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人材の市場評価ってなんだろう

カクテル株式会社を経営されていた天野さんが会社ごとスマートニュースにジョインされたそうです。
天野さんとはまだサイボウズラボに在籍されていたときに、すれ違い的にお仕事をさせていただいたことがあります(わたしのことはビジネス寄りの人間と思われていたっぽいので覚えてはおられないかもしれません)。6年間おつかれさまでした。これからもご活躍を期待しています。

ブログの中で、大企業ではスタートアップと違い、より専門性の高いスキルが求められるので、市場から求められない使えないプログラマーになるかもしれないというようなことを書かれていました。天野さんといえばJavaScriptというプログラミング言語の鬼のような人という印象を持っていたので、少し意外に思ったのと同時に、零細企業を抱えるプログラマーの身としてとても共感しました。わたしも会社に勤めていたときと今とでは開発のスタイルはぜんぜん違いますし、インフラもアプリもフロントエンドもひとりで作りますし、画面のデザインさえも自分でやっています。プロダクトを1歩でも前に進めるために、とにかく早く動くものを作ります。知らない人が作ったライブラリをお好みにハックする術はずいぶん身につきますが、専門的なことを深くキャッチアップしている時間はないので、確かに大企業では知識が浅く仕事の荒い、使えないプログラマー(というか使えないおじさん)といわれても仕方がありません。

このところ、IT関係の人材(特にプログラマー)の市場価値が上がっているとよく聞きます。初任給で600万円という会社もあるそうですが、これでもシリコンバレーに比べるとぜんぜん安いのだそうです。先日はある企業が天才技術者に一億円の報酬を払うというニュースが話題になりました。転職したときの年収がいくらになるか診断してくれるサービスもあります。こうなってくると、プログラマーが自分の市場価値はいくらなのだろうと意識し始めるのは自然なことです(SIのプログラマーはずっと安いぞとかいう話はややこしくなるのでここではしません。それは違う世界の話です)。またここ数年で働き方の変化などからも、会社から評価されるよりも市場から評価される人材になろうという流れができつつあるように感じます。

市場から評価されるとなにがうれしいのかというと、ひとつはもっと給料が高くやりがいのある会社に転職できるというのがあります。それから、今いる会社から不当に足元を見られることもなくなり、給与交渉などでも有利になるでしょう(あなたが横領やパワハラをしていなければ)。突然会社の業績が悪くなったり、別の会社に吸収されたりすることによるリスクも低減できます。かんたんにいうと、今よりも好きなことをしてたくさんお金がもらえるようになるということです。マジでいいことしかありません。

でもちょっと待ってください。そうなるとわたしのような専門性のないイラチのおじさんプログラマーはどうなるのしょうか。または毎日部長のためにせっせとExcelのマクロを書いている新人の彼はこの先、生きていくことができないのでしょうか。わたしは、「その人が選ぶ市場による」と思っています。

まずここでいう「市場価値」の「市場」ってなに市場なのかという話があります。仮にプログラマー人材市場だとして、専門分野や使えるスキルセット、githubへのコミット頻度などでランク付けして値段がつけられているとします。はい、Rubyコミッターのあなたには1千万円の値段がつきます。でもコスプレイヤー市場では500円かもしれません。いやいや自分はプログラマーとして雇われているのだからコスプレイヤー市場で評価されても意味がない。本当にそうでしょうか、10年後にはコードを書くAI技術がめちゃめちゃ進化するか深夜アニメにものすごい感銘を受けるかして、コスプレイヤーに転職することがないという保証はありません。その瞬間あなたの価値は500円ということになります。市場評価というとなんとなく、市場さんという絶対的ななにかがあるように聞こえますが、単に、ある種類の商品にお金を出す人がいるというだけです。市場さんはいませんし、その人の絶対的な価値というものがあるわけでもありません。中の人がたまたまタイミングがあうからお金を出してもいいなと思えば評価は上がりますし、そういう人がいなければ評価が下がります。また市場によってざっくりなにを価値としてとらえるかも変わります。この先副業や兼業をする人が増えてくることを考えると、同じ人がまったく違う市場から評価を受けるというケースは当たり前になるのではないかと思います。

ついこの間、サッカー選手でスペイン代表のイニエスタ選手がJリーグのヴィッセル神戸に移籍することが決まりました。年俸は32億円と報道されていて、現在所属している世界でもトップレベルといわれるバルセロナでの報酬の3倍以上になります。移籍金がないとはいえ、世界的に見ても法外な金額です。純粋なヨーロッパーのサッカー選手市場であれば、こんな値段がつくことはあり得ません。でも日本や中国など別の市場であれば違う評価をされることがあります。イニエスタ選手が日本に来ることでJリーグ全体へに与える効果は計り知れません。どのクラブであっても、神戸との試合はイニエスタ選手を見るために常に満員になるでしょう。また楽天はあのイニエスタを獲得したということで世界的に名前を売ることができます。その一方で、野球のイチロー選手は今季からマリナーズの特別補佐に就任することになりました。日本でならもっと高い年俸をもらいかつ現役でプレーできたかもしれないですが、あえてメジャーに留まる決断をしました。ある市場から評価されるということは選択肢が多くなるということですが、人材市場では売りてが必ずしも一番値段が高い買い手を選択するわけではありません。

自分の市場評価について考えるとき、どうしても提供できるスキル(つまり自分が与えられる価値)がなにかに目が行きがちですが、市場(つまり誰に価値を与えるか)についても合わせて考えてみるとより見通しがよくなるのではないかと思います。自営業をしている人にとっては、市場から評価されるというのはごく当たり前のことです。ただ評価される対象が自分自身という人材でなく、自分が作り出したサービスや商品になっていることが多いです。この場合の市場は人材市場よりもずっと大きなものになります。自分はサッカー選手市場を相手にするのか、サッカービジネス市場かはたまたスポーツ市場を狙うのか、考えてみると面白いのではないかと思います。わたしはJリーグという市場を選んでくれたイニエスタ選手に感謝しています。

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