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第二子が産まれるので、育休おかわりしようとしたら‥

会社にめちゃくちゃ反対された。前の職場は1年取ったのだけれど、今の職場は3ヶ月とりたいという話だけでも「非常識」と言われてしまった。

なぜ反対されるのか? 曰く、「男性の育休は社会的にまだまだ浸透していないから」とのこと。調べてみると男性の育休取得率は14%程度。恐らくポーズとしての数日育休が大半であろうことを鑑みると、実質的に意味のある育休の取得率はさらに下がる。

もちろん、このことは僕が育休を取得するにあたって、なんら障害にはならない。常識を守る理由はない。それに対して法律を守る理由ならある。育休取得を打診されたときにそれを拒否することは法律違反だし、そのことを理由に不利な待遇を押し付けることも同じく法律違反だ。

故に僕が交渉に負けることはありえない。僕は「ダメと言われても勝手に休む」と言い、給料を下げるなりクビにするなり好きにしてくれ」と言った。そして、強引に育休を勝ち取った。

だからまぁ別にどうでもいいのが、それでも反対されたという事実は、何か考察すべき意味があるように感じる。

交渉のテーブルで、しきりに「なぜそこまでして休みたいのか?」と質問された。別に子育てなんて1人いれば十分可能だし、現にこ多くの母親はそうしてきたのだから、自分のキャリアを犠牲にしてまで休む必要はないのではないか?というわけだ。

僕から言わせれば、休みたいと思うことに理由など必要ない。「休みたいから休む、以上」と僕は反論するのだが、どうにも納得は得られていないようだった。

そして、「だったら仕事とか会社はどうなってもいいのか?」という、典型的1ビット脳な反論が返ってきた。もちろん僕はそんな低レベルな反論に狼狽えるような教育は受けていないので、教科書通りに丁重に返事をした。

そんな言い争いをしていると、江草さんが提唱していた勤労主義リアリズムという言葉を思い出す。

ざっくり要約すると、勤労主義リアリズムとは、仕事は他の何よりも優先すべき事項であり、それ以外に重要なことは大してないという価値観だ(この価値観は僕もたまに利用する。乗り気ではない誘いに対して「仕事だから」以上に効果的な返事はない。「仕事なんかすっぽりかして麻雀打とうぜ」と誘ってくる友達は1人もいないのだ)。

確かに、この価値観に則れば、男性がわざわざ育休を取得することは正気の沙汰ではない。故に勤労主義リアリズムが浸透している現代では、育休を取る奴は気狂いなのだ。

事実、僕が1年の育休を取得した前の職場においても、同様に育休を取る男性は現れなかったし、これからもしばらくは現れないだろう。一定以上の図太さを持つ男性しか、育休は取得できないのだ。

しかし、繰り返すが仕事を休みたいと思うことに理由など要らない。できることなら休んで子育てなり家事なり趣味なり好きなことをしたいと思うことは、僕に取って当たり前なのだ。

仮に今の世界が焼け野原であって、家を建てたり道路を作ったり、仕事を通じてやるべきことが無限にあるのであれば、勤労主義リアリズムにも一定の説得力はあるし、僕だって仕事を休もうとは思わない。だが、今の世の中に仕事を通じてやるべきことはさほど残されているようには思えない。ケインズが予言した週15時間労働は、うまくやればきっと可能だ。

自分で言うのもあれだが、僕はそこそこ働き者だ。家にいるときだって炬燵に入ってぼーっとテレビを眺めているようなことはあり得ない。あれこれと掃除をしたり整理したり飯を作ったり借りている畑を耕しに行ったりする。仕事においても、そこそこ真面目に頑張る。

だが、やる必要のないことをやりたいとは思わない。金になろうがならまいが関係ない。仕事はやるべきこととやるべきではないことが含まれる。ならば、自分でやるべきと思うことだけができる家庭に帰りたいと思うのは自然なことだろう。

もちろん、僕たちがのほほんとブルシット・ジョブに励むことができるのは、植民地の奴隷たちや薄給のエッセンシャルワーカーからのアガリがあってこそだ。彼ら彼女らを差し置いて週15時間労働を満喫することに対しては一定の罪悪感はある。しかしそれは僕のせいじゃないし。むしろ週15時間労働にすれば、趣味で大根を育てたり、魚を釣ったり、地産地消に回帰することで搾取の比率を減らせるかもしれない。だったら、やっぱり休むべきだ。

勤労主義リアリズムを終わらせる方法は、ブルシット・ジョブ論をひたすらに唱え続けることや、勝手に自給自足すること、ベーシックインカムを実現することなど、幾つかのバリエーションがある。だが、地動説が受け入れられるには天動説を信じている人が全員死ぬ必要があったように、世論が大きく変わるにはもっと時間が必要だろう。

死ぬまでには勤労主義リアリズムを滅殺したい。僕が死ぬのと同時でもいいからさ。死んでくれよ。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!