見出し画像

初対面質問リストを失ったコミュ障のためのマニュアル

もう君の気を引ける話題なんて
とっくに底をついて
残されている言葉はもう
backnumber『わたがし』

真のコミュ障は初対面よりも2回目、3回目の方が苦労することは、コミュ障たちの間では周知の事実だ。

なぜなら、回を重ねるごとに初対面質問リストを失っていくからだ。底をつくのに怯えながら恐る恐る手札を切っていくように、コミュ障は会話する。

ママ友同士なら「お子さんはいま何歳ですか?」。大人の社交場なら「お仕事は何をされているんですか?」。旅先なら「どちらから来られたんですか?」。そこから話題が自然と展開していくこともあるが、展開しないことの方が多い。次々に手札を切っていき、ぶつ切りになる短い会話をぎこちなく続けるか、尋問のように1つのテーマを掘り下げていくか、コミュ障はいつも苦心する。

「え、僕もワンピース好きなんです!」みたいな僥倖に巡り合ったと思っても油断はできない。「面白いですよねぇ‥」と、消音器にかけられたような小声で毒にも薬にもならない一般論を吐き出したが最後、再び沈黙が耳元で騒ぎ始める。別の手札を切るべきか、このカードで戦うべきか。コミュ障はその判断を大抵誤る。

いつもより沈黙が耳元で騒ぐ
次に出る言葉で賭けをしているような
BUMP OF CHICKEN『ウェザーリポート』

そして切るべき手札を失えば、やはり沈黙。沈黙を避けるために、もうその相手とは会いたくなくなる。そして、こちらからは誘わなくなる(そもそも誘う勇気があればの話だが)。向こうから誘われても何かと理由をつけて断る(そもそも誘われればの話だが)。

そうこうしている間に関係性が自然消滅していく。時間が経てば経つほどに相手に今さら連絡するだけの大義名分が失われていく。そして辛うじて手に入れたLINEのプロフィールを見ても、誰か思い出せなくなる(そもそもLINEを入手できればの話だが)。

もっとひどい場合もある。それは共通の友達(コミュ強であることが多い)をハブとして、別の人と何となく一緒にいるときだ。それなりに長い時間を過ごしても、それはコミュ強が間を取り持っているだけに過ぎない。ふとした拍子に2人っきりにされたとき、今さら初対面質問リストを切り出すわけにもいかず、かといって踏み込んだ話をするほどの関係性がでいているわけでもなく、途方に暮れる。

僕(コミュ障)は、この文章を書いているうちに胃がキリキリしてきた。きっと、これを読んでいるコミュ障諸君は、似たような感情を抱いていることだろう。

だが、心配する必要はない。コミュ障はみんな同じ気持ちなのだ。沈黙が続くということは、相手もそれ相応に気まずい思いをしている。ならばこちらが歩み寄れば、何らかのアクションを起こしてくれる確率が高いのだ。

「もうお互いに会話をやめて、ヤフーニュースをチェックするなり、自分の時間を過ごしましょうね」という暗黙の了解が生まれる前に、ガンガン話しかけるしかない。どうせそんな空気の中でヤフーニュースをチェックしても、何も頭に入らないのだから。

相手が沈黙を埋めたいとすら思わないのであれば、それはもう明らかに嫌われているか、話す価値のない馬鹿だと思われている。

それでも話しかけていいと思う。興味を持たれて嫌な思いをする人はいないし、誘われて嫌な思いをする人はいない。話しているうちに、こちらが馬鹿ではないと理解してくれるかもしれない。

一度話した話題にもう一度舞い戻ってしまう場合もあるだろう。そんなときは忍法記憶喪失(RADWIMPS『05410- (ん)』)を使えばいい。「あ、そういえばその話聞きましたね!僕は記憶力が悪くてね」とコチラの非を素直に認めれば良いのだ。そして「僕なんかはもう誰に何を話したか覚えてなくて、〇〇さんは覚えていてすごいですね」と、謙遜しつつ、相手を持ち上げておけば、あれよあれよといううちに会話は続くかもしれない。

「〇〇さん」と名前を呼ぶのもポイントだと思う。コミュニケーション系の本にはよく書いていそうなメソッドだが、これもたぶん損することはない。なんて呼べば良いのかわからなければ「なんて呼べばいいですかね?」と聞く。

結局、恥を捨てることが、一番大切なのかもしれない。気の利いた会話をしようとするよりも、素直にぶっちゃける。たまに白けても、気にしない。そんなことを気にしているのは大抵自分だけか、あるいは相手は相手で自分のせいだと考えているかもしれない。

「こうすれば会話が盛り上がる」といった究極のメソッドは存在しない。何事もケースバイケースだ。だが、恥を捨てて突撃すれば、意外と何とかなるケースも多い。これは教訓にしておいていいと思う。

人間誰しも話せばわかる。目の前の人を邪険に扱うのは、案外むずかしい。その場を共にするならば、良好な関係を築きたいと思うのが普通だ。相手も人間。きっと分かり合える。

そんなこんなで、僕はコミュ障として、辛うじて生き延びてきた。天性のコミュ強との差をひしひしと感じながら、生きてきたのだ。あなたが沈黙に苦しめられているときは、僕もその瞬間、沈黙に苦しめられていることを思い出してほしい。

とっ散らかってきたが、仕方がない。コミュ障は話がまとまらないのだ。まとまりなんて気にせず、適当に話してやんよ。

強引にまとめると、まぁ頑張ろう。それしか言えない。





‥‥沈黙。






あ、じゃあ失礼します(聞こえるか聞こえないかくらいの小声、というか聞こえていない小声で)。

この記事が参加している募集

今こんな気分

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!