」を去ることになった最後の場面です。

(引っ越しの準備が終わり、二人が家を出る時)
「僕たちはここでたいそう幸福に暮らしたね、アン?」と言うギルバートの声は感動に溢れていた。
アンは泣きじゃくって答えることもできなかった。ギルバートは樅の木戸のところで待ち、アンは家じゅうを歩いて歩いて一つ一つの部屋に別れを告げた。
自分は今ここを去ろうとしている。けれどもこの古い家はやはりここにいて、野趣に富んだ窓から海を見晴らしているであろう。秋風は悲しげに家の周りをふきめぐり、灰色の雨はパタパタ打ちつけ、白い霧は海から上がってきてこの家をつつむであろう。そして月光はこの家にそそぎ、学校の先生と花嫁が歩いたかの古い小径を照らすであろう。あの古い港の海岸には物語のような魅力がたゆたっていることだろう。風は依然銀色の砂丘の上を人の心を魅するかのようにひゅうひゅう吹きすさむことだろう。波はやはり赤い岩浜から呼んでいるであろう。
「でも、わたしたちはいないのだわ」と、アンは涙にかきくれながら言った。

人は人生の現在地に応じて場所を変えたり、仕事を変えたりするけれど、ずっとそこにある家や、森や海は、ただじっとそこにいて、ずっと同じ役割を全うするんですよね。すごいなあ。偉大だなあ。

本作の感想はひとつの観点から書いてしまいましたが、前段で触れたレスリーやジム船長の話など、いろんなことを感じさせられたお話だったので、もし機会があったら是非読んでほしいです!

次は7作目!早い!
ここまで読んでくれて嬉しいです。

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